ダンジョン町中華(中編)
楽園、楽園、ここです……
「おわっ!?ヤニ臭っ!」
「チャーシューに臭いが移ってる!」
「スマンスマンつい驚いてもうて……」
「てかそんな臭いするか?」
「完全に燻製状態だよ……」
「料理変わっちゃってるってコレ」
そう言いながらも、ハルカはそのチャーシューを食べる。
『た、食べるの!?ソレ!?』
『どうなってるのかしら、この日本人達……』
エレナは卒倒しそうになる。
レイカはハルカの隣に座り、胸元を開けて嗅がせる。
「ホラ、こっちは良い匂いするやろ?」
「えっあっ、ホントだ……」
「なんで??」
「企業秘密や」
「聞きたかったら100万円や」
「そんなカネ、私が欲しいんだよね」
「で、こっちはどうや」
レイカはハルカに向かって息を吹き掛ける。
「お"わ"ぁ"っ」
ハルカは鼻を抑えて悶絶する。
「んなバカな」
「何かの間違いやろ」
そしてレイカはエレナ向かって息を吹き掛ける。
『あ"ぁ"ッ"』
エレナの意識が一瞬飛ぶ。
「おいおい……」
「どうなっとるんや、コレは夢か?」
レイカはアイカに近づいて息を吹き掛ける。
アイカは笑顔で言う。
「ドブみたいな臭いがしますね」
「殺しますよこのxxxxx」
「ドブぅ!?」
「いっちゃん!」
「困ったら私だよな、レイヤん(二コツ)」
「い、いっちゃんの笑顔怖いわ……」
レイカはイチカへ口元を近づける。
直後、イチカはレイカの唇を奪った。
「「「!?」」」
そして唇を離す。
「大丈夫」
「ヘンな臭いしないよ、レイやん」
「ふあっ!!??」
「ま、まさかマジでワイに惚れちまったんか……?」
「殺す」
「殺したいですねぇ~」
「殺しますかぁ~~」
「闇の三段活用やめろ」
イチカは水を飲みながら答える。
「別に惚れたとかじゃなくてさ……」
「色々助けてくれるし、これぐらいは……さ」
「いっちゃん……」
「もうホントそういうトコロが好きすぎるんや」
「なるほど、それが遺言ですかね」
イチカはアイカをいきなり抱き寄せる。
そして軽く彼女の唇へキスした。
アイカは目の前が真っ白になった。
「これで公平……でしょ」
「はひぃぃん……❤️」
『後で刺されるヤツだわコレ……』
「……(もう彼に興味無くなったのかな)」
そこへ店員が料理を持ってくる。
「スペシャルメニュー、デス?」
「あ、どうも……」
「どこの人?」
ハルカは金髪の女性から皿を受け取る。
「?」
「日本語通じないみたい……」
「通訳プリーズ!」
「またですかもう……」
「早くこのタヌキには英語教育しないとマズいですね」
『すいません、貴女は英語圏から来た人ですか?』
『エイゴケン、ケンは私の生まれた場所じゃありません』
『遠い、遠い楽園から、来ました楽園』
「……参りましたね」
「英語も通じない感じですか」
イチカとエレナはその金髪の女性を見て、思わず箸を落とす。
『『なっ……!?』』
『久し、久しぶりです』
『マイシスター』
『マイシスターって……まさか……』
『そうだよ、例の女騎士だ』
『アヴァロンから来たみたいな見た目してるだろ』
『何でここに居るかは分からないけど……』
そこへ残りの皿を持ってユンユンがやって来る。
「その人沢山食べたけど、全然おカネ無かったネ」
「でもおカネ払って貰わないと困るネ」
「それでホールやって貰ってるネ」
「見た目凄く良いシ、看板娘ゲットネ」
「まさかの無銭飲食!?」
「でもこの人だけでココには来れない様な気がするけど……」
金髪の女性はその場でしゃがみ込み、コップの氷をジーっと眺めていた。
「ユンユン、その金髪さん何処か問題あるんか」
「私医者じゃないから詳しい事良く分からんヨ」
「連れの男なら知ってるから、ソイツに聞いてみると良いネ」
「ただ、この現代社会で生きてくの多分ムリそうネ」
『ヘイリー!常連さんにこの子事教えてあげてネ!』
厨房の奥から、タオルを頭に巻いた白人が出てくる。
『なんだよ、たった今チャーハン作れって言ったばかりじゃねぇか!』
『タダでさえ餃子作るのに忙しいんだぞ!』
『100万円返すまではお前達は私の召使いネ』
