豚丼ぐらい静かに食わせろ
か、カネを出せぇ~~!
~帯広市内~
~『十勝豚丼いっぴん』~
(入れ墨……!?しかも目にも……)
(うわっ、背も鼻も高っ……!髪メチャクチャ綺麗……!)
女性店員はイチカの風体に恐れを為したが、アイカの笑顔が放つ無言の圧力により、しずしずと注文を受け付け始めた。
「ふ~~ん……持ち帰りも出来るのか……」
「ま、それは今度で良いな」
「じゃあ私はこの『特盛セット』で。とにかく身体が肉と米を求めてるわ。アイカは?」
「私は大盛りで!♡」
「夜の丼物ってなんだかイケナイ気がして良いですよね!♡」
「確かに……」
「食っちゃいけない時間帯に食うからこそ、ウマイというか……」
二人は笑いながら席に座り、水を飲もうとする。
その時、店のドアが勢い良く開き、若い女の声が店内に響く。
「か、カネを出せぇ~~!」
「このマカロフの弾を喰らいてぇかぁ~~っ!」
イチカは水を飲みながら、溜息を付く。
「マカロフって……絶対マルファが流してんだろ……」
「ホタテやカニの代わりに銃で支払ったのか??」
「つーかいい加減休ませてくれよ……」
「う~~ん……あんなド素人でも、射撃安定性の高いマカロフはそれなりに脅威です」
「私が何とかしてきますよ、イチカさん」
「おう頼むわ」
「店員に当たらないよう気を付けてな」
そして、アイカは強盗に近づいて行く。
強盗は彼女に反応し、震えながら銃をアイカへ向ける。
(あ。これホントの素人だ)
(多分銃を握ったのは今日が初めてかも)
「う、撃つぞ"#$%&'()==``*)(!!」
(しかも噛みまくってるし)
アイカは強盗の眼の前に立つ。
そして、自分の心臓辺りを人差し指で指す。
「ちゃんと胸の高さに合わせないと」
「それに肘が曲がり過ぎ」
アイカは、震えて硬直する強盗の肘を伸ばす。
「それに手は拝むようにしてじゃなくて、左手で右手を支えるようにして……」
「フロントサイトは目線に合わせて……そう!サマになったじゃないですか!」
「後は足を肩幅に開く!」
「はっ、はぃぃぃっ!」
「……って、なにアンタ!?」
「通りすがりの天才射撃美女で~す♡きゃっ♡」
(((きゃっ♡じゃねーよ!)))
強盗の引き金を弾く指に思わず力が掛かって弾が発射され、店内のライトを割り飛ばす。
次の瞬間、アイカは素早くマガジンキャッチを押して弾倉を抜き、スライドとバレルを外し、リコイルスプリングを抜き取った。
アイカはスプリングで強盗のデカパイを突き始める。
「そう言えば、まだフィールドストリップを教えてませんでした♡」
「てへっ♡」
イチカは全身の力が抜けたように椅子へもたれ掛かった。
店員は腰の力が抜けて座り込み、床には黄色い水溜まりが出来ていた。
「あ、ぁ、ぁ……わわわ……!」
強盗もへたり込み、床で足を滑らしながら店の外へと逃げて行く。
イチカはコップを置き、立ち上がる。
「……流石にこのままには出来ないな……」
そして彼女はアイカの肩を叩き、へたり込む店員を指差す。
「サツは呼ばせるな」
「そして床を拭いて着替えを手伝ってやれ」
「はい!♡わかりました!♡」
イチカは店のドアを開けて外へ出て行く。
~路上~
「はっ……!はっ……!はっ……!はぅ~~……!」
「有り金はたいて銃を手に入れたのに、強盗作戦も失敗だなんて……!」
「もうすすきののソープランドに沈むしか……!」
「やめとけ。洗ってない、汚いオッサンのチンポしゃぶるハメになるぞ」
「せいぜいおっパブぐらいにしとけ」
「つーか足遅すぎるだろ……」
強盗は驚いて尻餅をつく。
「わひぃ!」
「あ、悪魔……!!悪霊退散!!悪霊退散!!」
「悪魔なのか悪霊なのか、一体どっちなんだよ」
「まぁ、いいや。なんで強盗なんかしたんだ?」
イチカは帽子とサングラスを剥ぎ取り、強盗の顔を見る。
「おー意外と可愛いじゃん」
「白髪あるけど、今流行り?のタヌキ顔ってヤツか」
「こ、今年で30だけど……」
「……独身?」
「ふ、ふぇい」
