表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代日本プレッパーズ~北海道各地に現れたダンジョンを利用して終末に備えろ~  作者: 256進法
第一部:イカレた北の大地へようこそ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/131

アッラーアクバル富良野(前編)

全く鈍い連中じゃ


~道南~

~新ひだか町・イチカハウス(仮)~


 「……アイカが電話に出ません」

「どうしたら良いでしょうか、ハルカ先生」


「そんな事を聞いて来る様な脳みそしているからでしょ」

「……でも電波が繋がらない、ってのは気になるなぁ……」


イチカはスマホをソファーに放り投げ、寝転がる。


「……マルファがくれた座標では、基地局のカバー範囲だったハズなんだがな……」

「まさか電波が通じない系のダンジョンか??」

「特殊な電磁場が発生しているか、空間が捻じ曲がっているか、電波妨害されているかの三択だな」


ハルカはコンソメパンチ味のポテチを頬張りながら、腰を左右に動かす。


「ふふふ……遂に呼んじゃいますか?ロベール君を……!」


「来るのはロベールじゃねーよ、スケベスキー先生」

「期待が昂ぶり過ぎて腰が動いてんじゃねーか」

「……でも連絡取った方が良いかもな。専用の通信アイテムか機器を手に入れられるかもしれない」


イチカはカードを取り出し、ヴェルナールへ電話を掛ける。


「もしもし、香坂イチカだ」

「今から1時間後に教皇猊下をブチ殺しに行くぜ」


《ははっ。いきなりジョークから入るとは相変わらず油断が出来ないな、レディ》

《……しかし随分と連絡が早かったな。何かあったか?》


「アルプスの奥地とでも繋がるような通信機が欲しい」

「マルファの出した課題(・・)にツレがハマった可能性がある」


《──!》

《あれから接触したのか、《魔女》と》


「ああ。婦警のコスプレして家に直で乗り込んできた」


《ジョークにしてはキツ過ぎるぞ、レディ》


「事実なんだよなぁ、コレが……」

「多分次もコスプレしてくると思うから、写真送ってやるよ」


《……興味が無いと言えばウソになるが、遠慮しておこう》

《彼女は間近で見てこそ、魅力が増す女性だ》

《遠く離れた場所からでは、彼女の本質は見えにくい》


「アッチの方も百戦錬磨ですなぁ」

「プレイボーイとしてのご意見は?」


《……正直《魔女》はオトせる気がしない。彼女は決意と覚悟を持って自分の事業に当たってる》

《栓を抜けない年代物のヴィンテージワインと同じだな、彼女は……》

《……おっと。話が逸れたか。通信機だな。直ぐに手配しよう》


「お幾ら万円?」


《日本円で1台75万。2台で150万円だ》

《ダンジョンアイテムの《コスモイリジウム》を組み込んでいるから、軍用品よりも高くなっているが……》


「……オーケー。決めた。それを買おう」

「購入を決めておいてなんだけど、割引システムとか無い?最初に潜ったダンジョンで、スーパーボールみたいなの拾ったんだけどさ」


《……《血魂(ブラッドソウル)》だな。水や牛乳等に溶かして飲むと、身体能力が上昇する事が確認されている》

《正直今のレディには必要ないな》


「……たし蟹。今の私は重戦車と綱引きしても簡単に勝てる気がするし」

「まぁ、割引が出来るならしたいって所だよ。手元には今《血魂》とやらが7つある。小さいのが6個、デカいのが1個だ」

「どの位割り引ける?」


《そうだな……50万円と行った所か》


「小さいのが1個5万円で、デカいのが20万円かぁ……」

「なら、小さいの4個売るわ。だから払うのは130万だ」


《取引成立だな、レディ》

《今日中には取引担当を向かわせる》


「助かったよ、プレイボーイ」

「今度はロベールをこちらに寄越して欲しい」

「若いオスを待ち切れないご婦人を抱えてしまって……」


《ははは!》

《分かった、なら今回はロベールをそっちへ行かせよう》

《アイツもそろそろ女の扱いを覚えても良い頃だ》


「サンキュー、プレイボーイ」

「くれぐれも日本のご婦人には気を付けてくれよ。執念深いからな」


《大丈夫だ。慣れてる》

《まぁ刺されない程度に遊ぶさ》

《じゃあな、イチカ(・・・)


