表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/97

鳥鍋とSNSとアラサーと青年騎士

嘘だと思うんなら見てみ、コイツのスマホの画面を


~夜~

~道南~

~新ひだか町・イチカハウス(仮)~


 「……というワケで今日は鳥鍋です」

「刻み葱と塩ダレで味付けしてあるから、アラサーの胃にも優しい一品だ」


「はいはいはい!白米は!?」


「沢山用意してあるぞ、たっぷり食え……」

「ただ、炊飯器を開けるごとに、ウェストが0.5cm増えていくと思いなさい」


「増えないねぇ!漫画描いている内に頭使ってカロリー消費するから!」


「お前、マトモな運動とかしないしてないだろ」


「……す、ストレッチとかウォーキングとかはするから(震え声)」


「だと思ったぜ。だからこんなモンを作ったんだ」


イチカは複合機の上に置いてあった紙を、ハルカへ渡す。


「トレーニングメニューだ。お前は多分後方支援が中心になると思うけど、最低限逃げる体力と筋力は必要だからな」

「無理な食事制限なんざしなくて良い。必要な筋肉まで落ちるし」

「糖質制限ダイエットとかはほぼ宗教だからアレ。てかダイエットが目的じゃないんでな」


「この私にファンスタグラムで美しい腹筋を見せつけろと……?」

「今からパリピになれってか?この万年ヒッキーのアラサーに……!」


「Don't worry be Muscle women」

「徐々に慣らして行くから。な?」

『ロベールもその方が良いと思うだろ?』


ロベールはジャケットをハンガーに掛けながら答える。


『ええ。まずは最低限の筋力と体力が無いと、ダンジョンでは生き残れませんから』

『ダンジョンで犠牲になるケースにおいて、身体能力の不足に起因した物がおよそ3割を占めています』

『だからと言って身体能力だけでも切り抜けられない。事前の準備、頭脳、体力・筋力、戦闘能力、サバイバル能力の全てが要求される、シビアな環境です』


「だとよ。聞いてた?先生」


「え、英語の成績は10段階中4でした!」


「……英会話の訓練も必要だな」

「アイカも出来たハズだから、帰ってきたらアイツに教えて貰え」


「やだやだ!ロベール君が良い!」

「マンツーマン!マンツーマン!」


「餌をあげすぎたかな、このタヌキには……」

「すっかりワガママになってやがる……」


そして、ハルカはメニューを見ながら言う。


「というか、いつの間に作ったの?コレ」


「お前が風呂場でプレジャーしている間だよ、ドエロスキー先生」

「これからは筋肉を虐めて乳酸でプレジャーするんだな」


「おぉぅ……」


「ちょっと試しに腕立て10回くらいしてみてくれるか?」

「両足は揃えて、顎か胸どちらでも良い。床につけるんだ」


「で、できらぁ!」


ハルカは腕を捲り、意気込んで両手を付く。


「いーち……」


「あの~…大分腕がプルプルしていらっしゃいますが……」


「にぃ~……」


『……こ、これは……』


「さぁぁ~~ん”!」


「もう何もかも限界って感じの顔だな……」


そして5回目が終わった時、アラサーたぬきの腕は慣れない乳酸地獄に襲われ、限界を迎えた。


「はい」

「現在の最高記録、5回です」

「寧ろ5回まで出来た事が驚きだな。えらい!」


「これが私の……全力全壊……!」

「というワケで、頂きます!」


ハルカは全速力で炊飯器から米を盛って席に着き、鍋をつつき始める。


「えらくない!」


イチカは彼女の脇腹を摘まむ。


「だ~いぶ、ぷにってますよ」

「ぷにぷにです。今お前ががっついた肉と米はここへ行くんだ」

「それにこのペースだと、ロベールとあのクソ大工の分がなくなるだろ(あと私の)」


「ふぁい」

「ひゅいまひゅえん」


「……というワケだからロベール、そしてそこのクソ職人」

「早く飯食った方が良いぞ」


『で、では……!ご相伴に与ります!』


「……ふん」


ロベールと女職人は席に着き、鍋をつつき始める。

