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現代日本プレッパーズ~北海道各地に現れたダンジョンを利用して終末に備えろ~  作者: 256進法
第一部:イカレた北の大地へようこそ

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負債と山と固定資産税

私もたった今背負ったぞ、負債を

だから心配はするな(3000万円)


~闇医者の診療所~


『……縫合は終わりだ』

『後は《白銀クロラムフェニコール》を傷口に』


ドクターの言う通りに、アンナはプラチナ色に輝くクリームを持ってくる。

彼女はイチカの背中を優しく撫で回すように、薬を塗り付けて行く。


「えっ、ナニその怪しい塗り薬……」


ドクターは手を洗い、手袋を外しながら日本語で言う。


「私が調合した医療用のダンジョンアイテムだ」

「母国スイスの特許庁で特許を申請しようとしたが、撥ね付けられた挙句、製薬会社が殺し屋と泥棒を送り込んできた」


「コワ~~……」

「で、その殺し屋と泥棒はどうなったの……?」


「人類の未来の為、役立って貰った」

「少々傷んで(・・・)居たが、臨床には然程問題は無かったな」


「かな~りのマッドドクターだね、こりわ……」

「で、ご前歴は……?」


「チューリヒ大学の病院で外科部長を担当していた」

「薬剤師としての資格と薬学の学位もある」


「ひょぇっ……」

「私なんぞはお目にかかれない程の、眩しいキラキラエリート……」

「……なんでそんな人がこんなクソ田舎に……?」


「……官僚主義と前例主義、そして臆病な癖に傲慢な医療界に嫌気が差しただけだ」

「最早既存の科学や医学では説明が付かない現実が、直ぐそこにある、というのにだ」

「医者の仕事は象牙の塔を後生大事に護る事じゃない。人間の命を救う為に道を切り拓いていく事だ」


「……凄いね」

「私なんかと比べて、遥かに高尚な動機を持ってる……」

「何故娘さんも一緒に?」


「冒険心が人一倍強い、と言っておこうか」

「元々昔の私のように国境なき医師団に参加すると言っていたが、私の移住に伴って新しい世界が見てみたいと」


「親子揃って医者……!?いや、医者ってそんなモノかも……」

「けど、国境なき医師団の方も相当やりがいのある仕事じゃない?」


「……確かに遣り甲斐はあると言える」

「目の前にあったのは本当の地獄だが」

「アフガニスタン、イラク、スーダン、ガザ、レバノン、シリア、ウクライナ……どれも強烈な経験だった」


「……本当に凄くて優しい(・・・)人なんだね」

「イチカの治療、本当にありがとうございました」

「そう言えば、お名前は……?」


「アインだ。北海道(ここ)ではそう名乗っている」

「娘はアンナ。二人一組で診療に当たってる」


「レイカとはどうやって知り合ったの?」


「ある男に危ない所を救って貰った」

「剃町というパンツ一丁の男に」

「彼女はその男の仲間だった」


「んん?」

「何処かで聞いた事あるような……あっ!」

「レイやんが言ってた高っちゃんか!」


「奇跡の肉体を持つ男だった……」

「彼が保有していたダンジョンアイテムへ、完全に身体が適合もしていた」

「彼の肉体を物理的に打ち破れる存在は、この北海道には居ないだろう」


「流石に核とかは効くよね……?」


「彼の皮膚や筋肉は、核シェルターの屋根や扉より頑丈だ」

「現行の通常兵器や工具では、一切傷がつかないと思った方が良い」

「何よりワセリン塗れで、刃物や銃弾がスリップしてしまう」


「メイン盾ってレベルじゃねーぞ!」

「高っちゃんを前衛にしてインペリアルクロスの陣形組んだら、ダンターグ戦でも余裕でしょ……」


「全体攻撃には意味をなさないだろう」

「それにダンターグ戦には炎属性の術が有効だ」


「えっ」

「なんでロマサガ2知ってるの??」


「医師団で同僚だった日本人に教えて貰った」

「良いゲームだ、アレは……」


