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私の青春は女装オスガキ趙雲だった


ああ、うん、まぁ、性癖は人それぞれだからさ……


観賞用BGM:https://www.youtube.com/watch?v=7OZErHXgnjo&ab_channel=fighters41dome


~帯広市内~

~ハルカの住んでいるアパート~


三人は扉を開け、部屋に上がり込む。


「……意外と綺麗だな。普通じゃん」

「もっと壊滅的だと思っていたが」


「え~と、ほら、私も女だし?ね?」

「もし男が来たら……」


「まあ見た目良いし、モテそうだしな……」


しかしアイカは部屋の奥へとズカズカ踏み込み、棚に掛かる布を剥ぎ取った。

布の奥から現れたのは、槍を持った全裸少年のフィギュアを始めとした、数々の逸品だった。


「うわ」

「……前言撤回するわ」

「こりゃマトモな男となんか付き合えないだろ……」


イチカはベッドに掛かっている布団を剥ぎ取る。

中からはえげつないマスターベーション用の道具が、次々と出てきた。


「な、なんだこのサイズ……」

「モテないとここまで行き着いてしまうのか……」

「これは後ろに入れるのか?前に入れるのか?」


「〜〜っ!」

「あんた等、私をイジメに来たのか!?」


「いや、そんなつもりは全くないけど……」

「ほら……人の性癖はそれぞれだからさ、私は別に構わないと思うんだ、うん」


アイカは引き出しをガチャガチャと弄り始める。


「あっ。なんか鍵が掛かってますね、この引き出し」


そして彼女は懐から細長い棒と鍵束を取り出して、ピッキングを始めた。


「だめぇっ!それだけはぁ〜〜っ!!」

「ちょっと止めろよこの狂犬!!」


「ごめん」

「まだ拾って1週間も経ってないから、私もまだ飼い方とか生態とかが全部分かってないんだよ」

「まあ慣れてくれとしか言いようがないな……」


「そんな生き物を人の家に連れて来るんじゃねぇ〜〜っ!!このノンデリ女!!」

「ってもう開けてやがる〜!」


アイカは同人誌の束を取り出し、表紙を眺める。


「えーっと……『女装オスガキ趙雲逆レイプ』……?」


「あーっ!あーっ!あーっ!」

「私の黒青春がぁ〜〜っ!!」


アイカはペラペラとページを捲る。


「要は若い男を性的に食べたいというリビドーを……」


ハルカはアイカの手から黒歴史を奪い返した。


「言うんじゃねぇ〜〜っ!この《ピーッ》が!」

「あぁ~~!クソクソクソクソクソ……もう本当に終わりだよ私……!」


ハルカが奪い返した本を、更にイチカが取る。


「……でも、こっちが本当のお前なんじゃ無いのか?」

()描いてるモノを見せてみな」


ハルカは涙ぐみながら、一冊の同人誌を取りイチカに投げつける。

イチカはそれをキャッチし、パラパラと捲る。


「……明らかに力入ってないな。線もなんか乱れてるし」

「第一、ノーマル純愛甘やかし系巨乳モノなんて、お前が本当に描きたいモノじゃないだろ」


「……売り上げの為に自分を曲げた」

「けど、それが全くの逆効果で……もうそれからの転落はあっという間だった(DL販売も急降下)」

「絵柄の更新も出来てないし、どんどん自分が必要とされなくなってるのを実感していた……」


「……だから強盗をやろうとするまでに思い詰めたのか」

「学生時代はどうだっんだ?」


「……何故学生時代の事を?」


「いや、ほら、何か他に武器があるかもしれないしさ……」


「……普通にタダの陰キャだったけど……」

「高校時代に曹操×劉備の18禁シーン描いたノートが見つかって、それからはクラスカースト最下位て感じで……」

「美大時代はぼっちだったし、イベントではヤリ目の勘違い野郎ばかりに会うし……」


「という事は……あのフィギュアは趙雲か?三国志好きなん?」


「無双シリーズにハマって、それから……」

「『無双fan field』にもイラスト投稿したし……」


「……そうか。私も家に引き籠もってた時代、無双シリーズやってたぞ」

「張遼と魏延ばかり使ってた記憶ある」

「三国志ⅦとⅧもやったなぁ。XIは糞藝爪覧(くそげーつまらん)だったけど」


ハルカは泣きじゃくり、鼻水塗れになりながら口を曲げ、イチカの顔を見て言う。


「ぐすっ……一番好きな武将は?」


鄧艾(ドンタコス)