ハルカがイチカの腹の辺りを箸で指して言う。


「そういうイチカはどうなのさ~」

「まさかタプタプお腹であんな偉そうな事を……」


イチカはシャツを捲り上げる。

そこには柔らかく女性的でありながらも鍛えこまれた腹筋と、抉りこまれた腹斜筋があった。


「残念ながら、綺麗なシックスパックと腹斜筋です」

「甘かったな、先生」


「す、隙が無さ過ぎる……!このノンデリ女……!」


『す、凄い……!とても良く鍛え込まれているように見えます!』

『さ、流石はイチカさん……!』


「……!」


ハルカはスマホを取り出し、イチカへ言う。


「アカウント作ってフォロワー、増やしてみない??」

「企業案件来るレベルだって」

「イチカ美人なんだしさ、いっちょバズってみない??」


「え~?めんどくさいから却下で」

「余計な仕事増えて、ダンジョン潜れなくなるじゃん」

「大体SNSとか一々管理出来ないし……変なヤツにつき纏われてもイヤだし……」


「やっぱり根っこは私と同じ陰キャだってハッキリ分かんだね」

「世の男達を惑わすフィットネス美女になれたのに、それを足蹴にするとは……」

「根っからの陰キャですなぁ」


「う~ん……なんというか、第三者からの好意を素直に受け取れないんだよ……」

「な~んかウラがあるんじゃないかって……」


女職人は、鶏肉を口の中へ放り込むと、水を飲んで言う。


「……意気地ナシ」

「本当は怖いんだろ、人に評価されんの」


イチカの瞼が僅かにピクつく。

彼女はスマホのロックを解除し、ハルカの膝へ投げる。


「……ハルカ」

「アカウント作れ」

「今の言葉でかなり()たぞ、私は」


「よし来た!」

「ファンスタの女王にしてやるぜぇ~~!」


『な、なんだかとんでもない事に……!』


イチカは女職人に向かって、酒瓶のフタを開けながら言う。


「……私は一度やると決めたら、頂点取りに行くまで止めないからな」

「覚悟しておけよ」

「もし来週までにフォロワーが10万人超えたら、お前……水着になって街歩け」


「フン……!やってみろ……!」

「10万人超えなかったら、私の好きなように工事させて貰うから……!」


「ああ。いいぞ」

「とびきりエグいの着せてやるから、今からダイエットしとけよ」


『こ、これがジャパニーズ江戸ケンカ……!』


「ロベール君、日本文化結構誤解してない??」


そして、ハルカはスマホを構え始める。


「何枚か写真を撮らせて貰うよ」

「その後画像編集ソフトで少しレタッチするから」

「……というワケで、さっきのようにシャツ捲って」


イチカはまたも見事で美しい腹筋をさらけ出した。


「良いねぇ~!」

「次は髪をかき上げる感じで!」


彼女は長い黒髪を下から流すように搔き上げる。


「こうか?」


「そうそう!」

「次はズボンを少し下げて!」


「……何か雑誌の撮影みたいだな」

「居るよな、こういうカメラマン」


5分程撮影は続き、ハルカはほくほく顔で、ロベールの隣に座る。

そして、ロベールと自分を含めて連写した。


「おい!先生ェ!どさくさに紛れて何やってんだ!」

「テメー一線越えたぞ……!」


『まぁまぁ……良いですよツーショットぐらい』

『別に何か減るワケでも無いですし……』


イチカは英語に切り替える。


『甘いぞ、ロベール』

『お前はこのアラサー女の欲深さを見くびっている』

『今、コイツはお前とのツーショットを、自分のアカウントに上げようとしているんだが……目的は分かるか?』


『い、いえ……』


既成事実(・・・・)を作ろうとしてんだよ』

『明日には結婚している事にされるぞ』


『そっ、そんなバカな事が……』


『あるんだなぁ、これが』

『嘘だと思うんなら見てみ、コイツのスマホの画面を』

『恐らくあり得ねぇ光景が広がってるから』


ロベールは恐る恐るハルカの頭上から、スマホの画面を覗き込む。

イチカも隣から画面を覗き込む。


《今日は私の彼氏のロベール君と、鍋をつついて宅飲みでぇす♡》