「『ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブン』、好評発売中です」

「私のおっぱいにも、アンドロマケーみたいにホクロがあるよ❤️」


「皮膚ガンの可能性がある」

「ついでに切除していくか?」


「いいえ、私は遠慮しておきます」


その時、イチカがうなされながら目を覚ます。


「……何処だ、ここは……」


「あっ。目が覚めたんですね。おはようございます」

「まだ深夜ですけれど」


イチカの霞む視界に、ハルカのデカパイが映る。


「あの世って私よりデカパイだらけなんだな……」


「まだ現世だよ」


「なら服を脱いで証明してくれ」


「人前で脱げるなら、伊達に陰キャやってねーよ」

「サンドウイッチマンの伊達は脱ぐけど」


イチカは周囲を見回して治療が終わった事をやっと認識し、うつ伏せのまま息を少しだけ吐く。


「痛み、全くねーな……」

「相当腕がいい医者が手術してくれたか」


そこへアインが椅子を出し、イチカの正面へ座って言う。


「私はアイン。お前の施術担当医だ」

「抜糸は明日になる」

「見込みが正しければ、今日の夕方には完治する」


「……早くね?」


「《アスクピレーオスの糸》には縫合個所を元通りにする効果がある」

「だが、効き目が持続するのは1日程度だ。だから塗り薬である《白銀クロラムフェニコール》を使って、自然治癒力を加速させて貰った」


「要は時間稼ぎの為の縫合か」

「……ダンジョンアイテムを外科手術に使う医者は初めて見るな……」

「いや、本職の医者なら世界初か?」


「……私が世界初だろうな」

「だが……医療界において既存の体制では、ダンジョンアイテムを受け入れる事すら覚束ない……」


「……だろうな」

「他の業界でも似たようなカンジだよ」

「けど、アンタは構わず一歩を踏み出した、ってワケだ」


アインは椅子に寄りかかり、軽く息を吐く。


「……代償も大きかったがな」

「だが、それだけの価値もあった」

「しかし……」


「?」


「いや、何でもない」

「治療代の支払いはどうする?」


「現金一括で」

「丁度大金が手に入るアテがあるんでな」


そこへアンナがニコニコしながら請求書を持ってくる。

イチカはうつ伏せのまま、手を伸ばして請求書を受け取る。


「お?どれどれ……」

「まぁ、精々数百万ぐらいだろ……」

「ん……?ケタが一つ多くないかね、そこの桃色スイス人君」


「いえ、正当な治療代です❤️」

「お父さんの腕とキャリア、貴重なアイテム、そして特急駆け込み料金、深夜料金や技術料も考慮してこの金額です❤️」

「更に言うと、支払い能力のある方にはそれ相応に払って貰うのが、お父さんの方針なので❤️」


「しかしだね、それでも一回の治療で3500万は取り過ぎですよ」

「イチカちゃん破産しちゃう」

「マルファから5000万貰っても、1750万はレイやんに渡すだろ?経費や焼き肉代を差し引いて……ぅわ。ねぇ、金額負けられない……?」


「1円も負けません❤️」

「どうしても、とおっしゃるなら、医学の進歩に貢献して貰いますが……」


「いいえ、私は遠慮しておきます」

「……仕方ない、払うしかねぇかぁ……」


そこへ、ハルカのスマホが鳴る。


「あっ。アイカだ!」

「今出るね!」


彼女はスピーカーをオンにし、イチカの顔の傍へ置く。


「どうした?アイカ」

「そっちはカタが付いたのか?」


《……はい》

《お爺さんは無事、星を見届けながら旅立ちました……》


「……残念だったな」

「一回会ってみたかったんだが」

「で、この後どうする積りだ?」


《お墓を作ってあげようかと》

《墓石には、山にあるものを使う予定です》


「……そうか」

「家に帰る前に、一度私も立ち寄るよ」


《ありがとうございます。イチカさん》

《それで……ご相談があるんですけど……》


イチカは嬉しそうな顔でアイカの言葉を促す。


「なになに?言ってみて、言ってみて?」


(((滅茶苦茶嬉しそうだ……)))


