ブギーナイト・イン・ザ・帯広スカイ
ありがとう、王子様
観賞用BGM:https://www.youtube.com/watch?v=IgXQK9BiwQ8&ab_channel=LEVELNINE-Topic
~帯広上空~
~《ベイヤードセイバー》のコクピット~
『良し、ここなら誰にも聞こえねぇだろう』
『ホラ叫べよ、思い切り』
ゲオルグはコクピットのハッチを開ける。
イチカの前に、上も下もない夜空が広がる。
『広い……』
『だろ?』
『本来、空には限りが無いんだ』
『空が狭く見えたりするのはソイツ自身の問題だな』
『空は自分自身を映し出す鏡だ』
イチカはゲオルグから離れ、飛び出したハッチに乗る。
彼女は涙を拭かないまま振り返って言う。
『ありがとう、王子様』
『お、おう……』
ゲオルグは星明かりに照らされたイチカに、思わず心が動きかけた。
(……なるほどな)
(そりゃあのワン公も懐く訳だぜ)
(まるで夜に愛されたお姫様だな、結構可愛いじゃねぇか)
(過去や環境が酷すぎて歪んでるだけだな、こりゃ)
イチカは僅かに赤面しながらゲオルグの方を振り返る。
『あー……ハイハイ分かってるよ』
『耳は塞いでるからさ』
『好きなだけ叫べよ』
(畜生、心が揺らぎそうになっちまうから早くしてくれ)
イチカは言葉にならない言葉で叫んだ。
「──」
裏切られ、イジメを受けた時の苦痛。
父親が死んだ時の寂しさと悲しさ。
母親が自分に構ってくれず、そのまま自殺してしまった辛さと孤独。
職場で孤立し、摩耗し切ってしまった神経。
そして──
『……収ったか?』
イチカは涙と汗を拭きながら、ゲオルグの言葉に頷く。
しかし、彼女はその場で服を脱ぎ捨て、夜空へ放り出して行く。
『あ!オイ!』
『ナニしてんだ!』
全裸になった彼女はゲオルグの言葉に対し、唇に指を当てて妖しく微笑んだ。
彼女の頬には未だ涙の跡が残っていた。
『──そういう事か』
『マジで面倒臭ぇ女だな……』
『帰ったら、拳骨の一発か二発は覚悟しておくしかねぇな、もう……』
彼はイチカに向かって手を伸ばす。
『来いよ』
『異国の夜空で火遊びってのも、偶には悪くは無いな』
『……お前初めてだろ?』
イチカはこくりと恥ずかしそうに頷く。
ゲオルグは彼女へ向かって手を伸ばす。
『なら良い思い出にしてやるよ』
『10年遅れでも何年遅れでも良い』
『今だけが、お前の思い出だ』
『楽しみな、この夜を』
イチカの白く傷だらけの指は、ゲオルグの長い指とゆっくり重なった。
~同時刻~
~ホテル~
『ま、まだ懐かないとは……』
『中々難敵ですわね、このワンちゃん……!』
フェルゼンは傷だらけになりながら、ヘバるアイカを抑え込む。
部屋は既に滅茶苦茶になっており、ヒマを持て余したバカ犬が暴れたが如き状態になっていた。
(な、なんて筋持久力とスタミナですか、この無駄肉ヴァルキリー……!)
(元陸上選手の私を圧倒するなんて余程ですよ……!)
フェルゼンはアイカの耳元で囁く。
そして彼女の下半身をまさぐり始めた。
『また汗を掻いちゃいましたね……』
『一緒にシャワーを浴びませんか……?』
『お、お断りですよ!』
『私はイチカさん以外……』
『そんな事言わずに(ガシッ)』
『強制お風呂、ですっ❤️』
アイカは藻掻く。
しかし無駄だった。
『は、離せぇ~~!』
『や、止めて下さいぃぃ~~!』
(暴れる姿もカワイイですわ❤️)
アイカはフェルゼンに捕まったまま、シャワールームへ連行された。
~翌日朝~
~新千歳空港~
『道を尋ねたいのだが』
濃い青髪の青年が、空港のスタッフに声を掛ける。
スタッフはその青年の美麗さに心臓が射貫かれそうになる。
『は、はい分かりました』
『どちらまでですか?』
(え?え!?ど、どこの王子様……!?)
