『国境治安維持隊』創設
全てを握るチャンス……
こういうのって意外と早く来るものなんですねぇ……(ニチャァ)
観賞用BGM:https://www.youtube.com/watch?v=kAwPe_ZUtmQ
《甘ェぜ、サムライ!》
マルティーニは上杉の手首ごと《毘沙門剣》を蹴り上げる。
刀が宙を舞っていく。
「な……!?」
《スーツサムライガール!!》
《もうオネンネ&ベッドタイムだ!》
《ダハハハハハハハハッ!!》
彼は身体を回転させ、上杉の頭部へ強烈なハイキックを放つ。
彼女はガードごと吹き飛ばされ、壁を吹き飛ばしながら貫通する。
(な、なんて平衡感覚と反射神経……!!)
マルティーニの残像が加速し、八方向から上杉へ襲い掛かる。
「やれやれですねぇ」
「《赤鬼青鬼》、《がしゃどくろ》、《ぬりかべ》」
「あのストレートバカを護ってください」
上杉の周りに妖怪達が生え、マルティーニの攻撃を受け止める。
《ファゥ!!ジパングドール!!》
《コイツァ厄介だなァ!!》
《ダハハハハハハハハァッ!!》
妖怪の数は尚も増え続ける。
巨大なカランビットナイフが髑髏をバラバラにする。
『マルティーニ』
『ココガ潮時ダ』
『続キハ北海道デヤレバイイ』
『私達ノ目的ハベルナルドノ首ダ』
《そろそろお開きか!》
《レゼルヴァ!!カネは!?》
褐色の頬がニタリと歪む。
『十分ダ』
『コレダケアレバ、ベルナルドヲ殺ス為ノモノハ揃エラレルダロウ……』
《ダハハハハハハハハッ!!》
《と、言う訳だ!!ジパングドール!!》
《サヨナラだ!》
マルティーニは黒いコートの裾からスタングレネードを転がす。
そして、四十万達に向かってグレネードを蹴り飛ばした。
辺りは数秒間閃光と音に包まれる。
「……やられましたねぇ」
「これは……」
「終始相手のペースだったどすなぁ」
「もう帰って良いですよ京都に」
「実家も大騒ぎになるでしょうし」
「まぁねぇ」
「でもヘタに生き残ってしまった人が面倒やわぁ」
「口封じした方がええ?」
「それは大丈夫ですよ」
「生き残りはリンと大道に確保させてますから」
「向こうも何人か死んだようですねぇ」
「抜け目無さ過ぎてイヤんなるわぁ、この愚妹」
「……モールスどすなぁ?」
「一々ネタバレしなくて良いですから」
「まぁ私にとって本当の勝負はここからです」
張本が四十万の行く手に塞がる。
九子はひしと彼の腕にくっつく。
「……次の男は張本さんですか」
「幾らアナタでも無理だと思いますがねぇ《ハリー》は」
「この人の仕事に掛ける情熱は……」
「──やめろ」
「四十万警視」
「この女性は仕事のパートナーとしては信頼出来る」
「性根は兎も角、行動や対処は確かだ」
九子は意地悪そうな笑みを浮かべる。
「そうですか」
「なら私からは何も言いません」
「しかし、その女狐にはくれぐれも注意して下さい」
「人生を破壊された男は両手の指じゃ利かないので」
四十万は張本を避けて通ろうとする。
「……これから何をする気だ」
「私の目的の為、この好機を生かします」
「まぁ、アナタにとって悪い事にはなりませんよ」
「それだけは保証しますから」
彼女は張本の手をすり抜け、通路へ向かって行った。
九子は尻尾をフリフリさせる。
「と、言うワケで……」
「私のマンション行きましょか?(ピコピコ)」
「まだ現場確認が残っている」
「それに……」
張本はレゼルヴァに斬られた部下へ手を合わせる。
「今はそんな気分にはなれない」
「この仕事を続ければ続ける程に、親しい人間達を失っていく」
「俺に残ったのはこのバッジと手帳、そして階級だけだ」
「張本はん……」
「死者に引き摺られてはならしまへん」
「アンタの行動原理が狂いますえ」
「……見たのか」
