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アッラーアクバル富良野(後編)

止まらない!離れない!生まれてからずっとイケメンの虜~!


~道央~

~富良野市内~


『……!ぜ、全滅だと……!』


『は、はい。アルクーフ司令官……』

『全員と連絡が取れません……!』


『……どういう事だ』

『連中は支援をすると……』


『恐らくですが……畑の奪還に失敗した挙句、機密漏洩を防ぐ為に口封じされたのかと』

『アメリカ人共と手を組んだのが間違いでした』

『やはりアッラーのご意思に背くべきではなかった……』


『殉教者を気取っていたが、いつの間にか背教者へと成り下がっていた……』

『お笑いだ。我々は最早地獄の業火に焼かれるしかないのか』


『……いえ、まだ手はあります』

『あのアイテムを私に使わせて下さい!』


アルクーフはターバンを取り、部下へ渡して言う。


『……いや、この始末は責任を以て私が付ける』

『私がこなしてきた仕事はお前が引き継げ。そして、アメリカ人とは手を切るんだ』


『司令官殿……』


『《シームルグ(※1)への階梯》を持って来てくれ』

『このアイテムを使う以上、最早人間には戻れない……』

『だが、選択肢は無い……!』


赤い布に包まれた本を部下が持って来て、彼に渡す。

アルクーフは布を解き、装飾が施された本を取り出す。


『偉大なるアッラーよ』

『今一度、我等に機会を……!』

『《シームルグへの階梯》発動!神は偉大なり(アッラーアクバル)!!』


本が緑色に光り出す。

アルクーフの身体が変形し、巨大化していく。

背中から翼が生え、手足からは鋭い爪が、彼の顔からは嘴が生え、猛禽類の如き風貌へと変形する。


『……逃さんぞ、《山の老人》……』

『何処に居ようと見つけ出し、その臓腑を食らい尽くしてくれる!!』

『連中を殺した後はアメリカ人共だ!!』


巨大な怪鳥となったアルクーフは工場の敷地から飛び立ち、ダンジョンへと向かって行った。



~富良野西岳ダンジョン~


アイカは頭が弾け飛んだ死体を検分する。


「……これは『.50 BMG 12.7×99mm弾』で撃たれてます」

「……!?距離は三角法で計算して約3000m以上……!!」

『銃はカナダとアメリカの特殊部隊で使われている『マクミラン TAC-50』!狙撃手は恐らく元特殊部隊員か凄腕のハンターです……!』


「……両方じゃな」

「猟師の殺気と兵隊の鋭さ、両方感じたわ」

「……相手は若い時のワシよりやるかもしれん。難敵じゃぞ、アイカ」


「……はい!」

「次は気を引き締め……」


『見つけたぞ、《山の老人》』

『アイテムのお陰か、五感が異常に冴え渡る』

『まずは()から消し炭になれ』


巨大な怪鳥の口元に炎が収束していく。


「お爺さん!!逃げ──」


老人はアイカを突き飛ばし、アイカは斜面を転がり落ちて行く。


「──!!逃げるんじゃ、アイカ!!」

「山を降りて助け(・・)を求めろ!!この()はお前の手には負えん!!」


『アシュハドゥ・アッ・ラー・イラーハ・イッラ・ッラーフ(私は証言する、アッラーの他に神は無しと)』


炎が森林を包み、火柱が富良野の夜空へと立ち上った。



~道南~

~新ひだか町~

~イチカハウス(仮)~


 「はい、この部分はやり直しで」

「これじゃあゴムハンマーで思い切り叩いた時、パッキリ逝くぜ」

「ポッキーの如き脆さだよ、この接合部。もう楽器じゃん」


イチカは部材の接合部を指でなぞった。


「……っ」


「んん~~?」

「雑な仕事、してますねぇ~(中島誠之助(※2)風味)」


「……分かった。やり直す」

「明日の朝一で……」


「チッチキチー……甘いよチミぃ」

「今日までにやるんだよ、今日」

「この部分は今日直さないと、工期に間に合わないでしょーが。人工(にんく)(※3)、増やせないよ?」