「おっ、おぅ。じゃ、じゃあな、ヴぇっ、ヴェルナール……」


イチカは電話を切り、僅かに手を震わせながらスマホをポケットに入れる。

ハルカはクッションを抱きかかえ、左右に転がる。


「こぉんの手のひらで転がして来る感覚ぅ!!たっ、たまんねぇ~~っ……!」

「これはやられちゃいましたなぁ、イチカちゃん(・・・)!」


「うっ、うっせーよ!」

「ドッ、ドキッとなんかしてねぇし?」

「第一、親子程歳が離れてそうだし?」


「普段攻めに行く人間程、受けに回ると弱いってハッキリわかんだね」

「恋愛経験値ゼロか?」


「しょっ、少女漫画で経験積んだから……」


「ハイハイ、未経験ね。かわいそ……」

「……でイチカ。遂に来ちゃたよ、この時が!」


「ロベールへ勝手に触れたら飯抜きだからな、先生」

「我が家において、異性に対する勝手なお触りはNGです」


「ファック。処女拗らせやがって」

「私の婚活邪魔しないでよ」


「もう結婚する気でいるのか(呆れ)」


「アラサーはねぇ!一度チャンス逃したら次は無いんぜよ!」

「今日は市原ハルカの夜明けなんだぜよ!」


「本当に夜は明けるんですか??」


「……細かい事は」

「ええ!」


末筆(まっぴつ)ですが、先生の今後のご活躍をお祈りします イチカ株式会社」


「お祈りメールは軽くトラウマだからやめて」

「ホントやめて」


「……でさぁ、先生」

「ムダ毛とか処理した?もし毛がハミ出しているのを見られたら、ロベール君に嫌われちゃうぞ」


「……してない」

「お風呂入って来まーす!」

「あーめんどくせー!めんどくせー!」


「メッチャ笑顔で言うじゃん……」


ハルカはシャツを捲りながら、風呂場へと駆け抜けて行った。


「さて……と!工事の進捗具合でも見に行きますか!」


イチカは身体を伸ばし、立ち上がった。



~夕方~

~道央~

~富良野市・富良野西岳ダンジョン入り口付近~


『《山の老人》などと……大袈裟な』

『アルクーフ司令官は些か神経質なのでは?』


『そりゃ神経質にもなるさ』

『何せあのロシア人共とやり合ってるんだからな』


『ダゲスタンの連中が、ロシアの完全な犬になったのは痛かった』

『まるでモスクワに居る何か(・・)を恐れているかのような反応だった』


覆面を被り暗視装置を付けた男達は、次々とダンジョンへ入って行く。

そして畑に辿り着き、周囲を確認する。


『……畑は無事か』

『どうやら大麻草やケシが目当てではないらしい……』

『狙いが分からない……』


『もしかして、本当に首だけが狙いなのか……?』


『……どうやらあの大岩を祭壇に見立てていたようだ』


部隊長らしきクルド系の男は、大岩の上に並べられた首を検分する。


『……精霊信仰か自然信仰の一種か』

『アステカ文明の生贄信仰をも感じさせるな』

『恐らくこの山は老人に取っての信仰対象なのだろう。なればこそ(・・・・・)、我々は余計に妥協出来ない』


『唯一神アッラー以外の神は存在しない』

『そして異教徒や多神教徒との衝突に対する答えは、一つしかない』


『『『聖戦(ジハード)だ』』』


男達はM16ライフル(・・・・・・・)とRPGロケット、FPVドローンを携え、高台へと上がっていく。


『……相手は勘が鋭い』

『居場所を見つけ出し、遠くから一方的に殺す方が効率的で犠牲が少なくて済む』

『山岳戦も進歩している。《あの戦争》は我々にも大きな教訓をもたらした』


(……とでも思ってるんでしょうねぇ。お爺さんの言った通り、やはり戻って来ましたね)