「そういう人間を」
「見たも何も……」
「妖子はんが一番執着してる人間がソレどすえ」
「……意外だな」
「四十万がそこまで執着する人間が存在するとは」
「妖子はんはその子が全ての基準なんどすえ」
「そやさかい、なんもかもが物足らんのどすえ」
「……難儀だな」
「ええ、難儀な妹なんどす❤️」
~1階ロビー~
「あっ」
「警視が来たにゃ」
「お疲れ様です!警視!」
四十万は生き残った招待客達を他所に、褐色の死体を見つめる。
「……メスティーソですか」
「銃は『インベルIA2』。そして南米系の犯罪シンジケート……」
「いえ、もっと規模は大きそうですねぇ」
そこへ太った初老の男が現れる。
「君!」
「警察はこの事件に対してどういう始末を付けるつもりかね!」
「「「そうだ!そうだ!」」」
(安全になったと分かると直ぐコレですからねぇ)
(少し脅しますか)
四十万は非常口を見ながらニタリとする。
「まだ敵は外に居るかもしれまんせよ?」
「壁をすり抜けるナイフを投げて来る敵も居ましてねぇ……」
「いやはや、恐ろしいモノでした」
「き、君ィ!」
「わ、私に脅しを掛ける気かね!?」
「事実と推測と感想しか述べていないのですがねぇ」
「おお、怖い怖い」
「発言に気を付けないと、罪を擦り付けられてしまいそうですよ」
四十万の眼は言葉よりも本音を語っていた。
お前達が無事に生きていられるのは私達のお陰、だと。
「……何か要求があるようだな、四十万警視」
「はい。その通りです」
「山金議員」
「流石ですねぇ、生き残りに関しては」
一際立派な体格の男が、太った男を押し退けて前に出て来る。
髭と白髪の間から、鋭い目がチラチラ光る。
「儂はかつて角栄先生に師事していたが……」
「その時先生から聞いていた《戦後》より今の状況は酷い」
「武装した外国人が東京でここまで暴れるなど、な」
「マルティーニという男に心当たりはありますか?」
「『寝業の山金』なら知ってると思うんですがねぇ」
「……奴はカラビニエリの元将校だ」
「大規模な汚職に関わり、上司を殺害して海外へ逃走した経歴のある男だ」
「今は世界規模の巨大犯罪シンジケートをある男と共同で率いている」
「……エラルド・ヒネスですか。こっちは有名ですねぇ」
「裏にあのレベルの協力者が居れば……」
「そりゃ刑務所の中でも強気になれるワケですよ」
「……そろそろ脱獄するだろうな、あの男は」
「いずれ日本へ来るぞ」
「さて……どうしたいんだ?警視」
「北海道の問題へ対処する為の治安部隊創設です」
「司令官は無論この私……四十万が担当させて頂きます」
「フー……」
「20代の司令官など議員達も官僚達も納得させられない」
「警視の時点で、既に異例の出世だ」
「前例など無意味ですよ。この状況では」
「マルファやアーデルハイドを相手にするには、これぐらいでないと」
(対イチカはそれ以上の事態だと思ってますけどね)
「……成る程な。そして世論は反対しないだろう」
「だが、失敗即ち死だ。クビでは済まない」
「覚悟は出来ているのか?」
「無論」
「……なら良いだろう」
「早速議員達を突いてみようか」
「だが、儂の口約束を信じてくれるなよ」
「感謝します」
「では説明を」
(権力者の口約束を信じるのはバカだけですけどねぇ)
四十万はリンと大道に目配せをし、周囲を警戒させる。
「人員は自衛隊の政府派部隊、海保、各都府県警から」
「目的は地方における重要拠点の警備と治安維持(建前ですがね)」
「その為の部隊創設を提案します」
「……大きく出たな、警視」
「部隊名はどうする」
「中身ではなく、ガワを重視する世の中だからな」
「私はこの部隊を『国境治安維持隊』、と名付けようかと」