「~~っ……!」


女親方はイチカを振り払うように、準備に取り掛かる。

そこへフリル満載の、てろてろなワンピースを着たハルカが通りかかる。


「うわ出た、カスハラ。もう相手泣きそうじゃん」

「陰キャ同士のマウントバトルは不毛にも程がありあり」

「それにしてもモテない女共は悲しいのぅ。夜遅くまで現場作業ですかぁ~?」


「以上、モテない女北海道代表選手の有難い御言葉でした」

「1ミリも拝聴しておりません」


「言ってろ言ってろ~~」

「今日私は童顔イケメン金髪美青年騎士と、一夜を共にする予定なんだぜ~~?」


「ん……?なんだこの匂い……」

「先生、まさかお前風呂場で……」


ハルカは素知らぬ素振りをして、その場を通り過ぎようとする。


「おい!逃げるな!」

「お前共用の風呂でプレジャーしやがったな!!」


「うっせー!女性ホルモン出す為だよ、ホルモン!」

「私のメス全開ホルモンでロベール君をめろんめろんにするんだよ!」

「私のこのおっぱいはなぁ!プレジャーを繰り返す事でデカくなったんだよ!」


「もうIカップだろうが!これ以上デカくしてどうすんだよ!」

「ラスオリ(※4)とコラボする積りか!?」


イチカは穴から跳び上がり、ハルカを追い掛ける。

ハルカも手足をドタドタさせながら逃げ始める。


「私の司令官はロベール君じゃい!」

「命令の仰せのままに咥えこんでリードしてやるんじゃい!」


「畜生、今日コイツはヤる積りだ!!」

「ロベールの童貞どころか処女がアブねぇ!!」

「女装までさせる気だ!」


「止まらない!離れない!生まれてからずっとイケメンの虜~!」


「性欲の虜だろ!!」

「てかお前永ちゃん聴くのか!?」


「むきだしでハ~ハァ!」

「飛びきりのハ~ハァ!プレイだぜハ~ハァ!」


「最早隠そうともしやがらねぇ!」


「吐き出せよ!思いきり!気がすむまで、今夜はロックンロール!!」


「お前が吐き出しているのは理性だろーがぁ~!」


イチカはハルカを後ろから捕まえる。


「離せぇ~~!このノンデリ女ァ~~!」

「私のバージンロードに立ち塞がるんじゃねぇ~~!」


「お前のはデスロードじゃボケェ~~!」


女親方は作業道具を片手に泣きべそをかきながら、イチカに指摘された場所を手直しをしようと、とぼとぼと歩き始める。


『すいません。香坂さんのお宅はこちらで宜しかったでしょうか?』


「えっ、え、英語!?」

「あっ、あっ、あいきゃんのっといんぐりっしゅ!」


『あっ、英語話せない方でしたか!』

「ココハ、香坂サンノ家デスカ?」

「私ロベール申シマス。香坂サンヘ渡シタイ物ガアッテ来マシタ」


「そっ、それならあっちに……」


女親方はイチカの方を指差したが、自分の手が酷く汚れている事に気付き、サッと後ろに隠してしまった。

ロベールは彼女に歩み寄り、手を取って眺めてから言う。


「誇ル事スレ、恥ズカシガル事デハアリマセン」

「一生懸命働ク女性ノ手ハ無条件デ美シイ。私ノ母モ同ジ手ヲシテイマシタ……」


「ひゃっ……」


イチカは女親方の手を取っているロベールを見つけ、英語で呼び掛ける。


『おーい!私はこっちだ!!』

『約束のブツ(・・)は持って来てくれたか!?』


ロベールは頭を下げ、大きなリュックを肩から下ろす。


『イチカさん!お久しぶりです!』


『お久しぶりって……あれから一週間も経ってないじゃん』

『律儀なヤツだな。上司に可愛がられるタイプと見た』


『いえ、そんな……』

『モントヴァンさんは私に対して、特に当たりが強い気がします』


『そりゃあ期待してんだよ。もっとガンガン聞きに来いって事だろうな』

『ああいうタイプは存外教えたがりだからな。面倒臭いヤツだとは思うけど』

『そう言えばラインバウトはどうしてんだ?』


『今、ヴァチカンに戻っています』

『今回の件で教皇様に釈明を……』


『……ゴメン。マジでゴメン』

『今度詫びに菓子折りでも持って行くから……』

