アラサー娘シンデレラバーン
人を斬る剣は、所詮度胸や。
例え灰になっても自分を貫いたる。
~門別競馬場~
大阪弁の女は刀をゆっくりと抜いていく。
鋭く硬く光る刃が、日光に照らされて煌めきを放つ。
「簡単に腑ブチ撒けてくれるなよ?クソ女」
「まぁでもレースには間に合うよう殺したるわ」
「御託が長いな大阪女」
「コントの前フリならルミネでやっとけ」
「それと……その顔の火傷は、お好み焼きを焼く時に出来たのか?」
「アカンわ。もうお前アカンわ」
「お綺麗な顔して、そないな事言ってるのが余計にムカつくわ」
「お前は切り刻んで、ゲロみたいなもんじゃ焼きの具にしたる」
「良いから掛かって来いよ」
「私はイチカ。お前は?」
「レイカ。剣崎レイカや」
「もう忘れてエエで。お前、これから死ぬからな」
イチカは直ぐさま後ろに飛び退く。
彼女のシャツに、パックリと切れ込みが出来る。
「……エエ反射神経しとるわ」
「メリケンの兵隊はバッサリやったのに」
「……お前米兵斬ったのかよ」
「ワイに銃を向けて乳揉んで来やがったからな」
「その場で銃ごとぶった斬ってやったわ」
「イラクやアフガンよりヒデェんじゃねぇか?今の北海道……」
「大阪もまあまあ酷いで」
「西成やミナミでは毎日のように銃撃戦起きとるわ」
「サツ共は大阪城みたいな要塞に籠もっとる。妖怪みたいな連中が乗っ取った京都よりは、マシやけど。ウチらの利権に手を出してきた妖怪を、何体かぶっ殺したったわ」
「もう修学旅行永遠に中止じゃん……」
「青春の思い出作れないじゃん……」
「どっちも無さそうやな、お前」
「はははっ!関東モンもオモロいギャグカマせるんやなぁ!」
「はい、イチカちゃん激激激おこモードです」
「大阪女の鉄火巻き作って、売店で売っちゃおうか」
「その鉄火巻き、エラい高くつくで」
「《烈鬼剣兼定》、ワイの命燃やせや」
レイカは一気に距離を詰め、イチカに斬りかかる。
イチカは素早くレイカの手首を掴み、彼女の足を払って崩しに掛かる。
「甘いわ!赤眼女!!」
レイカはそのまま身体を回転させ、下からイチカの正中線を斬り上げようとする。
イチカは素早く手を放し、レイカの腹へ蹴りを入れて吹き飛ばす。
「ぁぐっ……!」
レイカは吹き飛ばされ、ポラリス☆デッキ(※1)へ叩き付けられる。
(……!なんや、人間の蹴りの威力やないわ!)
(まさかダンジョンアイテムでも使うとるんか……!)
レイカはよろけながら立ち上がる。
周囲が騒然とし始めるが、二人は睨み合いながら、互いに構え合う。
「……ソレ、タトゥーやあらへんな」
「ダンジョンアイテムの影響やろ」
「……みたいだな」
「戻し方が分かんなくて困ってんだよ。このままじゃ温泉にも行けないんだ」
「知ってたら教えてくれよ」
「知らんわアホ。敵に聞くなや」
「適当に『戻れ』言うたら戻るとちゃうんか」
「よし……『戻れ』!」
イチカの手から首にかけて走っていた幾何学模様が、目元に引いていく。
「あ。戻った」
「うわすげぇ!」
「なんやソレ怖いわ……」
「どんだけ適当なんや、ダンジョンアイテム造ったヤツ……」
「『痒い所にも手が届く親切設計』、って言い換えてあげろよ」
「お前三白眼のクセに結構神経質だな」
「三白眼は性格に関係ないやろ」
「キュートなお目々してなくて悪かった……な!」
レイカはまたもや一気にイチカとの距離を詰める。
(──これは縮地だな)
(こいつの剣術は、積み重ねられた技術に裏打ちされている)
(……古流剣術か!)
(──気付いとるな、コイツ!!)
(これは、早めに勝負畳まなアカン……!)