(既に敵地なのに、わざわざ棒立ちで的になってくれているなんて……あり得ないガバさです)

(教訓は、身に染みてこそ本当に分かります。ネットの向こうには存在しません)


「……ファイア」


アイカの放った弾が、ドローンを抱えていた男の脳天を吹き飛ばす。

男達は一斉に伏せるが、背中を次々と撃たれていく。


『狙撃手の待ち伏せだ!!』

『全員岩場の陰に!!』


生き残った男達は、這いずりながら岩場の後ろへと逃げる。


『……完全に迂闊だった!』


アイカは僅かに微笑む。


「隠れる場所……本当にそこで良いんですか?」

「もう完全に追い込み猟ですね」


茂みの奥から猟銃の発砲音がし、隠れた者達へ銃弾が的確に襲い掛かる。


『わ、罠……!』


岩場から逃げ出した中東系の男達は次々と心臓を撃たれ、倒れていく。

生き残りの者達はバラバラに分かれ、森の中へと逃走する。


「そっちも罠じゃ、阿呆共」

「全く鈍い連中じゃ」


男の一人はくくり罠を踏み、転倒する。


『なっ……!』

『クソッ、こっちなら……!』


「そっちはトラバサミ(※1)じゃ、バカタレ」

「全く簡単過ぎて神様に申し訳が無いわ……」


木々の間から悲鳴が上がる。

それを聞き、残った者達が更に崖の方へと逃げる。

老人は短弓を持ち出し、素早く木へと登っていく。


「今日一日でこんなに生贄を捧げられるんじゃ」

「山の神様も上機嫌だろうて……」


老人は弓をつがえ、絞り切ってから放った。


「一匹」


矢が獲物(・・)のこめかみに刺さる。

続けて、老人は矢をつがえる。


「二匹」


M14ライフルを撃とうとした男の心臓に矢が刺さる。


『ガッ……!?』


「三匹」

「四匹」

「五匹……これで終わりじゃな」


アイカはスコープから目を離し、狙撃用ライフルを下ろす。


「……お爺さんの言った通りになった。トランシーバーすら使わなくて済むなんて……」

「やっぱりスゴい、あのお爺さん……狩りの経験値が圧倒的過ぎる……」


アイカはライフルを背負い、斜面を滑り降りる。


「マタギは遙か昔、銃が伝来する前は矢を使っていた、と聞いた事あるけど……」

「そっちでも超一流なんですね。後で罠のノウハウと一緒に教えて貰おーっと」


彼女は老人の元へ行き、獲物達の首を切断している彼に言う。


「お爺さん、凄いです」

「正直私は言われた通りに動く事しか出来なかった」

「……自分の未熟さを痛感させられました。まだまだ知らない事、出来ない事も多いと思いました」


老人は聖戦士達の首を刎ねながらニカッと笑う。


「ワシの言った通りに出来とるだけでも、相当に上出来じゃ」

「そこまで到達出来ん者も多いからな。ワシは久々に楽しくなったよ」


「お爺さん……」


「ほれ。こっちに来なさい。まだ狩りは終わっておらん」

「罠に掛かった獲物の処理がまだ残っとる」


「はい!」


アイカと老人は談笑しながら、罠に掛かった獲物(・・)が居る場所へと向かった。


※1 獲物が上に乗るとバネ仕掛けが動き、金属の棘や板で獲物の脚を挟み込む罠猟の道具。

日本やEUでは非人道的だかどうだかと言って禁止されていますが、お爺さんは自作のトラバサミを人に向かって使いました。お爺さんの殺意の高さが分かります。


お読みくださりありがとうございます。「面白かった」「続きが気になる」「更新頑張れ!」「お爺さんヤベェ」「弓の腕も異常でビビった」「山狩りのつもりが、逆に狩られてる……」と思っていただけましたら、ブクマ・評価いただけると励みになります。よろしくお願いいたします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