ブラッド・ナイトダンサー(後編)
今まではこの血を呪って来た。
でもこれからはその血が武器になる。
観賞用BGM:https://www.youtube.com/watch?v=pdIkGViSOgw&ab_channel=SymbiontZ
~富良野ワイン工場~
『知ってるか?クソ鳥』
『《雉も鳴かずば撃たれまい》って言葉が日本にはあるんだよ』
『お前は鳴くどころかクソをまき散らした。撃つだけじゃ済まねぇぞ』
『……!』
『ロシア人の差し金か!!セルビア人!!』
『……お前にはそう見えるんだな。けど、違う』
『やっぱ鳥頭だな』
「アイカ、ハルカ、レイカ、今月の夕飯は鳥鍋と手羽先決定だ」
イチカは未だ驚く三人を尻目に、怪鳥アルクーフに向かって飛び上がる。
『──!?』
『飛べるようになったんだよ、私の血でな』
『《夜空に踊る血》』
イチカの血の刃が、アルクーフの分厚い胸肉を縦に切り裂く。
怪鳥は鳴き声を上げて態勢を崩したが、イチカに向かって嘴の奥から炎を吐き出して来た。
『カーネルサンダースを見習えよ。事業展開は地道にやるもんだぜ、鳥公』
『《血の城砦》』
イチカの血の刃と血の羽が盾状に変形し、炎を防ぎ散らした。
『なんだ、その能力アイテムは!?』
『聞いた事も無いぞ……!!』
『そりゃイチカオリジナルだからな』
『今日はお披露目会だから、ハデに行くぜ!!』
アルクーフは急旋回し、鋭い爪と嘴で突撃してくる。
イチカは大きく息を吸い、鮮血のように赤い双眸で、向かって来る巨大な怪鳥を見据える。
『《鮮血の処女狩り》』
イチカの腕と背中から無数の血の棘が飛び出し、アルクーフに向かって放たれる。
怪鳥は向かってくる血の棘に気づき、急停止して棘を吹き飛ばそうとする。
『甘いな、イスラム原理主義鳥』
『今日の夜は私の夜なんだ』
『《赤い月と痛み》』
血の棘が空中で集合し、ドーナツのような穴の開いた円を描く。
鮮血の満月は巨大なチャクラムのように飛び、怪鳥の右翼を斬り落とした。
『皆……心配してくれてありがとう……』
『私、孤独じゃ無いんだって判って、本当に嬉しかったよ……』
イチカはアルクーフのもう片方の翼を斬り落としながら、優しく微笑んだ。
~旭川市北端~
『足りない!!足りないぞ、アメリカ人共!!』
『ですが、作戦は極めて順調です!!マルファ様!!』
『是非ご褒美を!!』
《エゴーリィの戦槌》によって巨大化したヴァヴィロフが、要塞線と陣地を踏み荒らして殲滅して行く。
その隙間からマルファの部下達が、バイクや装甲車両で雪崩込む。
バイクで雪崩込んだマルファの部下達は、次々と市内に侵入してはバイクを降り、ダンジョンアイテムでアメリカ人達を側面から攻撃し始めた。
『……』
市庁舎地下の司令室で、眼鏡の男が映像を見てため息交じりに呟く。
(入念な準備砲撃、バイク兵とFPV・ランセットドローンの利用に、少人数での浸透作戦、そしてダンジョンアイテムの活用……)
(これはウクライナ戦争で完成し、名実共に世界最強になったロシア連邦軍を更に昇華させている……!)
