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現代日本プレッパーズ~北海道各地に現れたダンジョンを利用して終末に備えろ~  作者: 256進法
第一部:イカレた北の大地へようこそ

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アラサー娘シンデレラバーン

人を斬る剣は、所詮度胸や。

例え灰になっても自分を貫いたる。


~門別競馬場~


 大阪弁の女は刀をゆっくりと抜いていく。

鋭く硬く光る刃が、日光に照らされて煌めきを放つ。


「簡単に(はらわた)ブチ撒けてくれるなよ?クソ女」

「まぁでもレースには間に合うよう殺したるわ」


「御託が長いな大阪女」

「コントの前フリならルミネでやっとけ」

「それと……その顔の火傷は、お好み焼きを焼く時に出来たのか?」


「アカンわ。もうお前アカンわ」

「お綺麗な顔して、そないな事言ってるのが余計にムカつくわ」

「お前は切り刻んで、ゲロみたいなもんじゃ焼きの具にしたる」


「良いから掛かって来いよ」

「私はイチカ。お前は?」


「レイカ。剣崎レイカや」

「もう忘れてエエで。お前、これから死ぬからな」


イチカは直ぐさま後ろに飛び退く。

彼女のシャツに、パックリと切れ込みが出来る。


「……エエ反射神経しとるわ」

「メリケンの兵隊はバッサリやったのに」


「……お前米兵斬ったのかよ」


「ワイに銃を向けて乳揉んで来やがったからな」

「その場で銃ごとぶった斬ってやったわ」


「イラクやアフガンよりヒデェんじゃねぇか?今の北海道……」


「大阪もまあまあ酷いで」

「西成やミナミでは毎日のように銃撃戦起きとるわ」

「サツ共は大阪城みたいな要塞に籠もっとる。妖怪みたいな連中が乗っ取った京都よりは、マシやけど。ウチらの利権に手を出してきた妖怪を、何体かぶっ殺したったわ」


「もう修学旅行永遠に中止じゃん……」

「青春の思い出作れないじゃん……」


「どっちも無さそうやな、お前」

「はははっ!関東モンもオモロいギャグカマせるんやなぁ!」


「はい、イチカちゃん激激激おこモードです」

「大阪女の鉄火巻き作って、売店で売っちゃおうか」


「その鉄火巻き、エラい高くつくで」

「《烈鬼剣兼定》、ワイの命燃やせや」


レイカは一気に距離を詰め、イチカに斬りかかる。

イチカは素早くレイカの手首を掴み、彼女の足を払って崩しに掛かる。


「甘いわ!赤眼女!!」


レイカはそのまま身体を回転させ、下からイチカの正中線を斬り上げようとする。

イチカは素早く手を放し、レイカの腹へ蹴りを入れて吹き飛ばす。


「ぁぐっ……!」


レイカは吹き飛ばされ、ポラリス☆デッキ(※1)へ叩き付けられる。


(……!なんや、人間の蹴りの威力やないわ!)

(まさかダンジョンアイテムでも使(つこ)うとるんか……!)


レイカはよろけながら立ち上がる。

周囲が騒然とし始めるが、二人は睨み合いながら、互いに構え合う。


「……ソレ(・・)、タトゥーやあらへんな」

「ダンジョンアイテムの影響やろ」


「……みたいだな」

「戻し方が分かんなくて困ってんだよ。このままじゃ温泉にも行けないんだ」

「知ってたら教えてくれよ」


「知らんわアホ。敵に聞くなや」

「適当に『戻れ』言うたら戻るとちゃうんか」


「よし……『戻れ』!」


イチカの手から首にかけて走っていた幾何学模様が、目元に引いていく。


「あ。戻った」

「うわすげぇ!」


「なんやソレ怖いわ……」

「どんだけ適当なんや、ダンジョンアイテム造ったヤツ……」


「『痒い所にも手が届く親切設計』、って言い換えてあげろよ」

「お前三白眼のクセに結構神経質だな」


「三白眼は性格に関係ないやろ」

「キュートなお目々してなくて悪かった……な!」


レイカはまたもや一気にイチカとの距離を詰める。


(──これは縮地だな)

(こいつの剣術は、積み重ねられた技術に裏打ちされている)

(……古流剣術か!)


(──気付いとるな(・・・・・・)、コイツ!!)

(これは、早めに勝負畳まなアカン……!)


