ダンジョン魔人イチカ(前編)
~旭浜トーチカダンジョン・地下?F~
「おわぁぁぁああぁ!?」
「きゃ~~!♡」
「落ちてる!♡イチカさんと奈落の底へ真っ逆さま!♡」
イチカは空中で態勢を変え、アイカをお姫様抱っこして着地し、床を滑り始める。
「──っ!!まるでローラースライダーみたいだ……!踏ん張りが利かない……!!」
「アイカ!しっかり捕まってろよ!着いた先に何が待ってるか分からないからな!」
(……まるで、子供が戯れで作ったアトラクションみたいだ)
(ダンジョンの神が居るとしたら、ソイツはまだ精神が子供だろうな……)
(幼稚で残酷。そして万能感に溢れ、実際に万能な存在。そういう表現に相応しい造りだ……)
イチカは人並み外れて優れた体幹で体勢を制御し、迫りくるカーブへ対応していく。
「光が見えてきた……!そろそろ出口だ!」
「しっかり掴まってろアイカ!!」
二人は滑る床から吐き出され、苔の生えたコンクリートの床に滑り込む。
「ふぅ〜……マジでヤバかったな……」
「ほら降りろアイカ」
「降りたく無いでぇーす!♡」
「このまま行きましょうよ!」
(ドコに行くんだよ)
(この体勢で行ける場所って、ホテルかベッドしかないだろ)
イチカは絡みつくアイカを彼女の抵抗に遭いながら、地面へ下ろした。
「あ~イチカさん成分堪能しまくりました!♡」
「すぅ~~はぁ~~っ」
イチカは部屋の奥に淡く光るペットボトル大のケースを見つける。
「……アレはアイテムってヤツか?あからさまだな……」
「アイカ。もしかしたら、ボスが現れるかもしれないぞ。準備だ」
「──!はい!」
イチカはマチェットを取り出し、アイカは対物ライフルを取り出した。
二人は静かに、そして一歩ずつ目標へ近づいて行く。
しかし、ボスどころか、雑魚敵の気配すら無かった。
「……どういう事だ……?」
「また何かの罠なんでしょうか……?」
「う~ん……二度目は考えづらいけど……」
「何も無い、ってのは流石に不自然だよなぁ……」
イチカとアイカは、台座に収ったケースの前にまで辿り着く。
ケースは透明で、中は青色に光る液体で満たされていた。
「もう罠は無さそうだな……」
「これを取った瞬間、両側から壁が迫ってくるとか無いだろうな」
そう言いながら、イチカはカプセルを台座から取る。
「……何も起きませんね」
「イチカさん!やりましたね!強運が私達に味方してくれました!」
「帰ったらカラオケで祝勝会やりましょう!」
「……ああ!」
「今日はハシゴ酒だぞ!アイカ!付き合え!」
「はい!♡」
「朝まで付き合いますとも♡」
「良し!帰りの階段か出口探して帰るぞ!!」
「ダンジョンさん、ありがとう!!」
そして、二人は部屋を後にした。
~旭浜トーチカダンジョン・地下9F~
(これで、このイカれたサムライの力量が判る……!)
ヴェルナールは銃を素早く構え、平良一尉に向かって引き金を弾いた。
だが、弾は残像を伴う妖刀によって真っ二つに斬られた。
『──!!ラインバウト!!敵は達人だ!!』
『あの刀もA級以上の武器アイテムに違いない!!』
ラインバウトは深くを息を吸って吐く。
『問題無い。《ローランの聖凱》、我に力を!!』
『行くぞ!!サムライ!!』
ラインバウトは神速の踏み込みから、素早く突きを繰り出す。
(……!!フェンシング!?)
平良は刀の鍔で、咄嗟に敵の刃を受け止める。
だが、ラインバウトは剣の軌道を変え、平良は腕から肩に掛けて深く斬り抜かれる。
(いや、西洋剣術か……!!)
平良は咄嗟に飛び退き、天井に向かって飛んだ後天井を蹴り、今度は上からラインバウトへ斬りかかって行く。
ラインバウトの青い眼光が鋭く光る。
『血気に逸ったな、サムライ』
ラインバウトは輝く《至聖剣デュランダル》と一体化し、分身する。
そして、空中で平良を複数の角度から斬り抜いた。
「なっ……!?ガハッ……!?」
平良は地面に落ち、腕と肩、腹と胸を斬られ、大量に出血し始める。
「俺は……ここで負けて死ぬのか……!?ガホッ……!」
「だが、まだ俺は戦える……!!死んだ部下達の無念と護国への思いが俺を突き動かす限り!!」
「例え死せる鬼になっても、俺は戦い抜くと決めた!!」
彼は深刻なダメージと出血を負い、吐血しながらも、妖刀を支えにフラフラと立ち上がる。
ロベールとモントヴァンはその光景に驚愕する。
『なんという執念と気迫……これが噂に聞くサムライ……!』
『見事だが、二度とコイツ等とは戦いたくねぇな……!』
『こっちの身体が幾つあっても足りやしねぇぜ……!』
そして平良は震える手で、自分の血より赤黒い粉末を取り出した。
「もう……残りの寿命なんてなくても良い……!」
「キリエ……俺を許せ……!!」
「お前とその子供の未来を護れるのなら……俺は喜んで命を捨てて地獄に行ってやる……!」
ヴェルナールは平良の手首を撃ち抜こうとする。
だが、ラインバウトに制止された。
『撃つな。ヴェルナール』
『戦士……その中でも飛び抜けて誇り高いサムライの覚悟だ』
『最期まで付き合うのが、騎士としての礼儀だ』
『……お前にそう言われたのなら仕方ないな』
『気の済むまで戦って、引導を渡してやれ』
ヴェルナールは口元を緩めて銃を下げ、後ろに下がった。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
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