究極無敵北海道最強筋肉男
筋肉!!爆裂!!!
観賞用BGM:https://www.youtube.com/watch?v=_UNcU_uulvE
~アスタルトのダンジョン~
~水上都市廃墟~
《早速だが!!》
《受け取ってくれ!!戦友!!》
《【ケストレル】2段階起動!!【ヒュージキャノン】連携開始!!》
ブラックメタル色の機体は廃駅に着地し、巨大な砲身を展開していく。
高っちゃんは瓦礫を吹き飛ばしながら、フロントバイセップスのポージングを取る。
《良いぞ!!戦友!!》
《闘争心と美に溢れたその雄姿!!尊敬に値する!!》
《連携終了!!さぁ!!俺の想いを受け取ってくれるか!!》
高っちゃんは【ケストレル】に向かってニッと笑う。
「オゥケィ!!」
「何でも来い!!」
「ヤー!!」
《そうだ!!良いぞ!!》
《お前は最高だ!!》
《俺の愛を受け止めてくれ!!》
ハルカは若干引いた目で二人を見る。
「い、いきなりなんか始まった……」
レイカは頭を抱える。
「あ、あいうのはマジで見たらアカン……」
「こっちが頭おかしなるから……」
砲身に巨大なエネルギーが集約し、水面が波立つ。
《過去最高レベルに高ぶっているぞ!!俺の魂!!》
《【ヒュージキャノン】発射!!》
オレンジ色の極太レーザーが水面を割りながら、高っちゃんへと向かう。
彼はビルダー最高のポーズであるサイドチェストのポーズを取り、
迫りくるレーザーに向けて胸を張り出した。
「高っちゃん!!避け……!!」
「心配するなレイやん!!」
「こんなの日サロみたいなもんや!!」
高っちゃんはオレンジ色のレーザーに飲み込まれる。
彼の皮膚が超高熱で焼けて剥がれて行く。
《はははははは!!!》
《もっと出力を上げるぞ!!戦友!!》
高っちゃんは超高重量トレーニングの時の様に、必死に歯を食い縛る。
だが、レーザーは彼の超筋肉を徐々に削り取って行く。
マルファは瓦礫の上に座り、足を組む。
【終わりよ】
【物理攻撃に対しては無敵でも、光線兵器に対してはそうならない】
【彼は脳も鍛えるべきだったわ】
レイカは彼女へ食って掛かる。
「……ッ!それでも高っちゃんの筋肉は最強なんや……!」
「ガキの時からそればかり鍛えて来たんや!!」
「朝も昼も夜も!!捨て子だった高っちゃんにとっては、それが全てやった!!」
「鍛えて周りを笑顔にすれば、自分にも親が戻って来ると思ってたんや!!」
マルファの顔に深い闇が差す。
【……ソ連軍人だった私の両親はアフガンから戻って来なかったわ】
【帰って来たのは勲章と軍服の切れ端だけよ】
【貴女達だけが特別に不幸だと思わない事ね】
「……!」
【それに私……ハリュカより貴女の方に余程苛立ってるの】
【言う事やる事、全てが上辺。まるでお化粧よ】
【本当は自分をシンデレラとして扱って貰いたくて堪らない……】
【やっと舞踏会の会場前に来たのは良いものの、怖くて階段を登れない】
【だけど今更普通の女にも戻れないから、広場で自分を精一杯取り繕って不幸合戦を仕掛けてくる……】
マルファは立ち上がり、白銀色に輝く剣をコートの内側から抜く。
【そんな娘がイーチカにとって有害以外の何であって?】
【もう午前0時を過ぎたのに、貴女はまだカボチャの馬車に乗れると思っている……】
【甘い……甘すぎるのよ!!】
【イーチカには貴女の隣に立ち止まってる時間はないの!!】
「わ、私は──」
高っちゃんの肩の皮膚が完全に剥がれ、三角筋が焼かれて行く。
ヤストレブは【ヒュージキャノン】の出力を更に上げる。
《はははははは!!!》
《ここまで耐えられたのはお前が初めてだ!!》
《NATOの機甲部隊ですら数秒待たず蒸発したからな!!》
