虚偽だらけのプロパガンダと愛車(後編)
そんな事件は無かった。いいね?
良いワケないだろ
良いワケないわね
言いワケありません!いや、良かったかも……
~道南沖~
~フェリー甲板上~
イチカはヒビが入った窓を猛然を蹴り破ると、そのまま通路に出て、手摺りに足を掛けた。
「覚悟しろよ!タコ野郎!!」
「私はまだプレッパー生活を始めても居ないんだ!!」
彼女はクラーケンの眼の辺りに飛び掛かると、巨大な眼の後ろへ思い切り大型魚用の銛を突き刺した。
クラーケンは急所を突かれて大暴れし、彼女を身体から振り落とそうとする。
「おりゃぁ!!もう一丁!!」
イチカは銛を引き抜くと、今度は触手の付け根に銛を刺して行く。
「オラ!!もう暴れんじゃねぇ!!」
「テメェは今からタコ焼きになるんだよ!!」
「あと酢漬けにして保存食にしてやる!!」
クラーケンは最後の力を振り絞り、触手を彼女の身体に巻き付かせ、展望風呂の窓に叩き付ける。
イチカは血塗れになりながら銛を突き刺しまくり、湯舟へ触手に放り投げられる。
「ク、クソが……!私を先に茹でタコにしようってか……!」
「良い根性だ、この軟体動物が!!」
イチカは窓の縁からまた飛び出し、タコに飛び掛かっていく。
そして眼の後ろをまた思い切り刺し、タコは最後の力を振り絞ってイチカを払いのける。
イチカは操舵室に叩き付けられ、中で高そうな機器へと叩き付けられまくる。
「こんな所で死んでたまるかクソッタレ!!」
「私はまだ生きるんだ!!」
彼女の脳内ではアドレナリンとドーパミンが全壊になり、タコの足に噛みついて食いながらまたも銛で刺しまくる。
タコはイチカを放し、彼女から受けた致命的ダメージを癒やすベく、船から離れようとする。
「折角イーチカが頑張ってくれたのに……逃すワケ、ないじゃない♡」
「私達に刃向かってきた存在は、死あるのみよ♡」
「ヴァヴィロフ。RPG-32を」
薄い水色の瞳をした大男が、マルファに対戦車擲弾発射器を渡す。
「カッコ良かったわよ、イーチカ」
「お礼にコイツはタコ焼きにしてあげるわ♡」
マルファは揺れる船内で微動だにもせず、狙いを定めると、トリガーを引いた。
ミサイルはタコの眼球後ろに命中し、タコの脳内を爆炎で焼き尽くした。
タコは一気に力を失い、船に絡みついたまま、海面下へずり落ちた。
「あのロシア女……どうかしてるぜ……」
「日本のフェリーで、ロケットランチャーぶっ放しやがった……!」
「「「どうかしているのはお前もだろ!!」」」
イチカへ、船員達からのツッコミが一斉に入った。
イチカは下へ戻ろうとするが、足がフラついて壁にもたれ掛かる。
「あーヤベー……ダメージが思ったよりもキツいわ……」
「スマン、後はよろしく……」
そして彼女はそのままずり落ち、意識を失った。
~1時間後~
「イチカさん!イチカさん!」
うなされていたイチカは目を覚まし、パッと起き上がる。
「ここは……」
彼女の手を握っていたアイカが、どさくさに紛れて、彼女の大きなおっぱいへ抱きつく。
「医務室です!!イチカさん、無事でよかった!!」
「最初イチカさん死ぬんじゃ無いかと思って……」
「でも……スゴくカッコ良かったです!!わたし、貴女へ心底惚れちゃいました!!」
惚れた……か。
アレは勇気でも何でも無いんだけどな。
まあ、この表情を見たら、そんなコトは言えないな……
「あら。もう目を覚ましたのね。イーチカ」
ドアが開き、マルファがヴァヴィロフを連れてやって来るが、ヴァヴィロフは身体が大きすぎて扉に引っ掛かってしまう。
「外で待ってなさい」
「大丈夫だから」
「ハッ。了解しました」
そして、マルファはスマホを取り出し、イチカへある文字と数字を見せる。
「今回の代金♡」
「勿論一括払いよね?♡」
それを見たアイカは素早くライフルを取り、構えようとした。
だがマルファはそれ以上に素早く、ホルスターからハンドガンを抜き取り、アイカの額へMP-443の銃口を突きつける。
「誰かに銃を突きつけられるのは初めて?」
「ふふ……♡狩れない獲物を目の前にした気分はどう?貴女みたいな人種はもう、ウクライナ戦争で消滅したかと思ってたけれど……」
「まさか日本で会えるとは思って無かったわ」
アイカは底冷えするような琥珀色の瞳で、マルファの金色の瞳を睨み付ける。
マルファは魔女のような微笑を浮かべて言う。
「一体何人殺したのかしら。軽く三ケタは行ってそうね」
「到底マトモな社会で生きていける存在じゃ無いわね。貴女、血の臭いがスゴすぎるもの」
イチカはため息を付き、マルファの銃へ手を掛ける。
「マルファ。金は全額船を降りるまでに払う。だからその銃を下げてくれ」
「アイカ。お前もだ。この女と正面から戦えると思わない方が良い」