『嫌ならエスティアみたいに経理や事務手伝うがヨロシ』
『くっ……!』
『何でこんな事に……!』
『リヴァが食べ過ぎたからネ』
『まさか倉庫カラにするとは思てなかたヨ』
『出す所出せば100万じゃ済まないネ』
『ヘイリー、ごめんなさい、ヘイリー』
『おいしい、おいしかったです……』
リヴァが潤んだ目でヘイリーを見つめる。
『ハァ……しょうがないか』
『リヴァ、倉庫から肉を厨房へ運んできてくれるか』
『はい、ヘイリー』
リヴァはまるで蝶々を追い掛ける犬の如く、倉庫とは正反対の方向へと去って行く。
「……ヤバいな、あのパツキン姉ちゃん」
「見とる世界そのものが違うで……」
『どないなっとるんや』
『……リヴァは脳と精神の病気を患っている』
『専用の薬が無ければ、マトモに会話を追い掛ける事も出来ない』
『リヴァの精神年齢は正味7~8歳ぐらいだ』
『中身はまだ少女ってコトか……』
『なのにどうして入院させて治療して無いんや』
ヘイリーは丸椅子を取り出し、タオルを外す。
赤茶色の髪が外に飛び出る。
『……リヴァに取って病院はトラウマなんだ』
『リヴァは精神病院に無理矢理収容され、そこで酷い虐待を受けた』
『しかも警察に追い回された挙句、にだ』
『……酷いな』
『そんなモンさ、貧民の病人に対する社会からの扱いなんて』
『アル中やヤク中は自業自得だが、アイツは全くそうじゃない……』
『だから俺は……俺だけでも……』
『アイツの面倒を一生看ていくと決めたんだ』
ヘイリーは緑色の瞳で床を見つめる。
『……けど、アンタも金があるように見えないわよ?』
『アメリカ人』
『──!(ロシア語!)』
『お前ロシア人か!?』
『しかもそのオッドアイ……まさか!』
ヘイリーは腰に差していたハンドガンを抜こうとする。
アイカは即座に彼の頭部へ銃を突き付ける。
『止めといた方が良いですよ。そこの何かあったジェラールさん』
『女騎士と添い遂げたければ大人しくしていて下さい』
『とにかく……今日はもう戦争はこりごりですので』
『……シット』
(刑務所で見たどのサイコ野郎よりもヤバいぜ、この女……)
(戦争はイヤだが殺しは別腹ですって顔してるぜ)
たぬきは麺を啜りながらヘイリーの顔を凝視する。
(ホント容赦なくブチ犯したくなる顔してるね)
(美少年は男前に成長するってハッキリわかんだね)
エレナは腕を組みながらヘイリーに言う。
『……アナタとあの金髪女騎士のお陰で、こっちは100人以上死んだわ』
『先生は相当お怒りよ』
『本来なら10人も犠牲が出ないハズの戦いだったから』
『スマン、誰かロシア語の通訳プリーズ』
『我が家のたぬきと同レベルだな』
『数学や物理は得意なんだけどさ』
『語学はからっきしでな……』
『まぁ英語だけ出来れば生きてけると思ってたし……』
(本当にハルカと同レベルだ……)
(コイツも日本語だけ出来れば良いと思ってるフシあるからな……)
イチカはハルカをチラ見しつつ、エレナの言葉を要約してやる。
『要はお前達のせいで、予想以上に被害出たってさ』
『凄いな……マルファやヴァヴィロフ達相手にそこまでやれるなんて……』
『二人とも生粋の軍事エリートでトップランカーの探索者だぞ……』
『そりゃ光栄だな』
『でも、だからこそ面白いんだよ、この業界は』
『例え底辺でも頂点の連中に一発カマしてやれる』
『ショービジネスに似た面白さがあるんだよ、この商売は』
『……オモロイ考え方やな』
『もしかしてショービジネス出身か?』
『!』
『良くわかったな!』
『ならここで一つ魅せてやろうか』
『特別にタダだぜ!』
『おおー!』
『つまんない事したらチャーシューになって貰いますからね!』
『今から楽しみです!』
『ホント怖ぇよこの女……!』
ヘイリーは空のコップにタオルを掛ける。
『何か欲しいものを思い浮かべてくれ』
『赤い瞳のお姉さん』
『コップに入りそうなモノでな』
『……思い浮かばない』
『あー……少し待った方が良いか?』
『ごめん』
『ちょっと待って……』
イチカは十数秒間考え込む。
(……鬱の気があるなこのお姉さん)
(東欧系らしいと言えばらしいが)