「腸晒せや、イチカ」
「オドレの臓腑でモツ鍋作ったる」
イチカはレイカの手元を掴み、薙ぎ払いを防ぐ。
レイカの手元から、炎が出て刃先に伝わっていく。
「手ェ掴んどっても良いけど、そのままだと燃えカスになるで」
「灰になるか、ワイみたいに顔面へ嫁に行けないような火傷を負うか、その二択や」
「……っ!意外とメンヘラ気質だなお前……!」
「私の灰を被れば、お前もシンデレラになって理想の王子様に会えるかもな……!」
炎の勢いが強くなる。
「その王子様とやらにワイは女の尊厳奪われ、顔に火傷負わされたんや」
「12年経ってもまだ魔法が解けんわ」
「……なら私が解いてやるよ、その魔法!!」
イチカはレイカの手をグイと手元に引っ張り、後ろ回し回転蹴りを彼女の後頭部へ加えた。
レイカは意識を失いかけ、うつ伏せに倒れる。
「高っちゃん……」
「私また……」
レイカは遂に気絶したが、握った刀は離さなかった。
「……気絶しても刀を離さない……」
「マジモンの達人だなコイツ……」
「ハルカ!こいつの刀を取れ!」
「お、おう!?」
ハルカは慌てて刀に水を掛け、レイカの手から刀を取ろうとする。
「んぎぎぎ……固すぎ……!」
「どんな握力してんの……よっ!」
彼女は指を一本ずつ剥がし、恐る恐る刀を掴む。
「あっつ……!」
「まるで電子レンジに入れた冷凍たこ焼きみたい……!」
「普段の食生活が伺い知れる悲しいご発言……」
イチカはレイカを軽々と抱え上げる。
「なんだ?私はポン刀使いを運ぶ役目でも担ってるのか?」
「あ。でも結構良い匂いするわ、この大阪人」
ハルカはイチカの脇腹にたぬパンチを入れる。
「アイカの気持ち、良く分かった気がするよ……!」
「この天然タラシ!」
「……えぇ~~?」
「なんか理不尽過ぎない??」
イチカはズカズカと先を歩いていくハルカを、ゆっくりと追いかけた。
~道南~
~国道235号沿い~
帽子を被ったパンツ一丁の色黒デカマッチョが、国道を疾走していく。
彼はロードバイクを軽々と追い抜き、自転車野郎は思わずサングラスを取って自転車を止める。
「おい!タービンエンジンでも載っているのかい!ヒラメ筋!」
「ビルでも支えているのかい!大腿筋!」
色黒マッチョは金無垢の時計を確認する。
「なにっ!もうこんな時間なのかい!」
「アレの時間や!」
彼は白い粉を取り出し、腰に付けたペットボトルホルダーから容器を取り出す。
そして、粉を容器に入れ、振りながら赤信号を突破する。
「んー!最高や!!」
「まさかダンジョンにプロテインがあるとは、俺はメチャクチャツイとる!!しかも何回も使えるとは、スーパー玉出も驚きのコスパや!」
「筋肉の神さん、ありがと!!」
色黒マッチョは一気にプロテインシェイクを飲み干し、交差点を突破していく。
横から大型タンクローリーが迫り、大きなクラクションが鳴らされる。
「なんやタンクローリーかいな」
「俺の肩はタンクローリーも乗せられる!!」
「そ~ら!フロントダブルバイゼップス(※2)!!」
なんとマッチョはタンクローリーに向かっていき、途中で止まってポージングを取る。
タンクローリーはブレーキが間に合わず、マッチョへ突っ込んでいく。
「ハッ(笑顔)」
ローリーは色黒マッチョと激突し、正面からひしゃげていく。
マッチョは飛び出たガソリンで油塗れになり、プラモデルのような肉体が黒光りに包まれる。
「サイドトライセップス(※3)!!」
「う~~ん、ええで!!ワイの肉体は最高や!!シュワちゃんのような活躍も夢やないで!!」
「デデンデデンデン!!ワイは梅田のターミネーターや!」
彼は時計を確認する。
「お!アカンアカン!」
「レイやん昔から時間にうるさいねん!」
再び色黒デカマッチョは国道を疾走して行った。
※1 門別競馬場にあるパドック観覧デッキ。マジでこんな名前なんです。
※2 鍛え抜いた大胸筋と上腕二頭筋を、正面から見せつける漢のポーズ。スタンダードが故に美しい。
※3 鍛え抜いた上腕三頭筋を魅せるポーズで、更に肩・脚・腹斜筋のデカさで観客を魅了する最強ポーズ。ボディビルと言えばこのポーズをイメージするんじゃないでしょうか。
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