マルファはニッコリしながら銃をホルスターへ仕舞い、アイカは彼女を睨み付けたままイチカへ密着する。
「流石は私のイーチカね」
「勇気があって、自分の運命を信じ、尚且つ金払いも良くて、しかも頭が良くて強い……」
「貴女みたいなのは、私の側に居るべきよ。この精神病質者じゃないわ」
スカウトとかたまげたなぁ。
今度は海の上でモンスターとじゃなくて、戦場で人間と戦わされそうだ。
「アイカ。そこの紙とペンを取ってくれ」
アイカは言われた通りに、紙とペンをイチカへ渡す。
イチカは自分の新居の住所を二回書くと、ちぎってそれぞれマルファとアイカへ渡した。
「私は取り敢えずやらなきゃいけないコトがある」
「用があるなら私の新居へ来れば良い。その時また話を聞くよ」
二人は同時に紙を受け取り、懐へ仕舞った。
そして、イチカはポケットから車のキーを取り出し、マルファへ投げる。
「好きなだけ現金は取っていけ」
「取り終わったらキーを返してくれれば良い」
「まあ♡」
「そういうトコロ、とても好きよ♡」
「愛しているわ、イーチカ♡」
マルファは軽くイチカの頬へキスをすると、部屋を去って行った。
アイカはマルファに向けて唸り声を上げていた。
~苫小牧港・フェリーターミナル~
イチカはキーを差し込み、車のエンジンを動かす。
「ったく、大変な旅だったな……」
彼女はフェリーにへばりつくクラーケンの死体を尻目に、そのまま港の外へ出て行こうとする。
だが、港の出入り口には苫小牧市の警察が屯して、道を塞いでいた。
「……っ!おいマジか……!?」
「私はともかく、マルファやアイカはヤベーぞ……!」
フェリーの乗客達は次々に車から出て、警察官達に詰め寄っていた。
「あちゃ~~……クラーケンの一件だな」
「道警か警察庁の命令であそこに居るのか?いや、米軍絡んでればもっと上が出て来るかもな……」
案の定、マルファの部下と警官達が揉め始めていた。
「我々には仕事がある」
「貴方方の取り調べを待つ時間は無い」
「しかし、こちらとしても環境省と海保と県の担当者の到着を待たない限りは……」
イチカは車の中でタバコを吸いながら呟く。
「アホか。海保と環境省の役人が、この事件で何したってんだ」
「クラーケンを殺したのは私とアイカとマルファ達だろ」
そして10数分後、県と環境省の役人達がフェリーターミナルへやって来る。
警察も集まって来ていたが、手持ち無沙汰でなにやらか雑談していた。
県の役人がクラーケンを指差し、拡声器で言う。
《このクラーケンを無許可で退治したのは、どなたですか?》
《名乗り出るまで、封鎖を解く事は出来ません》
そして、マルファとその部下達が車列から出てくる。
(これ、私も行かないとマズいのか?う~ん……行きたくねぇなぁ~~……)
(アイカの奴はもう身を隠してんな。何か有ったら死人でるぞ、こりゃ……)
イチカは渋々、役人達の前へ進み出る。
平均身長185cm以上の圧力が、県と環境省の役人を襲った。
「無許可でのモンスター退治は、北海道庁が臨時に制定した条例によって禁止されています」
「なので、貴方達はこれから署まで、我々と同行して頂きたいのですが……」
イチカはまるで話を聞いていないかのようにタバコを吸い、空へ吐き出す。
マルファはそんなイチカを見て、クスクスと笑う。
「あのー聞いてますか?」
「我々と署まで同行して欲しいんですけど」
女性の役人が語気を強めてイチカへ言った。
だが、イチカはその赤色の瞳で、鋭く彼女を射貫いて言う。
「じゃあお前等、あのクラーケンを退治しに来てくれたのか?」
「あのタコは函館ダンジョンから脱走したって聞いたぞ。寧ろお前等の管理不届きじゃねーの?」
「署で調べなきゃいけないのは、お前等の杜撰な管理体制だろ。正直、賠償金貰いてぇぐらいだわ。あー身体の節々が痛んで来たな~~」
女性役人はむっとして押し黙ってしまった。一部の警官達が笑いを堪えて、後ろを向き始める。
マルファとその部下達も笑いを堪えていた。
県の男性役人はマルファ達の方を見て、英語で話し掛けようとしたが、マルファに機先を制される。
「日本語もある程度話せるわよ?」
「何のご用?」
(貴方達のヘタな英語なんか聞きたくもないわ。二重で殺したくなるもの)
「貴方達は一体どういった用事でこの北海道へ……」
「ビジネスですか?その、観光客には見えないので~」
役人の邪悪な好奇心に、マルファの眉がピクリと動く。
役人とマルファの間に、ヴァヴィロフの山のような巨体が割って入る。
「仕事だ」
「質問はそれだけか?日本人」
「我々は忙しい。用事があるなら後で聞こう。だからこの場は通して欲しい」
ヴァヴィロフの圧力と威圧感に押され、役人は萎縮して身動きが取れなくなる。
イチカはタバコを吹かしながらその光景を眺める。