《素晴らしい!!》
マルファは僅かに口元を歪め、レイカを睨みつける。
【傷つくのが怖い】
【だから強がって自分をより怖く見せてる】
【そんな女に魔女は魔法を掛けないわ。永遠にね】
「はっ……!はゅっ……!」
レイカは過呼吸になり始め、膝を付く。
ハルカはレイカの細い両肩を抱え、マルファを睨む。
「……言って良い事と悪い事があるでしょ」
「そんな区別も付かない人に、やっぱりイチカを連れて行って欲しく無い」
「いや、連れて行かせない……!」
【ふふふふ……】
【ハリュカ。相変わらずの道化ぶりね】
【貴女には、身の程を教え込んでから殺してあげるわ】
【自分の無能さを悔いながらこの穴倉で死になさいな】
「ふん!死なないね!」
「私は私をここまで連れて来てくれた人達の為に、ぜぇ~~ったいに死ねない!!」
「【アスタルトのシュシュ】起動!!」
「《石灰逆転生》!」
マルファの足元がいきなり崩れ始める。
コンクリートだった筈の屋上は石灰石を通り越し、貝殻やサンゴになって崩壊していく。
【──!】
ハルカはバルディッシュを握るエレナに向かって叫ぶ。
『エレナ!!』
『レイカを!!』
『ぁ……!』
しかし、エレナは足が竦んで動けなかった。
それを一瞥したハルカはレイカを抱え、躊躇なくビルから飛び降りた。
【やはり生かしておけないわ、その能力】
【貴女はあの死神の元には一番居てはいけない、そういう存在よ】
マルファは崩れる廃墟を軽々と跳び移って行く。
落ちるハルカは叫ぶ。
「《プランクトン一括転生》!!」
「蔓になれ!!」
水面から蔓が伸び、網状に展開していく。
ハルカとレイカは蔓の網に受け止められた。
だが、相手は魔女。休む暇などなかった。
【【グラデニェッツ】二段階起動】
マルファが白銀の剣を振るうと、水面が凍り付きながら巨大な斬撃が飛んで行く。
「──!!」
「《化合物変換》!!アンド《水変換》!!」
突如水面が大爆発し、斬撃は相殺された。
【……!!】
「いよっし!!」
ハルカはガッツポーズを決める。
そしてレイカを揺さぶる。
「レイカ!!」
「0時が過ぎて朝になったって良い!」
「そしたらまた夜まで待てば良いんだから!!」
「だから恐れないで!」
「ハルカ……」
「レイカが傷つく事に耐えられないのなら、私と高っちゃんが一緒に傷ついてやる!!」
「オマエ……」
レイカはハルカの目を見つめ、優しい笑顔で彼女の頬を軽く叩いた。
「……相変わらずアホな奴等やな」
「その傷で死ぬかもしれへんのやで?」
「良いよ別に」
「というか、それがイヤなら最初から付き合ってないって」
「ふふっ」
「そやったな」
レイカは素早く刀を動かし、蔓を切る。
二人は落下し、水の中に落ちた。
直後、二人の居た場所に横薙ぎの斬撃が飛んで行く。
ハルカは水面に上がろうと、水中の中で藻掻く。
「ぷはっ!」
「レイカ!」
レイカは既に、水面から突き出た瓦礫の上に立っていた。
彼女の長い茶色の髪が肩や顔に張り付き、火傷は隠れていた。
マルファは水面を凍らせながら、二人に向かって歩いて行く。
【私と戦場で敵対して120秒以上戦い続けたのは、貴女達が初めてよ】
【イーチカは人材を見る目もあるようね。流石だわ】
【敵だから殺すしかないのが残念だけれど】
「ははっ」
「アイちゃんはもっと手強いで?」
【……まだ傷つけられ足りないようね】
「昔の私を見ているみたいでイライラする、か?」
【……!】
「分かるで、オバハン」
「私らはご同類やからな」
レイカは後ろ髪を纏め、手首に巻いていた白いリボンを解く。
手首には無数の痛ましい傷跡があった。
(リストカット跡……刺青じゃなかったんだ)
(レイやん……気付けなくてごめん……!)