『取り敢えずさ、家上がれよ。金もそっちにあるし。後夕飯も食ってけ』


『ありがとうございます!』

『しかしイチカさん、その抱えられているご婦人は……?』


『北海道産のメスタヌキです』

『最近我が家にやって来ました』

『今発情期なので、迂闊に触れないように』


『は、はぁ……』


「離ぁせぇ~~!イチカぁ~~~!」

「私の未来は直ぐそこなんじゃい!」

「今夜一発やってゴートゥハネムーンなんじゃい!」


『に、日本語で何と……?』


『腹が減ったから、飯が食いたいんだとよ』

『さ、行こうぜ。このメスタヌキは私がちゃんと見ておくから』


『そ、そうですか……』

『あ。すいません、イチカさん。誠に勝手なお願いなのですが……』


『ん?なぁに?』


ロベールは、機材を運ぶ女親方の方を見て言う。


『あの方も一緒に……』

『彼女はかなり疲れているように見えます』

『このまま夜遅くまで仕事をさせるのは可哀想です』


『え~~……』

『私アイツ嫌いなんだよなぁ~……』

『初っ端からケンカ売って来やがったし、私の事を舐め腐るし、態度はクソだし……』


『イチカさん』

『個人的な好き嫌いで、他者を冷遇してはいけません』

『貴女は本来優しい人のハズです。もし貴女も除け者にされたら、良い気分はしないと思います。ここはどうか……』


『ぅ……』

『存外痛い所を突いて来るなぁ、お前……』

『あー……分かったよ!アイツにも飯食わせてやる!』


ロベールはニッコリ笑い、頭を下げて言う。


『ありがとうございます、イチカさん』

『やっぱり貴女は、ラインバウト卿が言っていた通りの人だった』


『あーそういうのは良いから良いから……』

『さっさと呼んでこい、あの意地っ張りを』

『ったく……』


ロベールは女親方へ声を掛け、手を引いてイチカ達の元へ連れて来る。

女親方は顔を赤くして下を向き、目線が泳いでいた。

ハルカは彼女を見て、渋い顔をする。


「かぁ~~~っ!卑しか!」

「かぁ~~~っ!」


「たぬきの遠吠え始めて見た」

「学会に発表してみようかな」


女親方はイチカをチラリと見た後、少し睨み付け、鼻で笑ってから目線を逸らした。


「こんのっ……!」

「い、入れたくねぇ、マジで入れたくねぇ……!」

「ロベールがこの場に居なきゃ、蟹のエサにしてやる所だったぞ……!」


「ノンデリ女の本気で嫌がる顔始めて見た」

「SNSに投稿してみようかな」


「ふ~~……」

「今日の夕食はタヌキの刺身だな」


「何!?女体盛り!?」

「ロベール君!私の❌❌❌を……」


イチカはハルカを軽く絞め、気絶させた。




※1 イラン神話に出て来る伝説の鳥。ロック鳥のモデルとも。


※2 良い仕事してますねぇ~~の人。なんでも鑑定団に出ていた骨董商・古美術鑑定家の人。結構苦労人な方。


※3 別名労務費。見積りで良く格闘する数字。現場でなんで見積りするん?本社何やってん??


※4 デケぇおっぱいとデケェケツとむちむち過ぎる太ももに囲まれながら、ポストアポカリプスを生き抜いて行く次世代精子生き残り戦略ゲーム。ここのおっぱいが基準になると、大抵のおっぱいは小さく見える。

別名:ラストオシリン、ラストオチチン。


ソシャゲに関して、ドエロスキー先生は微課金派で、イチカは無課金派、レイカは重課金派です。

アイカは~ソシャゲなんて頭がダメになる遊びはやりません☆えへっ☆


お読みくださりありがとうございます。「面白かった」「続きが気になる」「更新頑張れ!」「イスラム原理主義鳥……」「お爺さんの無事を祈る」「まぁアイカは大丈夫やろ」「ロベール君の対応がイケメン過ぎ」「ハルカはさぁ……」「イチカ少しだけ成長したな」と思っていただけましたら、ブクマ・評価いただけると励みになります。よろしくお願いいたします。

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