(あのままだと多分、あの役人はマルファに殺されてたな)
(寧ろあのデカイおっさんは、あのバカ役人共の命を救ってる)
(中々良い部下居るじゃねーか)
マルファはスマホを取り出し、何処かへ連絡を掛ける。
そして、何事か話した後、役人へ言う。
「知事と自然環境局の局長は封鎖を解除して欲しいって」
「聞いてみなさい」
県と環境省の役人はスマホで上と連絡を取り始め、次第に苦い顔をする。
警官達は既に封鎖を解除し始め、道を空けていた。
「決まりね」
マルファ達は、自分達が乗っているSUVの集団へ戻って行く。
そして、イチカも慌てる役人達を尻目に、車へ戻って行った。
~道央・新ひだか町~
「よ~し着いたな……」
「良い雰囲気だ。ここを選んで正解だったなぁ」
イチカは家の前に車を止め、荷物を降ろしていく。
そして何故かアイカの車も後ろから到着してきた。
「あいつ、私と一緒に住む気なのか……!?」
「まあ人手が多いに越した事は無いけど……」
「何せ当座の目標は地下要塞の建設だからな。終末の時までに、如何に役人共の目と耳を誤魔化すか。それが勝負だからな」
(※無許可での地下室の増設は禁止されているらしいです)
(※ちなみに2000年まで地下室を居室として使用する事は禁止されていました。平和ボケにも程があんだろ。大陸から核ミサイル降ってきたらどうする積もりだったんだよ)
アイカは車から降り、熊撃ち用のライフルを背負いながらイチカへ言う。
「イチカさ~~ん!!熊撃ちに行きませんか?熊ちゃん!!」
イチカはタバコに日を点けて呟く。
「……警察の眼も誤魔化さないといけなくなったな……」
そして、イチカはアイカの助けを借りながら荷物の搬入を終え、居間に寝転がる。
「ふぃ~~……今日はホント疲れたぜ」
「取り敢えずシャワー浴びて酒飲んで寝るか……」
アイカは寝転がるイチカに密着しながら言う。
「お酒、買ってますよ♡」
「ア○ヒスーパードライです」
「だがら……一緒にシャワー浴びませんか?お背中流してあげようかなって♡」
……抵抗は無意味だな。
私は解体されたウサギ小屋のウサギになりたくない。
「じゃあ頼むわ」
「あと酒飲んで寝たら、近くのダンジョン行ってみようぜ」
「どんな素材が集められて、どんなモンスターが出るか調べないといけないからな」
アイカは寝転がりながら、スマホで何やらか調べ出す。
「う~~ん……この辺りだと、静内ダムダンジョンがあるらしいですけど……」
「もう夜ですからね。暗視装備も無いし、明日の朝にしませんか?」
「ライトはあるんですけど。私とした事が迂闊でした」
イチカは段ボールの箱を指差す。
「あるぞ暗視装備。三人分。予備に二つ買っておいたんだ。一つ貸すよ」
「プレッパーたるもの、備えは当たり前。何が起きるか分からないからな、予備はあるに越した事ないんだ。無論電池の予備もある」
「武器は鉈で行く。アイカは銃だったな。防具は防弾チョッキとプロテクターだ。それも貸してやるよ」
アイカはイチカへ思い切り抱きつき、絡みつく。
「イチカさんホ~ント大好き!!♡」
「愛してます!♡ちゅっちゅっちゅ~~っ!♡」
アイカは困り顔をしているイチカの顔へ、キスマークを付けまくった。
イチカはキスをされながら、リモコンでテレビを点ける。
《今日の昼、道南沖で航行中のフェリーに、突然変異の巨大ダイオウイカが絡み付き、航行を妨害する事故が発生しました》
《しかし、海上保安庁と県と環境省の迅速な対処により、巨大ダイオウイカは無事退治されました》
「ぅわ。マジかよ。アイツ等隠蔽しやがったぞ」
「マスコミもグルかよ。中々に終わってるな」
「対処ってなんだよ。港で待ってただけだろ。こんなん笑うなって方が無理だろ」
「ですね。イチカさんのお陰で退治できたってのに!(ぷんぷん!)」
「あのロシア人達は途中で、海の藻屑になれば良かったとは思いますけど」
「え?でもお前もキッチリ目玉撃ち抜いてたじゃん(マルファ達の話に関してはスルー安定で)」
「やぁ~~ん♡」
「イチカさんったらぁ~~♡」
アイカはイチカのおっぱいに顔を埋めながら、嬉しそうに悶えた。
次回はお背中流しから入ります。
ダンジョンには人が居ない事を祈りましょう。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
「イチカヤバいな」「マルファもヤバいな」「アイカもヤバいな」「ヴァヴィロフのおっさん好き」
「堂々と隠蔽するな」「警察官達自体は結構柔軟そう」「一体ドコに連絡かけたんでしょうねぇ……」「クラーケンかわいそ……」「ダムのダンジョンは面白そう」
と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。