旭浜トーチカダンジョン(中編)
~道東・広尾郡大樹町~
~旭浜トーチカ群~
「……このトーチカに入ってみるか」
「ん?中が思ったよりも広い……アタリだな」
イチカは手持ちのペンライトで、先を照らす。
「……デケェな」
「しかも壁に照明が付いていて、明るい……」
アイカはイチカの肩に触れながら、ダンジョンの中へと踏み込んでいく。
「入り口が二つあるぞ」
「どっちかが罠とかそういうオチか?」
イチカは浜辺で拾った石を、右側の扉の中へ投げ込む。
音が全く反響せず、まるで石は吸い込まれてしまったかのようだった。
「左側だな」
「早速罠かよ。案外難易度高いんじゃねーのか、このダンジョン」
二人は左側の入り口へと入って行く。
「あ。イチカさんに伝え忘れてたんですけど、ダンジョンには難易度があるみたいです」
「一番上から、特級、A級、B級、C級、D級、E級だと。それにプラスとマイナスまで付けてる感じです」
「正式に定まったものでは無いですが、ネットではこのようなランク分けがされているらしいです」
「ふーん……で、前に潜った『静内ダムダンジョン』はどのくらいだったんだ?」
「D級マイナスです」
「ワリと下から数えた方が早い感じのダンジョンだったっぽいですね」
「おいおい、アレでかよ」
「ダンジョンさん、結構人類に対する殺意高いんじゃないのか」
「人類も人類に対する殺意高いけどさ」
イチカとアイカは足を止める。
「……奥から銃声が聞こえる。アイツ等だな」
「下の階層から聞こえているのかもしれないが、アイツ等随分ハデにやってるな」
「霞が関の連中にバレたら、北海道と東京とで戦争起きるぞ」
「……そう言えば、イチカさんは東大でしたよね?」
「官僚の中にも知り合い居るんですか?」
「顔見知りは居るけど、正直私はクラスやゼミの連中と折り合いが悪くて、孤立気味だったし会っても無視されるだろうな……」
「サークルにも入って無かったし、寧ろ授業終わってからがメインだったよ」
「都会のど真ん中だったから、美術館とか建築物は見学し放題だったけど」
アイカは、イチカの顔にどこか寂しげな影を感じた。
「……中学・高校時代もそうだったんですか?」
「……アイカ」
「それは今言いたくないんだ、ごめん……」
「いずれ話すから、今は……」
アイカはそれ以上何も言わず、僅かに震える彼女の腕に優しく抱きついた。
~旭浜トーチカダンジョン地下6F~
通路の奥から銃撃音が響く。
「銃撃が効かないだと!?」
「なら火炎放射器だ!!」
歩兵が後ろに下がり、タンクを背負った兵士が前に出て火炎放射器で、巨大なスライムを焼き払う。
スライムはたちまち蒸発していき、その脇を素早く隊員達が駆け抜けて行く。
彼等の視界は、その後ろに居た甲冑の男達を捉えていた。
『ヴィルベルヴィント!!ヴェルナール!!ロベール!!先に行け!!』
『ここは俺が足止めする!!』
『モントヴァン!!無理はするな!!』
『相手は精鋭中の精鋭達だ!!』
モントヴァンと呼ばれた男は盾とランスを構え、銃撃に備える。
『問題ねぇ!!とっとと行きやがれ!!《メルカバー》起動!!』
ランスが光り出し、隊員達へ向けられる。
5.56mmNATO弾による銃撃が彼の甲冑や盾に当たり、跳ね返される。
隊員達は小銃を背負って赤色のカプセルを飲み、コンバットナイフを取り出す。
『《チャージブラスト》!!』
青い光が通路の奥まで拡がり、隊員達を包んでいく。
そして、轟音と共に極太のレーザーが放たれた。
だが、4つの影が壁や天井を走って青い光を抜け、モントヴァンへ襲い掛かってくる。
『──ッ!?《鬼人薬》か!!』
『こんなC級ダンジョンで正気か!?』
『だが、この《重戦闘甲冑メルカバー》のパワーとタフネスを甘く見るなよ!!』
黒い甲冑が青い光を纏い、鬼と化した隊員達へ突撃していく。
隊員達は甲冑の隙間を狙って、モントヴァンに刺し掛かる。
『オラァァァァ!!!』
振り払ったランスに一人の隊員が吹き飛ばされ、盾でもう一人の隊員が壁に押し付けられて潰された。
だが、残り一人の隊員が腕と肩の隙間にコンバットナイフを差し込む。
『ぐっ……!こ、この……!!』
モントヴァンは身体を回転させて隊員を振り払い、ランスを逆手に持ち替えて胴体を刺し貫いた。
残り一人の隊員は懐に滑り込み、モントヴァンの膝を蹴り上がって喉元を狙う。
彼はランスを一瞬放すと、右拳で隊員の顎を的確に捉え、思い切り殴り飛ばした。
『今だ!!撤退!!』
モントヴァンはランスをキャッチし、動かなくなった隊員達と後続の部隊を視界に捉え、後ろに下がりながら下層へ撤退して行った。
そして、後続の隊員達は仲間の状態を確認する。
「一人は顎を完全に砕かれ意識不明、二人は完全に死亡、一人は腕と肋骨が完全にやられています」
「相手も手練れです。恐らくプロの格闘家か武術家かと」
背の高い、20代後半くらいの指揮官らしき男が、死んだ部下達の目を指で閉じさせる。
そして、死体に向かって敬礼した。
「……ご苦労だった」
「……靖国(※1)でまた会おう」
そして、男は血をそのまま粉末にしたような、赤い粉が入った袋を取り出す。
部下は驚き、男へ言う。
「い、平良一尉殿……!!それは……!!」
「……そうだ。《酒呑の百薬》だ。お前達は負傷者と死者を連れ出し、外で待機していろ」
「後は俺が決着を着ける」
「あの者達を生かしては置けない」
そして、男は粉末を生のまま飲む。
彼の目はたちまち黒い血で満たされ、体表を赤い金属が鎧のように覆っていく。
「待っていろ、西欧の騎士もどき共め」
「皆殺しにして、部下の仇を取ってやる」
そして、妖しく水が滴る日本刀を抜き、薄明るい床を踏みしめて行った。
※1 靖国神社の事。自衛官護国神社合祀事件では,、自衛隊員の靖国神社への合祀は憲法違反とされました。政教分離に違反しているとか何とかで。
ですが、平良一尉にはそんな事は最早お構いなしのようです。紙切れで思いが変わるワケでも無いですし。
大体、もう半分反乱軍みたいな物なので……
ここまでお読み下さりありがとうございました。
「面白かった」「イチカ……」「いきなり罠は殺意高い」「4人組はかなり強そう」「モントヴァン強いな」「平良一尉の力量ヤバそう」
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