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警備日誌と監視制御室


なるほどな、最高の宝だったよ。


観賞用BGM:https://www.youtube.com/results?search_query=Underworld++Born+Slippy+Trainspotting


 「お!高く売れそうな電子部品が沢山あるじゃないか!これはCPUとメモリか?」

「それにまた光る宝石みたいなのがあったぞ」


「……一体何なんでしょうね、これ……」

「私にはなんか……」


「……魂の結晶に見える、か?」

「私もだ。結晶化する個体としない個体が居るみたいだが、どんな差異があるんだろうな?」

「にしても、あのベルトランって男……これだけの報酬を前にして私達にくれてやるって、どんだけイケメンなんだよ。というか、これは私達への詫び料だろうな……」


アイカが心配そうにイチカを見つめる。

イチカは彼女の頭を撫でて言う。


「大丈夫だって。別に私はお前を見捨てて、何処かへ行ったりはしないさ」

「ただ、10年前ならあの男に惚れちゃってたかもな。でも、そんなヤツ早々居ないから安心しろよ」

「な!」


「……はい!♡」


~静内ダムダンジョン・B4F~


 二人は周囲を見回したが通路は一本のみで、突き当りに非常灯の薄い光が差していた。


「罠ですかね……?」


「いや、もう罠は無いと思う……」

「何となくだけど」


イチカは廊下突き当りのドアを開ける。

そして、部屋に入ると同時に、部屋が明るく点灯した。


「──っ」


そこはなんの変哲もない、制御室だった。

ITVモニター(※)や、デスクトップのパソコン、事務椅子やテーブルなどが立ち並び、棚には綺麗に資料が纏められていた。


「ん……?なんか机の上に置いてあるぞ……」


イチカは埃塗れの日誌を取り、タイトルの埃を払った。


「『警備日誌』……?」


彼女はパラパラとページをめくり出し、アイカもそれを覗き込んだ。


《○○年■■月△△日、当施設に新型の警備ロボットが導入された》

《AIが搭載されていて、まるで人間の様に受け答えをする。中々可愛い奴だ》


《○○年■●月△✕日、どうやらバッテリーがダメになってしまったらしい。業者を呼ぶか》

《その間身体でも磨いてやろう。アレ?そう言えば、専用の磨き布ってドコ行ったんだ?》


《○✕年◇■月✕✕日、最近コイツの調子が良くない。今日も壁に向かって挨拶をしている》

《せめて位置だけでも直してやらないと、コイツが……》


《✕✕年○○月✕△日、ダメだ。コイツよりもう私の方が持たない。病院で後4カ月の余命を宣告された。末期癌だ。長年の無理と奉公が祟ってしまったか》

《本社は私を退職させようとしている。だが、コイツがしっかり退役(・・)するまでは、面倒を看てやらないといけない。かつて軍に居た時も、最後まで戦場で部下を見送ったんだ。今回も最後まで……》


ここで日記は途切れていた。


「……そういう事か。そしてこのダンジョンの空間は、現代日本とは別世界だ。この世界と繋がっているように見えて、繋がってはいない」

「日本語と『軍』、『戦場』と『奉公』という言葉からも、ここは恐らく並行世界の日本かもしれない(だからこそ、あのウサギと宝石みたいな玉は謎だ)」

「軍を辞めた将校が、最後の就職先に警備長として施設警備に就いた。そして、そこの警備長はこのロボットを部下の様に可愛がっていた、という事か。でも、先に自分が末期癌で死んじまった。……悲しい話だな」


