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現代日本プレッパーズ~北海道各地に現れたダンジョンを利用して終末に備えろ~  作者: 256進法
第一部:イカレた北の大地へようこそ

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アラサー娘人生万馬券

当たり馬券、ありがとな。


~門別競馬場~

~ポラリス☆スタンド~


 レイカは目を覚まし、飛び起きて刀を振ろうとする。

だが、手元に刀はなく、彼女は辺りを見回す。


「起きたか、大阪人」

「ブタ肉天そば、冷めちまうぞ」


「……ワイ(・・)は負けたんか」


「……『ワイ』なんて無理に言わなくて良いぜ、もう」

「地は下町の健気な剣術少女だろ」

「なんで人斬りチンピラみたいなマネしてるかは知らんけど」


「……憧れてたイケメンの先輩に告白してOKもろたと思うてたら、次の休日に輪姦(マワ)されて家焼かれただけや」

「オトンと寝たきりのオカンは焼き殺されたわ」

「まぁ高っちゃんが助けてくれたんやけどな……」


「誰だよその高っちゃんって」

「コントの相方か?」


「しばくぞ」

「……史上最強のケンカ師にして、大阪裏社会最強の男や」

「筋肉詰め込みすぎて脳みそ足らんくなってるけど、()が支えとる」


「なんだ、もう王子様居るじゃん」

「キン肉星から来てそうだけど」


「……私と高っちゃんはそういう関係じゃないわ、アホ」

「私にとってのヒーローなんや、高っちゃんは」

「ただ、頭にダークって付くだけや」


「ますますキン肉星から来た疑いが……」


「……正直、私も最近疑っとる」

「あの《プロテイン》飲み始めてから、高っちゃんの異常性に磨きが掛かり始めたわ」

「今の高っちゃんは、ミサイル直撃しても傷一つ付かん気がする」


「……ダンジョンアイテムか?」


「せや。高っちゃんは何回も使えるからお得ってだけで、シェイクにして飲んどったな」

「しかも3時間ごとに」


「……名前は?」


「分からん」

「アイテム鑑定士も良いのを探しとるんやが、皆何処かのお得意さんや。メッチャ高い金取ってくるねん」

「まず鑑定用の《能力アイテム》が必要で、更に適性もあるちゅう話や」


「……士業みたいになってるな」

「しかし、正体が分からんものを3時間おきに飲んでるのか(恐怖)」


「高っちゃんはカマドウマや、消費期限切れの豚肉や鶏肉でも生で食える男やで」

「正体不明のプロテインぐらい余裕で飲めるわ」

「まぁ今回はそれがプラスに働いた、って事やな」


「アイテム無くても、生物として普通に強いだろそれもう」

「北斗の拳の世界でも普通に生きて行けそうだな」

「……で。話は変わるが、お前半グレか?」


「……そうやけど、それが何か」


「……いや、静内ダムのダンジョンで、半グレと借金奴隷の一団に会ってな」

「その場の半グレ全員殺しちゃった。てへっ☆」


「……アレお前やったんか!!?」

「って事はクラーケンをタコ焼きにしたのも……」


「刺したのは私だが、焼いたのは別の連中だな」

「タコ焼き1年分かってくらいデカかったぞ、アレ」

「まあそれはいいや。ごめんな、アレはやむを得ない正当防衛だったんだ」


レイカは肩の力を抜き、ため息を付く。