「あくまでもまだ絵に描いた餅ですが」
「発想自体は悪くない」
「反対も出にくいだろう」
「で、本格的な部隊の始動は何時にする積りだ」
「凡そ半年後」
「部隊統合・装備の購入・更新や新規人員の募集・訓練……」
「諸々を見込むとその位の時間が必要かと」
「予算は?」
「初期コストの見積りは約1兆2000億円」
「しかし、北海道に独立されるよりは遥かに安いかと」
場がどよめく。
「北海道とそれに裏で協力する東北の一部都市に対する制圧作戦……」
「本当の目的はそこか」
「はい」
「如何にも」
「あい分かった」
「まずは同派閥の旧友から働きかけてみよう」
「今回の事件を話せば動かせる」
「部隊設立法と関連法の通過は何時頃に?」
「早くて2週間後だ」
「今回の事件を知れば、皆尻に火が付くだろう」
「米国からも支援の打診があるだろうしな」
「……四十万」
「はい」
「一歩間違えれば日本人同士の絶滅戦争だ」
「塩梅を間違えるなよ」
「お前自身が怪物にならぬよう肝に銘じておけ」
「はい」
「承知しました」
(ふふふふ……)
(少々早かったですが……)
四十万は指を鳴らし、リンと大道を避難誘導へ当たらせる。
(全てを握るチャンス……)
(こういうのって意外と早く来るものなんですねぇ……(ニチャァ))
彼女は人形のような綺麗な顔を汚く歪ませた。
笑い方きったねぇなぁ……
公安7課は2週間後より『国境治安維持隊』となります。
人員の定数は50人から5000人に急拡大します。
更に管轄も警視庁から内閣府直属となります。
マルティーニの起こした事件は日本の上層や中枢へ深刻なダメージを与え、危機感を呼び起こしました。
これに伴い、事件で活躍した四十万は一階級昇進するでしょう。
そして治安維持隊の指揮官へ内定しました。良かったね。
四十万はマルティーニへ感謝した方が良い。
何故なら奴のお陰で彼女の権限が飛躍的に増大しそうなので。
『国境治安維持隊』には自衛隊の政府派部隊、海保、各都府県警から人員を集める予定で、地方における重要拠点の警備と治安維持を行う……
と四十万は嘯いています。
もう実際は準軍事組織です。
実態としてはCIS諸国(特にウクライナ)の内務省軍に近いかなぁ。
ただ、ロシアでは国内軍とその他武力組織が統合して国家親衛隊に成長しています。
つまり、四十万は強力な私兵軍を創設する布石を打ったワケです。
武力の掌握こそが権力掌握の基本なので、方針としては間違っていません。
自衛隊の政府派部隊は主に西日本や中部の部隊、空挺団、特戦群、水陸機動団そして海自です。
反政府が北部と東北の一部です。
中立が東部と中央即応連隊、航空自衛隊です。
大陸が近い西日本では体制維持への危機感が強い、とも取れます。
実際に事件が幾つか起き、首都圏とは住民レベルからして意識が違います。
特に水陸機動団と空挺団、海自は大陸の混乱を真に受けたので、反政府的な北海道の動きに対してかなり強硬です。
『国境治安維持隊』の本格的な北海道・東北制圧作戦開始は、統合訓練・装備の購入・更新や新規人員の募集・訓練もあるので半年後ぐらいになる、とも説明しています。
アメリカ(反大統領派)からの支援も入りそうです。
四十万は本気で北海道を中央政府の支配下に置く気です。
多分前々から構想していましたね、彼女。
でなければ即答なんか出来ない。
でも動機の根源が『カッコ良くも情けないイチカを支配下に置きたい』、なんだ。
愛されてますねぇ。
いや、いらねぇわこんな拗けた愛。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
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