アイカは警備日誌をラップで包み、リュックへ入れながら言う。


「……なるほどな。最高の()だったよ」

「アンタが可愛がっていた警備(・・)ロボットは、最後まで立派にこの施設を護っていたぜ」


イチカは制御室へ向かって軽く手を合わせ、アイカの肩を押しながら部屋を後にした。

アイカは前を歩きながら、イチカへ言う。


「……イチカさん。最期の時って、どんな場所で過ごしたいですか?」


「自宅」

「何故なら、私はプレッパーズだからな」

「そういうアイカはどうなんだ?」


「ふふふ……♡ひ・み・つです♡」



~同時刻~

~札幌市・すすきの~

~高級クラブ・『シェイバーズ』~


「連絡取れないとか、お前……ナメてンのかい!」


頭に剃り込みと入れ墨を入れた男が、坊主頭の男に詰め寄る。


「あのさぁ、奴隷一人当たりどれだけの借金してると思ってンのかい!!」

「オドレ責任者やろうが!!そのカネ払えんのかい!!」


剃り込みを入れた男は、坊主頭の男をワインボトルで殴り付ける。

坊主頭の男は吹き飛ばされ、頭から血を流してうずくまる。


剃町(そりまち)。そんな怒るなや」

「恐らくアイツらはダンジョンで殺されたんちゃうか?」

「最近は物騒な外国人が武装して仰山うろついとるし、探索の途中でやられたんやろうな。向こうにはプロの犯罪者や退役軍人、果てはテロリストなんかもおるし」


「剣崎、オマエはこの損失を埋め合わせるアテはあるんかい!?」


顔の左半分にヤケドの入った長身の女が足を組み、白ワインをラッパ飲みしながら答える。


「あるとは言わんけど、まずは奴隷共を先に探す方が先決やろ」

「苫小牧港か函館駅で張ってれば多分見つかるで」


「じゃあさっさと手配せんかい!」


「そう言うと思うてもう手配しといたわ」

「多分後半日もあれば見つかるやろ。それまで寝ながら酒でも飲んでればええわ」

「だがな、剃町ちゃん。相手が外人ならまだマシやで。カネで手打ちが出来る。けどな、日本固有(・・・・)の怪物達相手なら、ワイらは一方的に殺されるで」


「ハッ。ダンジョンにミノタウロスでも住んでるんて言うんかい!」


剃町はハナクソをほじり、指で飛ばす。

剣崎は日本刀を肩に当てながら言う。


「……それで済めばええがな」

「剃町ちゃん。あのクラーケン(・・・・・)を退治したのは、海保でも米軍でもないらしいで」

「一人のデカい女がデカい銛持って飛び掛かり、あのデカいタコをブッ殺したらしいってハナシや。ロシアンマフィアが焼き殺したとかいうハナシもあるがな」


「ホンマに人間かいな、その女!」


「さぁなぁ。もしダンジョンで会ったら、ミノタウロス程度じゃ済まへんやろな」

「もし、ソイツがダンジョンで戦闘経験積んでるとしたら、最強の怪物であるテュフォンみたいな存在になるのも、時間の問題やろうなぁ」

「……これからは情報と人脈が命やで、剃町ちゃん。あのラテン系の銀髪も厄介や。アイツとダンジョン関連で敵対した連中は、毎回皆殺しにされとる。ったく、ここはメキシコやコロンビアちゃうで」


剃町はカクテルを(あお)る。


「……剣崎。お前相手だから正直に言うが、あの銀髪見た時は身震いしたわ!」

「《死》がそのまま服着て歩ているようなモンや。何が将来有望な青年実業家や!アイツは死神やで!」

「ワイらは生かさず殺さずやが、アイツらは火が点いたら即皆殺しや。日本人の流儀なんか関係あらへん!」


剣崎は追加のワインボトルを注文し、タバコに火を点ける。


「旭川とか大変なコトになっとるらしいしな」

「何でも、アメリカの製薬企業が雇った傭兵部隊に市そのものが占拠されとるらしいわ」

「あそこのヤクザと汚職警官達を急襲して、全員皆殺しにしたらしいで。無論半グレもや。マスコミやお役所はアメリカ人にビビッて何も言えへんって感じやし、あそこは近づいたらマズいな」


「マジか。そないなコトになってんのかいな!」


「剃町ちゃんはもっとSNSとか活用しようや」

「身体とチンポは最強なのに、勿体ないで」


「剣崎。SNSなんか活用せんでも女は食えるんや……」

「見ろ、このワイの肉体美を!」


剃町はいきなりシャツを脱ぎ出し、その見事な広背筋と腹斜筋を剣崎に魅せつけた。


「ダブルバイセップス・バック!!からの~~?」

「サイドチェストォォォ!!観てるか!!剣崎ィィィ!!」

「俺はミスター・オリンピアで優勝するぞぉぉぉぉ!!」


「ハイハイ、見とる見とる」

「キレてるキレてる、優勝出来る出来る」

(やっぱかなりのバカやわ剃町ちゃん。これで関西最強の半グレなんやから、神さんもイタズラもんやわ)


剣崎はタバコの煙を吹き出しながら、紺色のジャケットを脱ぎ、ソファーに寝転がった。


※ITVモニター:リモートで、無人の施設の不法侵入監視や、自然災害時の保安監視ができるモニター。

要は監視カメラの映像モニタですね。


ここまでお読み下さりありがとうございました。


「面白かった」「良い話だった」「このダンジョンが好きになった」「イチカとアイカの会話が良かった」「剣崎、滅茶苦茶強そう」「剣崎みたいな女好き」「剃町うるせぇ!」「剃町が筋肉バカ芸人すぎる……」「旭川の状況が想像以上にヤバい」


と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。


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