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はじめてのダンジョンボス

排除シマス。排除シマス。


~静内ダムダンジョン・B2F~


 「イチカさん!なんか宝箱みたいなの発見しました!」

「どうしましょうか?」


イチカはアイカが指さす方向の宝箱をジッと見る。


「……罠かもしれない」

「今の私達が開けるのは危険だな。もしかしたら爆発物が入っているかもしれない」

「映画で見たけど、ベトナム戦争でアメリカ兵が土産物漁りして、良く引っかかって死んでたし」


「……そういう解錠とか罠解除の専門職が出て来そうですね」

「なんか、ダンジョンって滅茶苦茶経済を活性化させるんじゃないでしょうか?」


「かもな。元鍵屋とか爆発物処理班とか、空き巣とか、窃盗犯とかの再就職先としてはアリだ。電子錠があるなら、ハッカーも参入してくるかもな」

「後者の連中は北海道来る前にムショ送りになりそうな奴が多いが、もしこっちへ来れたら奴等の天下になる」

「ただ、グループ同士での抗争も起きる。基本的にダンジョン内は無法っぽいから、暫くは大変だろう。ダンジョンの外が先に無法になってきた感あるが」


イチカはライトを階段の下へ照らし、B3Fへの状況を上から確かめる。


「……良し。先客は居ないな」


彼女達は慎重に階段を降りて行く。


「……雰囲気が違うな」

「ウサギ共が出て来た所とは、まるで場所の状況が違う」


アイカはライトで壁を照らす。

壁には幾何学模様が入り、赤いライトやレンズが点滅していた。


「備えろ。アイカ」

「ヤバイのが来る」


アイカは頷き、通路の奥を見る。

無機質な機械音と足音(・・)が通路に響き渡る。


《所属ト職員名ヲ告ゲテ下サイ》

《サモナケレバ排除シマス》


4つ足の警備ロボットが、両手にガトリング銃を携えながら姿を現した。


「今はプレッパーやってます」

「先月まで建築設計と施工管理やってました」


《照合不可。排除シマス。排除シマス》


アイカは問答無用でソードオフショットガンを、警備ロボットに対してぶっ放した。


《損傷。損傷。ダメージ率40%以上》

《第二排除モードへ移行シマス》


「うわっ!?変形してますよ!イチカさん!」


アイカが更に放った弾は、変形後に展開されたアーマーで弾かれる。


「イチカさん」


「うん?」


「取り敢えず有利な位置まで逃げましょう!!」


「……だな!」


二人は一斉にダッシュし、ダンジョン内を逃走していく。


「ヤベェってアレ!!」

「オイオイ!!一個小隊以上の火力あるぞあの排除ロボット!!」

「うぉっ!?ミサイルまで飛ばして来やがった!!」


イチカはアイカを抱え、物陰に転がり込む。


(マズいな、生体と違って敵の装甲を突破する手段が無い……!)

(EMP系の武器でもあれば別だが、そんなのおいそれと入手できるモンじゃない……!)

(どうする、考えろ、打開の手立てはあるハズだ……!!)


その時、別の装甲音が通路の奥から聞こえて来た。

黒いパワードスーツを身に纏った大男が、大きな合金製の盾を構え、銃撃を受けながら前進していく。

排除ロボットはミサイルを放ったが、大男は巨大な盾で爆発と爆風をあっさりと防いだ。


「うぉ~~……スゲェ~……!!」

「まるで重戦車だな……!!」


そして、大男は素早くダッシュし、排除ロボットへ盾でぶつかった。

排除ロボットは衝撃でよろめき、体勢を崩す。


『ユルゲン。ありがとう』

『絶対外さない!』


対物ライフルの轟音が通路に響き、排除ロボットの頭部が吹き飛ぶ。

だが、ロボットは尚も射撃を続けようとする。


『させません!!』


ユルゲンと呼ばれた大男は、ロボットへタックルし、床へ押し倒す。

そして馬乗りになり、猛烈なラッシュをロボットへ加える。


(──!!アイツは総合格闘技の経験者か、元警官だ!!)

(盾の使い方といい、身体の運び方といい、間違いない……!)