「……ええわもう。どうせアイツらカネと奴隷を持ち逃げして、シマ奪おうとしてたしな」

「お前が殺さんかったら、いずれ私が殺しとったわ」

「私が数字と財産全部管理しとんだから、気付かんワケないやろ。ったく……」


「真面目だなぁ、お前」


「……他に出来るヤツがおらんのや」

「だからいつの間にか、裏切りモンの粛清は私がやる事になったんや」


「一人バックオフィス(※1)かよ」

「そりゃしんどいな。高っちゃんとやらは一体なにやってんだ?」


「筋トレ、セックス、ケンカ、メシ、ダンジョン攻略、クズ共をシメる役やな」

「一人でダンジョン潜って普通に帰ってくるんや、高っちゃんは」

「《烈鬼剣兼定》も高っちゃんが持ち帰って来てくれたんや」


「すげぇな高っちゃん……」

「マジで最強の部類に入るんじゃないか……?」


「ああ!高っちゃんは最強なんや!」

「誰がなんと言おうとも、私の最高のヒーローなんや!」


レイカは笑顔を見せて言った。

イチカはポケットから馬券を出し、レイカへ投げて渡す。


「この当たり馬券、詫び料として受け取ってくれ」


「……そうかい。レースは終わってしもうたか……」

「私の女としての人生と同じや」

「けど、ええんか?一度渡したら返って来ないで」


「別に構わないさ。元から気分転換目当てだからな」

「……仲間と競馬場来て、くだらない事言い合いながら飯食って、レース見られればそれで良かったんだよ」

「馬券が当たるなんて、思ってもみなかった」


「……粋な事言いよるな」

「完敗や」

「そんで、オッズと賭け金は?」


「オッズは1524.8倍」

「賭け金1万円だから1524万8000円だな」

「だからお前に渡すのは、シャツ代と飯代と元手引いた1523万円だ」


「ほぇぇ~……」

「オマエの運、どうなっとるんや……」

「おまけに肝が据わりすぎとるわ……」


「……これでも、『元いじめられっ子系薄幸美少女イチカちゃん』だったんだぞ☆」


「寒すぎて悪寒が走りそうや、そのギャグ」

「あとアラサーがそれやるとキッツイからやめーや。私なら恥ずかしくてまず出来ん」

「……で。なんであのタヌキ気絶しとん」


「血糖値スパイクとアルコールですかね」

「ドカ気(※2)やめろって言ったんだけど」

「まぁ腹までタヌキになるタイプじゃないから平気だろ」


そして、イチカは手に持っていた《烈鬼剣兼定》をレイカへ渡そうとした。


「……この刀が何故お前だけ燃やそうとしなかったか、分かるか?レイカ」


「……その刀も魔法に掛かってるんやろ」


「……この刀にはな、修羅場と戦火を潜り抜けながら『誠』に生き、『誠』の為に鬼になって生き抜いた男の魂が宿ってる」

「人斬りを斬り、京都から北海道に掛けて名を轟かし、壮絶な最期を遂げた男の魂だ」

「だがそんな男も、最初はタダの悪ガキで愚連隊染みた不良剣士だった。『俺とお前は似てる』、だとさ」


レイカは鞘を握って言う。


「……お前、アイテムと会話出来るんか」

「まあでも《あの男》に見込まれたんなら、私の人生(わろ)うないわ」

(メッチャ嬉しいわ!!まさか……まさかのトッシーやで!!超大ファンや!!)


「良かったな」

「……お前のはあの魔女(・・)と比べれば、かなりマトモな相棒だよ」

(《グラデニェッツ》は兎も角、《バーバ・ヤーガの盛装》はヤバすぎた)