「職業は?」
「どっ、同人エロフィギュア作家です……」
「え、えっ、エロ同人誌も書いてます……」
「あー……そういう……」
「売れなかったんだな……」
「ひゃ、ひゃい……」
「遠征費用で詰みました……」
「良し分かった」
「一緒に駐車場でメシを食おうか」
「?????」
イチカは強盗を摘まみ上げる。
「どーせ家賃や光熱費にも困ってんだろ」
「ならウチに引っ越して来いよ。ただ、アイカには注意しろよ」
~『十勝豚丼いっぴん』~
そしてイチカは強盗を抱えて店に戻る。
「お~い!戻ったぞ!」
「豚丼特盛セットと大盛セット二つ、そして強盗を一人お持ち帰りで!」
店員は本日二度目の失禁でズボンを濡らした。
~数分後~
~駐車場~
「あのなぁ、食い詰めたからっていきなり強盗やろうってのはダメだろ」
「生活保護受けるとか、おっパブでおっぱい揉まれるとか、パパ活とか色々あんだろ。顔と身体は良いんだし」
「ただ……どう見てもバイトとか、会社勤めは無理そうだな……」
「よ、よく分かりましたね……」
「バ、バイトとか3週間ぐらいでクビになったりするんで……」
「今まで一番長続きしたのは、機械警備の交代要員で只管座ってるだけのアルバイトです。それもトチってクビになっちゃいましたけど……」
イチカは、頬を膨らましながら豚肉を頬張るアイカの方を見て、手を合わせて拝んで言う。
「……なぁ。今ここで拾わないとコイツは確実に死ぬって」
「頼む!絶対役立つから……!」
(し、死ぬの確定!?)
「……イチカさんの一番は私ですから」
「それだけ覚えていてくれればいいですよ。あと寝室に近づくのは禁止です。殺します」
アイカはハイエースの後部座席から対物ライフルを取り出し、コッキングレバーを引いた。
(犬の順位制!?)
(殺す!?あと何そのデカい銃!?)
イチカは強盗の肩を叩く。
「良かったな。メシ食い終わったら、お前の私物と仕事道具を取りに行くか」
「残りはまた取りに行けばいいだろ」
「ひゃっ、ひゃいっ!」
「あっ、ありがとうございます!」
「そういえばお前、名前は?」
「はっ、ハルカです。市原春香って言います」
「んじゃヨロシク、ハルカ」
「取り敢えず豚丼食べろよ、冷めちまうぞ」
ハルカは豚丼の入った容器を開け、割りばしを割って肉と米を口に運ぶ。
「う、うんめぇ~~……久々にマトモな物食った気がする……」
「昨日はナニ食べたんだ?」
「えっ?草カップラーメンかな……」
「熱で死んだビタミンCと雑草の苦味と渋みがこうスーッと……」
「牟田口将軍も草葉の陰で泣いているな」
「まさか、豚丼屋へインパール作戦かますとは思ってなかっただろうけど」
そして三人は豚丼を食い終わり、車に乗り込んで行く。
イチカはハンドルを握りながら言う。
「ハルカ。今日からお前はマッパー担当な」
「モンスター図鑑の作成と、地上部の建築デザインも頼むわ」
「え」
アイカがハルカの耳を引っ張りながら言う。
「まさかスケベなお絵かきと、えっちなフィギュア作成だけでのんびり過ごせると思ってたんですか?」
「潜るんですよ、ダンジョン。造るんですよ、要塞」
「まぁ……最低限死なない程度の戦闘スキルは叩き込んであげますから」
「えーと……ダンジョンってあの普通に死人が出ている……」
「ん?そうだけど?」
「まあ大丈夫だって!」
「やだー!おうちかえるぅぅ~!!」
「お風呂に沈められた方がマシだったぁ~~!!」
「アイカ!抑え込め!」
「貴重な専門職だ!!」
三人を乗せたハイエースは駐車場から出て、街道を爆走して行った。
豚丼屋なのに天丼ネタかましてしまいました
天丼てんやも良いよね……
そして、マッパー担当兼モンスター図鑑作成担当ゲットです。
ついでに建築デザインも担当させます。
う~~ん……敗残兵というよりは山賊の集団かもしれない
山賊系女子って流行りますかね
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