《山が欲しいんです。私有地にします》

《他の誰もが立ち入らないように……》


「えーっと……どうしても欲しい??」


《はい》

《お爺さんの大切な想い出を、誰にも汚させるワケには行かないので》


「意思、かなり固い?」


《はい》

《これはイチカさん相手でも曲げられません》

《……ワガママを言ってるのは理解してます。けど……お願いします、イチカさん……!》


「一生負債を抱え込むのと同義だけど、その覚悟はあるんだな」

「固定資産税とか維持費とか凄いぞ、山は」


《……税金と維持費は私が頑張って払います》


「そうかぁ~……」

「でも、私もたった今背負ったぞ、負債を」

「だから心配はするな(?)」


《イチカさん……!》

《本当に……本当にありがとうございます!》

《で……お幾らですか?負債……》


「3500まんえん!」

「治療代、3500まーんえん!私の3500まーんえん!」


《(絶句)》

《あと幾つ墓が必要ですか?》

《今からその闇医者の所へ向かいますよ(ジャキッ)》


そこへレイカが割り込んでくる。


《待て待てアイちゃん!》

《さっき命の尊さを学んだばかりやろが!》


《あっ、そうでした……》

《いつもの悪いクセが……》


《やっぱ根はええ子やなぁ、アイちゃん》

《で……いっちゃん。カネ、貰うのワイは待っても良いで》

《そもそもワイが紹介した闇医者やし……》


「「!?」」


ハルカとイチカはあり得ない言葉に絶句する。


「こ、この典型的守銭奴が……『金貰うの待っても良い』、だと……?」

「絶対になんかウラがある……!」


《よ~~う分かっとるやんけ、タヌキ……》

《報酬(1750万円)の支払いを待つ代わりに、ワイはある権利を貰う……》


《……まさか大阪女……》


《『いっちゃん1週間独占権』》

《これでどうや》

《嗅ぐも愛でるも、撫でたりおっぱいやケツ揉むも、ぜ~~んぶ自由や!》


《イチカさん、ちょっとだけ待ってて下さい》

《もう一つ墓作りますから》

《墓碑に刻んであげますよ。『彼氏面クソ三白眼大阪女ここに死す』、と》


《奇遇やな》

《ワイも墓碑に刻もうと思ってた所や。『狂犬胸なしサイコ女ここに死す』、と》


「アイカ……私の為に争わないで!(きゃるっ)」

「私……レイカさんの言う通りにするしかないんです……私はあの人に買われたんです……」

「じゃないとイチカちゃん治療代払えないんですぅ、きゃっ♡」


「キッツ……」

「これが27歳の姿?」


「30歳独身で女装オスガキ本書いている奴には言われたくない定期」


「明日の朝刊載ったぞテメー!」


アンナは呆れた顔で彼女達のやり取りを聞き、思わずため息を付く。


『本当に私より年上なんでしょうか、この人達は……』


『正直中身は10代の学生と変わらないだろう』

『だが、塞ぎこんでいるよりはずっと良い』

『医師にとって、患者とその周りの人間が楽しく笑顔になっている事、それが一番だ』


『そ、そうかなぁ……』


戸惑うアンナを他所にアインは椅子にもたれ掛かり、再び眠りに入った。




アインは本物の凄腕医師かつ、薬師ですね。

ただ、医学界における未来の開拓が、全てに優先するだけです。

マイルドなブラックジャックかつ、ボンドルド並みの探求心を持ち合わせてるドクターKって感じ。


3500万を命の値段としては安いか、それとも高いか。

個人的には相場より少し高いなぁ、位の感じがします。

生命保険の受取金平均が大体2200万円くらいなので。


今、イチカはレイやんに1750万円の負債、残り1750万円をそれぞれ二等分して、875万円の負債がアイカとハルカにある状態になっています。

残りの1500万を三等分して一人500万だとして、イチカ自身の取り分を治療費から差し引いても、イチカは平均一人当たり1000万の借金を負う事になりました。

つまり、イチカちゃんは3000万の負債を三人に負っています。


そして、これは経費とか山の購入費用諸々を除いた単純計算です。

マルファお姉さんの温情ボーナスに期待しましょう。


次回、お姉さんの家庭訪問があります。

新しいコスプレにも期待してて下さい。


お読みくださりありがとうございます。


「面白かった」「続きが気になる」「更新頑張れ!」「ドクターが覚悟キマり過ぎてる」「アンナ良い子だけど容赦は無い感じ」「3500万の治療費笑った」「仲間に対して3000万の借金は草」「山を買うとは思い切ったな、アイカ」「レイやん人生エンジョイしてるな……」「レイカとアイカの独特の関係性が良い」「4人の成長を感じる」「次回が非常に恐ろしい」

と一つでも思っていただけましたら、ブクマ・評価いただけると励みになります。

よろしくお願いいたします。

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