「魔女……まさかお前あの(・・)マルファと会うたんか!?」


「家に直接来たんだよ」

「ミニスカポリスのコスプレして」


「ふぁーーーw」

「想像するだけでオモロいわ」

「どないなっとんねん、お前の周り」


「こんな感じだわ」


イチカはいびきをかき、地面へ大の字になって寝てるアラサーたぬきを指さす。

レイカは思わず笑いこけた。


「はっ、はっ、反則やでそれは!」

「阪神競馬場に居るオッサンやがなもう!」


「しょうがない奴だな、もう……」

「飯食って酒飲んでんだから、その体勢は危ねーって……」


イチカはハルカを抱え起こし、後ろに背負った。

そして、レイカへ言う。


「もうしょうもない悪さしたり、クズから搾取すんなよ」

「刀の中の鬼がキレるぜ?」

「やるならもっとビッグな目標目指すんだな、その鬼みたいによ」


「……せやな」

「下ばかり見ててもしゃあないわ。上見んとな」

「折角の人生や……女盛り満開、大輪咲かしたるわ」


「……!その意気だ、レイカ」

「ここで一句。『人の世のものとは見へぬ桜の花』」


「ココには桜なんぞ咲いておらんやんけ」


()が詠んだ俳句だよ」

「世の中移り変わりが激しいんだ。よって、人生で華を咲かすチャンスなんてのもそう無い」

「だからやり直すなら()、って事さ」


「──」

「その解釈、嫌いじゃないで」

「オマエと逢う事が出来て、ホンマに良かったわ。所でオマエ、『Signal』はスマホに入れとるか?」


「ま、まあ、一応インストールだけ……」


「なら連絡先交換しよや」

「私ら反社はLINEや普通のメール使わんねん。暗号化アプリを使って仲間内でやり取りするのが、この業界のスタンダードなんや」

「テレグラムでもええけど、アレは魔女が覗き放題って噂があるからな。だからコレってワケや」


イチカとレイカは連絡先を交換し合う。


「何か仕事(・・)の依頼があれば言うてくれや」

「割引料金で引き受けたるわ」

「逆にこちらから仕事依頼するかも知れへんけど」


「遂にイチカちゃんも闇バイトデビュー?」


「《魔女》と関わった時点でどっぷり闇に浸かっとるから、そないな心配せんでエエで」

「……それと一つ警告しておく事があるわ」


「何だ?」


レイカはブタ肉天そばを啜りながら言う。


「《シルバー・ステイシス》のリーダーであるベルナルド、通称《黙示録》には気ぃ付けや」

「アイツは青年実業家兼やり手の探索者として、雑誌や記事にも取り上げられとる」

「だが、実態は中南米や南ヨーロッパで急速に勢力を伸ばして来とる、新興巨大カルテルの首領や。ソイツが日本、それも北海道に直属の部下達を連れて乗り込んで来とる」


「……市場開拓(・・・・)にでも来たのか?」


「ああ。だがソイツらが扱ってるのは麻薬やない。ダンジョンアイテムやそこで獲れる素材、そして武器やな」

「イチカ。気をつけぇや。ダンジョンアイテムほど人間を狂わすモンは無いで」

「タイではアユタヤダンジョンを巡って内戦状態に突入しとるし、オランダの巨大IT企業が魂の電子化に成功して、世界のIT市場を飲み込み始めとる。もうじきBaceBookは買収されるとちゃうんか」


「いやぁ~乱世乱世!」


「乱世じゃ無い時期なんて、人類の歴史で存在しないやろ。……話が逸れたわ」

「とにかく銀髪の美青年には気ぃつけや。敵対したらホンマ皆殺しやから」


「……分かった」

「画像も共有出来るか?」


「それがな……撮ったと思ったら消されとる(・・・・・)んや」

「アイツの部下がダンジョンアイテムか何か使うて、スマホのデータ操作しとんのやろな」


「コワ~~……」


「私もホンマに怖いわ」

「多分隠れ家もバレとるな。もうホンマ気疲れ凄いわ」


「マルファとそのベルナルドって奴、どっちが強い?」

「個人的な感想で良いからさ」


「……今はマルファ。1~2年後はベルナルドやな」

「そら実績(・・)ならあの魔女やが、潜在能力ならアイツの方が上やで」

「《魔女》は完成され切っとるからな、ある程度実力は読める。だが、あの銀髪は何処まで伸びるか分からへん。とにかくセンスが異常や」


「ふ~ん……なら、私と比較してどうだ?」


「直観的な感想やが、色んな意味で共通点多いで」

「今私はこう思っとる。『イチカかベルナルド、どちらかがダンジョン業界の覇権を握る』と……」

「《魔女》はオマエに賭けたようやな。私もオマエに賭けたわ。全BETや」


「……嬉しいな。私をそこまで評価してくれているのか……」


「アホ。まだ勝負は始まってもおらんで」

「レースはこれからやイチカ。私らも再スタートや」


「……ああ!」


イチカは拳を突き出し、レイカの拳と合わせた。


「……それでレース場を馬と一緒に併走してるあのパンイチの男、もしかしてアレが高っちゃんか?」


「は???」

「ま、マジや……な、なにやっとんねん、高っちゃん……!」


高っちゃん(・・・・・)はレイカに気付き、ポージングを取りながら大声で言う。


『ごめん!!レイやん!!!スマホ落とした!!!』

『このバックダブルバイセップス(※3)で許してくれ!!!』


「……しゃーないなもう、高っちゃんは……」

「こうなると思って位置情報アプリ入れておいたから、後でゆっくり探しに行こうや」


そして刀を受け取り、イチカの方を振り返りながら言う。


「当たり馬券、ありがとな」

「近いウチにメシ奢ったるわ」


「楽しみにしてるよ、レイカ」

「他の連中も一緒で良いか?」


レイカはニッと微笑み、レース場へと飛び降りて行った。



※1 基本的に顧客と関わることがない職種・業務を総称した呼び名。経理・財務、人事・労務、法務、総務、IT関連などの部門が、これに相当します。

つまり、レイカはワンオペ事務担当です。高っちゃん(剃町)には何が何だか分かっていません。

クズ共もクズが故にアテにならないので、レイカも半ば外部業者に投げたりしています。


※2 ドカ食い気絶の略。


※3 僧帽筋と締まった大臀筋、広背筋と三角筋後部とで奏でる筋肉ハーモニー。最も難易度が高いが、最もセクシー。


お読みくださりありがとうございます。「面白かった」「続きが気になる」「更新頑張れ!」「鬼ってそういう意味か!」「イチカの運と度量が凄すぎる」「レイカとのやり取りが良い」と思っていただけましたら、ブクマ・評価いただけると励みになります。よろしくお願いいたします。

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