そして彼女はゆっくりと口を開く。
『指輪』
『……相手は誰だ?』
『いや、野暮な質問だったな』
『よし!良ーく見てろ、1・2・3……』
『……ご覧あれ!』
ヘイリーがタオルを取る。
そこには水で一杯になり、溢れそうなコップがあった。
『……どういう事』
『お前の今の心だよ』
『指輪なんか入れてみろ』
『たちまち溢れ出すぞ』
ヘイリーはタオルで右手を隠す。
そして力を入れるフリをしながら、コップへ銀色の指輪を落とした。
『……!』
指輪の質量分、コップから水が零れて行く。
『俺は手品師だからな』
『客の心を読むのが上手いのさ』
『……水を減らす』
『それが今の私に取って一番重要……』
『そうだ』
『根を詰めすぎても生き辛いだけだぜ』
エレナはヘイリーへ詰め寄る。
『どうなってんの!?コレ!?』
『ネタは!?トリックは!?』
『教えなさいよ!!』
『手品師がネタをバラすワケねーでしょうが』
『ホントにおバカですね……』
「でもどうやったんでしょうね……コレ」
「アイテム使ったんじゃない?」
「そこのイケメンさんは何も持ってないと思う」
「……だとしたら、水と指輪をワープさせたコトになりますけど」
「ワープなんて……」
「そんなの、とんでもないランクのアイテムですよ」
ヘイリーはそれが嘘でない、と。
そう緑色の瞳で語っていた。
『……アンタはドコへでも行ける』
『だけど居られる場所はたった一つだ……』
ヘイリーはコップの水を飲む。
『……リヴァには帰る所が無い』
『なら俺がその場所になってやらないと……』
『既に楽園は無く、あるのはリヴァに取って過酷な世界だ』
『……アーサー王はあるかどうかも分からない楽園へ旅立った』
『けど彼女はもう見つけたんだよ、その楽園を』
『それが……アンタだ』
『……かもな』
『俺が俺である限り、リヴァは楽園へ居られる』
ヘイリーの鼻から僅かに血が出る。
『どないしたんや、ヘイリー』
『鼻血出とるで』
『……!』
『ああ、単に厨房の熱で上せただけだ』
『ンなワケあるかい』
『医者紹介するから早よ行ってきいや』
『ユンユン!コイツに休みくれたってーな!』
レイカはユンユンを呼ぶ。
『なんでネ?』
『コイツ脳かどっかに何か異常あるで』
『なんもせんに鼻血出とるわ』
『従業員の健康管理は雇い主の義務やろ?』
『わかったネ』
『ヘイリー!クエイドがリザードマン狩りから戻って来たら、医者行くネ!』
『えっ、いや、その、病院はちょっと……!』
『業務命令ネ』
『従わないのなら、即金で100万用意して貰うネ!』
『ヒデェ』
『けどしょうがねぇか……』
『放置しておくワケにも行かねーしな……』
そして急にエレナの背後へリヴァが現れる。
エレナは驚き、顔にコップの水をブチまけてしまう。
『い、いつの間に……!』
『ホ、ホント何者なのよこの金髪女騎士!』
リヴァはヘイリーの横へ座る。
彼女はヘイリーの手を握って言う。
『怖くない、ヘイリー、もう怖くありません』
『楽園、楽園、ここです……』
『……そうだな』
『行くか、病院』
ヘイリーはリヴァの肩を抱き、店の奥へと入って行った。
個人的にはアメリカ西海岸や西部の英語が、日本語で言う関西弁に当たると思ってます。
レイやんは英語でも関西弁を喋っている感じになります。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
「面白かった」「次も期待している」「レイやんタバコやめて」「お酒もやめて」「どうやって生きていくんやそんなの」「ドブは草」「ケンカ両成敗キスたまらねぇ」
「中華作れるんかヘイリー」「史上最強の看板娘来たな……」「ヘイリーが良い奴すぎる」
「ブチ犯すってお前……」「リヴァさんかわいい」「指輪ってオイ……」「即ネタばらしを求めるのは草」「相変わらずレイやん気が利くなぁ」「ちょっと良い話だと思ってしまった」「有給を即日取らしてくれるこの店はホワイト」
と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。
宜しくお願い致します。