「後の世で、プロレス技使うゴツい稲姫と化す所まで好き」

「あと、内政でも軍事でもメッチャ便利。気付いたらいつも都督になってるわ」


「……シ、シブい所を突いて来る……」

「わ、私は陸遜。その次に趙雲、姜維ってカンジで……」


「陸遜は横光三国志じゃ、タダのデブだったけどな」

「趙雲はドカベンだし」


「て、テメェ!!!このノンデリ女!!!それは禁句だろうがァ!!!!」

「この$%&'()=~)('('%$#$%!!」


「お、落ち着けよ」

「姜維は横光三国志でもしっかりイケメンだったろ」

「史実では鄧艾に一度も勝てなかったけど」


「やっぱりアンタ、私をバカにしに来たんでしょ!!?」


アイカがベッドに座り、同人誌を広げながら言う。


「……あんまりイチカさんに刃向かうと熊のエサにしますよ」

「アナタは今頃警察に捕まって、留置場に入っていてもおかしくないんですから」

「でしょう?ドMドエロスキー先生(・・)


「わぉ……すげぇペンネーム……」

「もう私からは何も言えねぇよ……」

「ドストエフスキーは異常性欲者だから喜びそうだけど」


ハルカは事務椅子に座り、項垂(うなだ)れる。


「……私、母の再婚相手に家を追い出されてるの」

「『気持ち悪いモノばかり作るな』とか、『お前が居ると近所の評判が悪くなる』とか……」

「だから家を出てなんとか生計を立てようとしたんだけど、どうにも上手く行かなくて……」


「でも……友達は全く出来ないし、理解者も居ないし、彼氏も出来ないし、仕事も出来ないし……!」

「イベントに来る幸せそうな家族連れを見る度に、自分がみじめになる……!」

「私もう30なのに、まだ何も望みを成し遂げてないの……この人生で!!」


イチカはアイカへ目線で合図する。

アイカはアパートから出て、駐車場に向かって行く。

イチカは泣きじゃくるハルカに言う。


「……私だって望む事は何も成し遂げてないよ」

「イジメのお陰でまともな青春は送れなかったし、人には好かれるどころか嫉妬される始末だ」

「学歴や資格は人並み以上にあるかもしれないけど、それ自体が私を救ってくれたワケじゃない」


「……」


「アイカも同じだ」

「アイツは元オリンピック選手だったんだ」

「だけど、何かがあって夢の舞台を諦めざるを得なくなったんだ。アイツだって望む何かを成し遂げたワケじゃない。第一本当にお前の事を嫌っているなら、既にお前はアイツに殺されてるだろうな」


アイカはドアの後ろで立ち尽くしながら、二人の会話に耳を澄ましていた。

ハルカは涙を拭いながら呟く。


「分かってる……自分が望む事を成し遂げられるワケじゃないって……」

「現実との折り合いを付けていかなきゃいけないって、分かってるんだ……」


「……だよな」

「私も折り合いを付けている最中だよ。だから本当は欲しいんだよ、同じ世界を視る仲間が」

「この現実を一緒に戦い抜ける仲間が……」


イチカは床に座り込み、タバコを取り出して火を付ける。


「……ままならないよな、人生」

「中々出来ねぇよな、友達」

「怖いよな、人間」


彼女は煙を吐き出し、その後を追うように言葉を紡ぐ。


「……私は好きだぜ、女装したオスガキ趙雲」

「本当はギルテ○ギアのブリジットの方が好きだけど」

「でも、私は私と同じ視点に立って私を理解してくれる男なら、誰でも好きだな」


「……それこそ夢物語じゃん」


「かもな」

「でも、ダンジョンは夢を現実に変え始めた」

「お前の夢、ダンジョンで叶うかもしれないぞ。この一週間で海外産のイケメンに6人も遭ったし。日本産の方も超男前だったな。妻子持ちだったけど」


「うそぉ……」


「いや、マジだって」

「紙と色鉛筆貸してみ」


ハルカは慌ててイチカへ紙と色鉛筆を渡す。

イチカはカルロスに始まり、ヴェルナールで終わる一連のイケメンパラダイスを紙に描き出す。

その時、アイカが袋を持って部屋に入ってくる。


「イチカさ~ん!♡」

「お酒、そしておつまみ持って来ました!♡」


「おう、そこに置いておいてくれ」

「今イケメンスケッチ大会やってんだ」


アイカはイチカの背中に抱きつき、イチカの手元を覗き込む。


「イチカさんって、絵も上手いんですね!」


「建築デザインも好きだったからな」

「大学の授業が終わった後、風景や建物、通りがかりの人間達をスケッチしに良く行ってたんだよ」

「そしたらいつの間にか上手くなってたんだ」


ハルカも目を丸くしながら、手元を覗き込む。


(い、いつの間にか上手くなってたとか言うレベルじゃない……!)