(おまけに一方面を防ごうとすれば、更に別の方面から縦横無尽に襲って来る始末だ……)
『……戦線を下げて整理するしかない』
『ヘイリー達の足止めで、《極光乙女》に制空権を握られる事は防げた』
『大佐。撤退命令を』
勲章と徽章を沢山付けた軍人が、専用回線で本国に連絡し始める。
数十秒後、トーシアは驚くべき言葉を耳にする。
『……JCS(統合参謀本部)からは戦線から撤退するな、何としてもロシア人を旭川市から追い出せ、と……』
『これは我々の誇りが掛かっている、専制主義の軍隊に負ける訳には行かないとも』
『……バカな!』
『そんな下らないプライドの為に《ティアマトの残滓》を使えと言うのか……!』
『そんなものココで使えば、どれだけの犠牲が……いや、その前に対価の支払いで我々が全滅しかねない……!』
『富良野に居る彼女を解放するしかないのでは……』
『《狂女騎士》を使えば連中を押し返せるかと』
『……最悪の選択だ』
『《狂女騎士》は薬漬け状態だ。ヘタに解放して暴れたら、旭川どころか道北一帯が全滅しかねない……』
『しかし《残滓》はコスト的に使用は不可能だ。アルクーフの部下に連絡しろ。リヴァを条件付きで解放しろ、と』
『……了解!』
『最早彼女の気紛れに期待するしかありませんな』
『……!それとクレイエルが出撃した、と三沢から』
『……賭けだな』
『《黒い鳥》と《狂女騎士》をそれぞれ《戦槌》と《魔女》にぶつけて、消耗戦を狙うしか無い』
『しかし、もう半分我々は負けているようなモノだ。イラクやアフガンの轍から何も学んでいなかった』
『トーシア部長……』
『この作戦は大統領に話を通していない』
『そしてSNSやダークウェブを通じて、この作戦は明るみに出るだろう……』
『我々は次の展開を考える必要が出てきた』
『まさか……』
『予定は早まるが、合衆国建国以来のクーデターだ』
『トランク大統領相手のな……』
トーシアは光る眼鏡の位置を直し、机に腰掛けた。
~富良野市内~
~地下麻薬工場・収容室~
『……アメリカ人だ』
『あの女を旭川に向けて解放しろ、と』
『……正気か??』
『常人なら死ぬ量の麻薬を使っても、数十分経てば直ぐ狂気に戻りやがる』
『コイツはアッラーが処分し損ねた地獄の天使だ……』
金髪青目の女性が、拘束具で雁字搦めにされ項垂れていた。
『ヘイリー……何処まで買い物に行ってるの……?』
『ああもう、料理が冷めちゃうのよ……』
女性は微笑みながら、虚空を見つめた。
イチカは本当の意味での、自己肯定感を手に入れつつあります。
そして、それこそが探索者にとって一番必要な資質です。
自分を否定する者に、過酷なダンジョンは生き延びられない。
逆に自分を否定し始めているのがマルファです。
自分の目的(復讐)を肯定する為に積み重ねて来た事が、寧ろ彼女自身を追い詰めつつあります。
自己肯定感の貯金を物凄い勢いで削ってる。それをイチカで緩和してるだけかも。マルファの中で、イチカの存在が物凄い勢いでインフレしてます。
『自己肯定感』という観点から登場人物達を見て頂けると、また違う楽しみ方が出来ると思います。
そう言う意味だと高っちゃんやエレナは無敵ですね。
自己肯定感の塊です。
実はハルカもコッチ側ですね。なので、アラサーたぬきはイチカよりも探索者としての素質が実は高い、とも思っています。何より結構図太い。
そして、お待たせ致しました。
スプシでございます。
どうかお納めを……
登場人物シート:https://docs.google.com/spreadsheets/d/18yCj9B-CZEpJGIDICTLBSG4K3ASfzvPI7MeKN9sNjkY/edit?usp=sharing
これからちょくちょく更新かけて後書きに掲載していきたいな、と考えています。
なお、ランキングに関してはミューゼの主観と偏見によって付けられています。
恐らくイチカより多才な人かもしれない。現状、後方担当だとナンバーワンですね。
そして次回、狂女騎士の圧倒的な暴力が道北に向かって放たれます。
彼女の《病気》がどう言うモノか、それが判ります。
お読みくださりありがとうございます。
「面白かった」「続きが気になる」「更新頑張れ!」
「偶に素に戻るイチカが好き」「マルファの部下達が強すぎる」「眼鏡が結構大変な立場で可哀想」「もう不穏な気配しか無い」「女騎士を何だと思っているんだ貴様は」「オラ、ワクワクしてきたぞ!」
と一つでも思っていただけましたら、ブクマ・評価いただけると励みになります。
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