「腸晒せや、イチカ」

「オドレの臓腑でモツ鍋作ったる」


イチカはレイカの手元を掴み、薙ぎ払いを防ぐ。

レイカの手元から、炎が出て刃先に伝わっていく。


「手ェ掴んどっても良いけど、そのままだと燃えカスになるで」

「灰になるか、ワイみたいに顔面へ嫁に行けないような火傷を負うか、その二択や」


「……っ!意外とメンヘラ気質だなお前……!」

「私の灰を被れば、お前もシンデレラになって理想の王子様に会えるかもな……!」


炎の勢いが強くなる。


「その王子様とやらにワイは女の尊厳奪われ、顔に火傷負わされたんや」

「12年経ってもまだ魔法が解けんわ」


「……なら私が解いてやるよ、その魔法!!」


イチカはレイカの手をグイと手元に引っ張り、後ろ回し回転蹴りを彼女の後頭部へ加えた。

レイカは意識を失いかけ、うつ伏せに倒れる。


(たか)っちゃん……」

()また……」


レイカは遂に気絶したが、握った刀は離さなかった。


「……気絶しても刀を離さない……」

「マジモンの達人だなコイツ……」

「ハルカ!こいつの刀を取れ!」


「お、おう!?」


ハルカは慌てて刀に水を掛け、レイカの手から刀を取ろうとする。


「んぎぎぎ……固すぎ……!」

「どんな握力してんの……よっ!」


彼女は指を一本ずつ剥がし、恐る恐る刀を掴む。


「あっつ……!」

「まるで電子レンジに入れた冷凍たこ焼きみたい……!」


「普段の食生活が伺い知れる悲しいご発言……」


イチカはレイカを軽々と抱え上げる。


「なんだ?私はポン刀使いを運ぶ役目でも担ってるのか?」

「あ。でも結構良い匂いするわ、この大阪人」


ハルカはイチカの脇腹にたぬパンチを入れる。


「アイカの気持ち、良く分かった気がするよ……!」

「この天然タラシ!」


「……えぇ~~?」

「なんか理不尽過ぎない??」


イチカはズカズカと先を歩いていくハルカを、ゆっくりと追いかけた。



~道南~

~国道235号沿い~


 帽子を被ったパンツ一丁の色黒デカマッチョが、国道を疾走していく。

彼はロードバイクを軽々と追い抜き、自転車野郎は思わずサングラスを取って自転車を止める。


「おい!タービンエンジンでも載っているのかい!ヒラメ筋!」

「ビルでも支えているのかい!大腿筋(だいたいきん)!」


色黒マッチョは金無垢の時計を確認する。


「なにっ!もうこんな時間なのかい!」

アレ(・・)の時間や!」


彼は白い粉を取り出し、腰に付けたペットボトルホルダーから容器を取り出す。

そして、粉を容器に入れ、振りながら赤信号を突破する。


「んー!最高や!!」

「まさかダンジョンにプロテインがあるとは、俺はメチャクチャツイとる!!しかも何回も使えるとは、スーパー玉出も驚きのコスパや!」

「筋肉の神さん、ありがと!!」


色黒マッチョは一気にプロテインシェイクを飲み干し、交差点を突破していく。

横から大型タンクローリーが迫り、大きなクラクションが鳴らされる。


「なんやタンクローリーかいな」

「俺の肩はタンクローリーも乗せられる!!」

「そ~ら!フロントダブルバイゼップス(※2)!!」


なんとマッチョはタンクローリーに向かっていき、途中で止まってポージングを取る。

タンクローリーはブレーキが間に合わず、マッチョへ突っ込んでいく。


「ハッ(笑顔)」


ローリーは色黒マッチョと激突し、正面からひしゃげていく。

マッチョは飛び出たガソリンで油塗れになり、プラモデルのような肉体が黒光りに包まれる。


「サイドトライセップス(※3)!!」

「う~~ん、ええで!!ワイの肉体は最高や!!シュワちゃんのような活躍も夢やないで!!」

「デデンデデンデン!!ワイは梅田のターミネーターや!」


彼は時計を確認する。


「お!アカンアカン!」

「レイやん昔から時間にうるさいねん!」


再び色黒デカマッチョは国道を疾走して行った。




※1 門別競馬場にあるパドック観覧デッキ。マジでこんな名前なんです。


※2 鍛え抜いた大胸筋と上腕二頭筋を、正面から見せつける漢のポーズ。スタンダードが故に美しい。


※3 鍛え抜いた上腕三頭筋を魅せるポーズで、更に肩・脚・腹斜筋のデカさで観客を魅了する最強ポーズ。ボディビルと言えばこのポーズをイメージするんじゃないでしょうか。



お読みくださりありがとうございます。「面白かった」「続きが気になる」「更新頑張れ!」「なんちゅうシンデレラだ」「筋肉センサーが反応している」と思っていただけましたら、ブクマ・評価いただけると励みになります。よろしくお願いいたします。

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