豪雨のような彼のパウンドでロボットの動きが緩慢になり、機能を停止していく。


《排除……排除……今日モイイ一日ヲ……アリガト……》


『……どうやら停止したようです。ティエラ。ベルトラン』

『あと先客(・・)が居ます。団長へ報告しますか?』


黒いパワードスーツを纏った大男は盾を構えながら、イチカ達の前へ現れる。

そして通路の奥から、若い茶髪の男と、対物ライフルを背負った赤髪の少女が現れる。


『いや、その必要は無いだろ』

『現場の交渉や指揮は俺に一任されてるし』


若い茶髪の男はイチカの前へ立ち、両手を差し出し、スペイン語でイチカ達へ言う。


『危なかったな、綺麗なお嬢さん達』

『今度から機械系の敵にも気を付けろよ』


イチカとアイカは目を見合わせながら、手を取って立ち上がる。


「ま、マイネーム・イズ・アイカ……」


茶髪の男は、澄んだ青い瞳と真っ白な歯をキラリと見せながら笑う。


「大丈夫だって!ある程度は日本語が分かるさ!」

「何せ頑張って勉強して来たからな、日本語!」

「俺の名前はベルトラン。宜しくな、お嬢さん達(シニョリーナ)


イチカは男の手を握って言う。


「私はイチカだ。フルネームは香坂イチカ」

「隣のコイツはアイカだ。こちらこそ宜しく」 

「(やっべぇな……!クッッッソイケメンじゃん!10年前の私なら惚れちまってたぞ……!)」


アイカも大人しく、ペコリと頭を下げた。

赤髪の少女がアイカを指差し、何事かスペイン語で騒ぎ始める。


『知ってるよ!!私知ってる!!』

『アイカだ!!ハポンのアタランテ!!』

『動画で見てた!陸上でも射撃でも金メダル確実って言われてた!』


そして少女はどこからサインペンと手帳を取り出し、アイカの前へ差し出す。


「サイン、クダサイ!」

「私モオリンピック、目指シテルンデス!」


アイカは一瞬ピクッとなって表情が硬直したが、直ぐに笑顔になってサインを手帳に書く。

赤髪の少女は跳び上がって、鹿の様に飛び跳ねた。


「……お前、陸上でも有名だったんだよな……」


アイカは無言で頷く。

それを見たベルトランはアイカに話し掛ける。


「スマン。ティエラが失礼なコト言ったか?」


「……いえ」

「なんだか眩しいなって……」


「……アイツはスラム育ちで、親は犯罪に巻き込まれて死んだ」

「お嬢さんを動画で見て、その活躍を見る事だけが日々の楽しみだったんだぜ」

「この国に来たのは、オリンピックへ出る為の資金稼ぎだよ。練習や選考大会に出るのは金が掛かるからな……」


「…………!!」


アイカは目を見開き、大男に向かって喜びながらサインを見せる少女を、申し訳なさそうに眺める。

男はアイカの肩を叩き、優しく言う。


「……まぁ、お嬢さんに色々あったのは、パッと見れば分かる」

「でも、アイツの夢だけは壊さないでやってくれないか?」

「いきなりで悪いとは思うけど、さ」


アイカは涙を堪えながら、イチカの肩に顔を埋めた。

イチカはベルトランへ言う。


「アンタ、かなりデキたヤツだな……」

「女にもかなりモテるだろ」


「ハハハ。まぁな」

「女優とも付き合った事があるし、女性検事とも一晩寝た事があるぜ」

「お陰様で、刑務所には4カ月以上入っていた事が無いんだよな」


「……突っ込んだ事を聞くが、アンタは何の罪で捕まったんだ?」


「窃盗」

「主に悪徳企業家や不正を働いた銀行が標的だったんだぜ」

「カッコ良いだろ?俺」


「ロビンフッドみたいだな、アンタ」

「いや、これはマジでモテますわ」


イチカとベルトランは顔を見合わせ、互いに笑い合った。

そして、ユルゲンがティエラを肩の上に乗せ、ランチャーとガトリングを抱えながら、ベルトランへ言う。


『このダンジョンのボスは恐らくこのロボットでしょう』

『素材はどうしますか?』


『う~ん……そのガトリングとミサイルランチャーだけ貰って帰るか』

『後は大したモノもなさそうだ。宝箱も罠だらけだったし』

『なにより、この二人と会えた事の方が、遥かに収穫だった気がするな』


『そうですか。では帰りましょう』

『ティエラがこんなに喜ぶなんて、初めて見た気がします』


ベルトランはニコッと笑うと、ユルゲンの背中を軽く叩き、イチカ達へ手を振ってダンジョンを去って行った。


「さ!私達は私達の探索(・・)を再開しようか!」

「まずはあの排除ロボットの剥ぎ取りからだ!」


イチカはしょげるアイカの背中を、優しく叩いて言った。

アイカは涙ながらに頷き、イチカと一緒に歩き出した。


ここまでお読み下さりありがとうございました。


「ロボットの殺意が高すぎる」「初心者用ダンジョンには出来ないなこれ……」「探索者にも善人居るんだな……」「ユルゲンすげぇ……」「ティエラかわいい」「ベルトランのイケメンオーラ強すぎる」「三人のパーティーバランス良い」「アイカ……」


と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。

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