《ちなみに入籍間近なんで、今日は一緒のベッドで早く寝たいかな♡》

《式場はどうしようかな~~?私は白い教会✝が良いかなーって思うんだけど(汗)☆》


『コレはヤベェって……』

『嘘でも100回言えば本当になると思っていやがる……!』

『だが、夢を見るのはそこまでだ、先生』


イチカはハルカの手からスマホを没収する。

そして、スマホをタップし、記事を削除する。


「ホイ削除完了」


「あーっ!何しやがんの!ノンデリ女!」


「そりゃこっちのセリフだ」

「記事の捏造は良くないぜ、先生」

「色んな所が悪い大人になっちゃうからな」


「ぐっ……!」

「私は悪い大人だったのか……!」

「ささやかな夢を見ようとしただけなのに……!」


「いや、思いっきり実現させようとしてたよな??」

「ロベール君にも人権と選択の自由があるんで」

「学校でも習ったでしょ?憲法。来月改正するみたいだけど」


「い、生きる望みを無くした……!」

「なんて時代だ……!」


イチカは唖然とするロベールに向かって言う。


『な?油断してるとヤバい事になるだろ?』

『これがヴェルナールやラインバウトだったら、写真は撮らせて無いと思うなぁ、多分。モントヴァンなら今頃スマホをブッ壊してる』

『このスマホがもしダンジョンアイテムだったらどうする?今頃お前は死んでいたかもしれないぞ』


『──!』


『常在戦場とは言わないし、人の良さだって武器だ』

『だけど、そこに付け込んでくるヤツはワンサカ居る。今回はまだ可愛いケースだったけどな』

『多分こういった事への対処も含めて、ヴェルナールは勉強の為にお前を遣わしたのかもな。いやぁ~信頼されちゃってるなぁ、私~』


『……イチカさん。醜態を晒してしまいました』

『お叱りと処分はなんなりと』


『叱らないし、処分なんかしないよこの程度で』

『寧ろ身内の無礼を謝りたい気分だ』

「ホラ!このスケベダヌキ!頭下げろ!」


イチカはハルカの頭を掴み、ロベールへ頭を下げさせる。


「あっ、アイムソーリー……!」

「おかしい、こんな事は許されない」


「許されないのはお前の欲望だろ」

「次やったら接近禁止令出すからな」


「そっ、それは困る……!」


「なら一から関係をちゃんと築くんだな、ロベールと」

「優しい優しいイチカちゃんからの大チャンスです」


「ありがとうございます!ありがとうございます!」

「もう共用の風呂場でプレジャーは致しません!」


「……も~う。ホントに良い根性してるなぁ、お前……」

「ったくあまあまだな、私……」

「ホラ、先生。チャンスを逃す気か?翻訳してやるからさ」


ハルカはロベールの両手を握り、目をキラキラさせながら言う。


『私……時々自分の欲望に負けておかしな事してしまうんです』


(うんうん良いぞ、先生)


『婚期焦ってて、同年代にも見栄を張りたくてついSNSで虚勢張っちゃうんです』

『ついでに承認欲求も真っ盛りなんです』

『だから申し訳ありませんでした』


ロベールはハルカの体温(+手汗)を手から感じながら言う。


『いえ……こちらこそ未熟者でした』

『結果貴女に恥をかかせてしまった』


そして、ハルカはロベールへ顔を近づけて言う。


『いいえ。私は気にしてません』

『元はと言えば、私が悪いんですから』


(……この流れは悪くないぞ……!)

(イケる!イケるぞ……!まさかのミラクルか!?)


『だから……』

『不束者ですが、ワンナイトラブ宜しくお願いします!』


イチカはハルカを後ろから抱え、彼女をバックドロップで軽く気絶させた。


お読みくださりありがとうございます。「面白かった」「続きが気になる」「更新頑張れ!」「欲望剥き出しのアラサー怖い」「イチカはなんだかんだで良識あるな……」「負けず嫌いな所好き」「先生ヤバい」「オチのバックドロップ良かった」と思っていただけましたら、ブクマ・評価いただけると励みになります。よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