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帰りは帯広で十勝豚丼食べよう

観賞用BGM:https://www.youtube.com/watch?v=wwia7N1kTv4


~旭浜海岸~


「これで良し……と」

「後はお仲間の救援を待つんだな」


イチカは平良一尉に応急処置を施し、彼の耳元へ死んだ自衛隊員が使っていた無線機を投げる。

そして、横たわる彼の側にしゃがみ込んで言う。


「ダンジョン目当てで日本に入って来る外国人を全員殺すなんて、土台無理だろ」

「考え方変えなきゃ、今度こそマジでダンジョンで死骸を晒すハメになるぞ。あの白い騎士みたいなレベルの奴は、多分また出て来るかもな」

「……アンタ若いのに指揮官だから将校だろ?幹部なら、それ位分かるだろ」


平良は、イチカを横目で見ながら言う。


「……全てはお前達無辜(むこ)の市民を護る為だ……」

「このままだと、この国は戦場になって最悪滅ぶかもしれない、と思ったからだ……」


イチカはその場に胡坐(あぐら)をかいて座り込み、平良の目を見つめる。


「……ウクライナでアンタらに何があったんだ、鬼自衛官」

「アンタ達は自由と正義、そして民主主義とやらの為に戦ったんだろう?」


だが、平良は思わぬ言葉を口にし始める。


「……あそこには自由も正義も、民主主義も無かった」

「あったのは廃墟と死体と、焼けた薬莢、そして人間の底無しとも言える浅ましさだけだった……」

「……俺と俺の部隊はハリコフでロシア軍を食い止める任に当たった。だが……」


「捨て駒にされた、か」

「そして、部隊に届くハズの物資は途中で横領された。それが原因でお前の部隊は大損害を受けた」

「しかも後方の裏方連中は一儲けして贅沢な生活を送っていた、とかか?」


「……正にその通りだ」

「俺はその事を日本政府の担当者と連絡役に直接問い質した。ウクライナ軍と政府に掛け合って、なんとか物資を届かせられないか?と……」

「だが帰って来た回答は、『それは私の仕事では無いので、答えられません』、の一点張りだった。俺は部下達と同僚に全てを打ち明け、全員一致で一斉に帰国する事に決めた」


平良は暗くなり始めた空を見つめる。


「無論、政府からはストップが掛かった。だがそのままでは、次の戦いで確実に全滅しただろう」

「俺達は上官を巻き込んでウクライナ国防軍との契約を一方的に打ち切り、ルーマニア経由で帰国した」

「帰国後暫くして俺は自衛隊内の同志達を集め、クーデター計画を練り始めた。丁度その時だった、あの異変(・・)が起き始めたのは……」


「……何故、クーデターを起こそうと思ったんだ?」


「……この国が未来のウクライナになる可能性が高いと思ったからだ」

「若者も老人も外国に魂を売った連中の犠牲と養分になり、国民は東西で引き裂かれる」

「あの国の上層部は欧米人共と結託していた。戦争を続ける事で連中は焼け太りし、一種の既得権益層と化していた。それはこの国でも同じ事だろう……いや、もっと根は深い……」


「なら、自分達で国盗りして強い日本を目指そうとしたワケか」

「けどそんなのアメリカが許すワケが無い。それが分かっているからこそ……」


「そうだ。ダンジョンの報酬(・・)やアイテムだ」

「《シルバーステイシス》と呼ばれるプロの多国籍探索者チームが、ダンジョンのアイテムを使って米空軍の追跡を振り切ったと聞いて、可能性が確信に変わった」

「ダンジョンアイテムを使えば、俺達の望みは叶えられるのではないか、と……」


イチカは大きく息を吸って吐く。


「……大望は叶えたら、後は()ちるだけだぞ」

「お前は途中で確実にイカレるタイプだよ。根がマジメでお人好しっぽいしな」

「他の可能性を探した方が良い。北海道の何処かに独立国家を築くとか、その辺りにしとけよ」


「独立国家……」


「ああ。何も日本の運命を、丸ごとお前が背負う必要は無いだろ」

「お前が手の届く範囲の人達だけ護れれば良い。私はそう思うけどな」

「要は気負い過ぎなんだよ」


イチカは平良のボロボロになった胸ポケットから、一枚の写真を抜き取って彼に見せる。

そこには白髪で20代前半くらいの、可愛げのある女性が写っていた。


「……!」

「……お前の言う通りかもしれないな……」

「俺は妻と()、そして部下達とその家族をまず護らなければならなかった……俺はバカだった……!」


イチカはニコッと微笑み、彼の胸へ写真を投げる。


「……分かればよろしい」

「楽しく生きるコツは、思い詰め過ぎない事なんだよ」


「……誰よりも思い詰めそうな女が良く言う……」

「全く説得力が無いぞ……」


彼女は平良の腹の傷を、親指でグリグリと捩じる。


「……ッ!」


平良はイチカの捩じりに、苦悶の表情を浮かべた。

イチカは立ち上がりながら言う。


「私は良いんだよ、鬼自衛官!」

「思い詰めたら家に引き籠るだけだからな!」

「じゃ、奥さんと()さんに宜しく。私達は家に帰るわ。もうホントにクッッッソ疲れた……アイカ~~!!メシにするぞ、メシ~~!!今日はかつやにしようぜ!!」


「イチカさん!!道東にかつやはありません!!」


「マジ!?じゃあ何食うんだよ!?」

「ガテンの友のかつやだぞ!!動いて疲れた後は定番だろ!!じゃ日高屋だ!!」


「それ関東だけです!!イチカさん!!」

「帯広に『十勝豚丼いっぴん』があります!そこにしましょう!!」


「え~~?帯広だと帰るの明日になっちゃうけど……今日は車中泊??」

「何処かでお風呂入りたいんだけど……」


「はいはいはい!♡♡お待ちしておりました、その言葉!♡♡♡」

「もう既に宿は抑えてありますから♡♡♡」


「相変わらずそういう事に関しては、仕事が早いね君は……」


そして、イチカは草むらに隠していた《妖刀悪鬼村雨》を取り、平良の方へ投げる。


「こんなん持ってたら呪われそうだから、お前に返しておくわ」

「それにこの刀は、随分とお前の事を気に入っているみたいだしな」


「……アイテムにも意思があるのか!?」


「さぁな。それは分からない。だけど、なんとなく聞こえたんだ」

「『この男こそ、我が探し求めていた本物のサムライにして鬼剣士。あ奴の手元に戻してくれ』、だって」

「良かったな、好かれてて」


「……!!」

(《防衛魔人の遺伝子》が影響しているのか……!?)


アイカはイチカに飛びつき、イチカは彼女を脇に抱え上げる。

イチカは平良に軽く敬礼し、その場を去って行った。


お読みくださりありがとうございます。「面白かった」「続きが気になる」「更新頑張れ!」「十勝豚丼食べたい」と思っていただけましたら、ブクマ・評価いただけると励みになります。よろしくお願いいたします。


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