(凄いイケメン……)
『ゲオルグまでだ』
『はい??』
『分からないのか』
『我が敬愛なる弟にして現代最高のパイロット……』
『そして世界最高の探索者にして、子供達と私のヒーロー……』
『それが我が超格好良い弟ゲオルグだ』
『え、えと……パイロットの方をお探し、という事で……』
『えと……お客様のお名前は?』
濃い青髪の男はサングラスを外し、橙色の瞳でスタッフを見下ろす。
『ヨハンだ』
『名前を言えば分かる』
スタッフは名前を探すフリをし、空港警察へ連絡した。
ヨハンは空港の外を眺める。
『待たせてくれるな……ゲオルグ……』
『お兄ちゃんと一緒にサウナへ入ると、アレ程約束したじゃあないか……』
『全く……約束を忘れてしまったのか?』
『しかし、そういう愛嬌がある所も大好きだぞ!ゲオルグ……!』
彼が一人盛り上がっている所にやってきたのは、空港POLICEだった。
ヨハンはガッカリしたように溜息を付く。
『フー……やれやれ……』
『我が愛する弟ゲオルグの事をまだ知らないとは……』
『まだまだ我が弟の威光と知名を広める必要がある、という事か……!』
『《ミーミル・アイ》起動!』
彼の左目が光り出す。
『成る程……ルートはそこか』
ヨハンは警官達に向かって走り出す。
警官達は彼を取り押さえようとするが、ヨハンは掴みかかりを躱して走り抜ける。
『待ってろ!』
『お兄ちゃんが今!会いに行ってやるからな!!』
何と彼は空港のガラスを蹴り破り、飛行場へと飛び出す。
『来い!我が愛機!《スレイプニルランサー》!!』
『ゲオルグは近い!!』
空に複数の光臨が現れ、その中からダークブルー色の巨大な機体が降りてくる。
空港はパニックになった。
鳥もパニックになった。
《イエス・マジェスティ》
《お待ちしておりました》
ヨハンは貨物コンテナや飛行機を飛び石のように飛び移り、開いたコクピットへ飛び乗る。
『さあ!いざゲオルグ探しの旅だ!!』
『楽しくなってきたぞ!!はははははーー!!!』
彼はウッキウキでコクピットを閉じ、空の彼方へ飛び去って行った。
分かるワケねーだろ
どうなってんだこのお兄ちゃん
それに広めてるのは威光と知名じゃ無くて悪評なんだよね
ヨハンお兄ちゃん濃すぎてもう胃がもたれそう
光の狂人って感じですね。
でイチカとワンナイトラブキメちゃいましたね、王子。
フェルゼンも半ばこうなる事は分かって送り出してます。
基本的に彼女は『最後にこのフェルゼンの横に居れば良い!』なので。
それでも拳骨は避けられませんが。
フェルゼンはペットシッターとして有能過ぎる……
アイカが犬?
色んな意味で完全に犬だね、しかも狂犬。
毛並みと血統が良いだけで。
甘噛みしてくる大型犬だと思えば、可愛い物です。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
「面白かった」「次も期待している」「帯広オシャレファックキメやがったな!」「普段のイチカとギャップがあって良い」「こういうイチカ好き」「王子流石だわ……」「雰囲気良かった」
「完全にバカ犬の世話」「オラッ!風呂嫌がんな!」「フェルゼンのスタミナヤバい」
「なんだこのお兄ちゃん」「想像以上のゲオルグ原理主義者で草」「強そうなアイテムを下らない事に使うな」「あーもう滅茶苦茶だよ(空港業務が)」
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