(美大でも通用するレベル……いや、美大生全員が絵上手いワケじゃないけど、それでも……!)


「……大学は何処に?」


「本郷のアレ」


「ま、まさか東大!?」


「うん。いつも驚かれるよな、ソレ言うと……」

「そんなにバカそうに見えるか?私……」


「……いや、単純にイメージと合わないだけじゃない……?」

「どう見ても反社会的なタイプに見えるし……」


「うわ、ショック」

「バショクショック!!」


「ショックなのは孔明だろ」

「それはそうと張郃って、無双だとなんであんなキャラにされたんだろう……」

「K○EIって偶に謎な采配する気が……」


「F○teサムライレムナント作った時点で、おかしいと分かるだろあそこの社長は」

「奥さんはもっとスゲェ人だけど」

「お、良い感じだ!」


そして40数分後、二人が見守る中、イチカは6人のイケメンを描き上げた。


「えーっと確かこの青い瞳で茶髪の、甘い感じで女たらしっぽいラテン系の男がベルトランだ」

「出身は多分、アルゼンチンかコロンビアだな」


「やっべ……俳優やモデルレベルのイケメンやんけ……」

「ダンジョン夢あるわ……」


ハルカの涙が収まり、代わりにヨダレが出て来る。


「そして、こっちがユルゲン」

「なんかアーマーみたいなのを付けてたけど、頭部装甲を外した時に一瞬見えた顔はこんなカンジ」

「多分ドイツ系」


「チ○ポクッッソデカそう」

「思い切り後ろから突かれたい」


「それでこれがヴェルナール」

「一言で言うとクリント・イーストウッドに激似。多分ベルギー人かオランダ人だと思う」


「私の子宮に弾丸命中させて欲しいんだけど」


「ドMドエロスキー先生のキモさが留まる所を知らないな」

「そしてこのフランス人がモントヴァン。コイツはマジで強かった。対等な条件で勝負したら多分勝てなかったな」


「全身性器だろ、このガタイ……」

「寝技強そうで助かる」


「モントヴァンの寝技を生身で喰らったら死ぬぞ」

「んで、この金髪青眼の白騎士が、ラインバウト。ミュンヘンがどうのこうの言ってたし、多分ドイツ人かなぁ」

「恐らく今まで会った人間の中で、トップ3に入る強さだ」


「なんだ!?この超イケメンスケベ騎士!?」

「騎士道物語が官能小説になっちゃうだろ……」


「多分コイツはお前みたいな腐った三十路でもご婦人扱いしてくれるぞ、良かったな」


「それマジ?」


「マジ。大マジ」

「女は絶対に殴らない、とか言ってたらしいし」


「やっべぇ~~……行きてぇ~~ダンジョン……」


「で、これが先生ご待望のロベール君です」

「まだ20前後で、あどけなさが相当残っております。多分スイス人かフランス人かな」


「ねぇ、彼何処住み?番号とか知ってる?」


「知ってるワケねぇだろ」

「ヴェルナールからは連絡先貰ったから、そこに連絡すれば会う機会あるんじゃないか?」


「今すぐ連絡しろよ、ノンデリ女」


「自分でやれよ、それぐらい」

「もう30だろ?」


「えー、えーっと……恥ずかしいし……」

「ロベール君から誘って欲しいし……」


「うーんこれは暫く結婚無理ですわ」


イチカは袋からビールの缶を取りだし、フタを開けた。


後半三国志とイケメンの話しかしてねぇ

自分より年下の男の子が大好きなドMドエロスキー先生に、是非励ましのお便りを。


お読みくださりありがとうございます。「面白かった」「続きが気になる」「更新頑張れ!」と思っていただけましたら、ブクマ・評価いただけると励みになります。よろしくお願いいたします。


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