「私らは自分を傷つける事でしか、自分の存在意義を把握出来へん」
「だが、同時にこうも思うんや」
「【自分を傷つけて良いのは自分だけ】、と」
彼女はリボンを結び、ポニーテールの形にする。
レイカの火傷に覆われた顔が丸出しになる。
しかし、かつての剣術少女時代の面影が火傷越しに滲んでいた。
ハルカは笑顔で拳を突き上げる。
「キターーー!!」
「まさかのポニーテール!!」
「レイやんのポニテ!!最高に似合ってる!!」
「よっ!関西最高のシンデレラ!」
【烈鬼剣兼定】の炎が赤から青に変化していく。
「そう、私はこの刀の様に上辺でしか振舞えなかった」
「でも今はその上辺を突き破りたい、そう心が叫んでる」
「【兼定】……私に見せて、貴方の本当の姿を」
【……随分と待たせてくれたな、レイカ】
【そう、私の心は何時だって燃えていた】
【全てを燃やし尽くしたい程に、心が躍動していた】
【いや、全てを燃やされたかった】
「名前を……」
【私は【火之迦具】】
【神フリスに創られ、ダンジョンという火の中へ投げ入れられた剣】
(フリス……!?一体や誰それ……!?)
【相手はグラデニェッツ……】
【いや……これは……】
刀の青い炎に呼応する様に、マルファの背後から水面を伝って闇が染み出して来る。
【私は愛をあげたい。惜しみない無償の愛をあげたい】
【傷をあげる、涙をあげる、痛みをあげる……何でもあげる】
【だから貴方の魂が欲しいわ】
【ああ、魂……愛したくて、食べたくて……疼いているの】
【闇の女……!】
闇は人の形を取り、マルファと瓜二つの姿になる。
それに一番驚いたのは、彼女自身だった。
『……!?』
【何を驚いていて?】
【貴方はもう闇に追われる存在じゃない】
【自分が闇になってしまったのよ。お分かり?】
『いや、私は──』
闇はマルファの顎を掬う。
【もう逃げられない】
『……!!』
【死んだ教え子の為に、自分の善性を売り渡した】
『……そうするしか、そうするしか方法が……!』
闇は彼女の胸元へ手を入れ、微笑む。
【卑しい女ね】
【まだ誰かを愛したくて、代用品を求めてる】
【どうせあの子は死んで、貴方はまた愛を探すのよ】
『……っ……!』
マルファの表情は傍目から見ても動揺していた。
そこへハルカが瓦礫へ這い上がりながら叫ぶ。
「──レイやん!」
「多分今しかチャンスないよ!!」
「──!」
レイカは青く燃える刀をゆらりと構え、マルファと神速の速さで一気に距離を詰める。
「仕事のし過ぎやで、オバハン」
「もうリタイアせぇや」
『──!』
(縮地!?)
マルファは【魔勇剣グラデニェッツ】で斬り掛かりを防ぐが、【加具土命】の切っ先が彼女の肩を掠めた。
彼女の桃色の横髪が切り飛ばされて宙を舞う。
レイカは火傷だらけの顔を、僅かに綻ばせて言う。
「世界も、日本も、北海道も、いっちゃんも……何もかも諦めぇやオバハン」
「アンタは暖炉の付いた部屋で、ガキに物教える方が似合うとるで」
『……!……!!』
『そう……分かってるわ、それは死ぬ程……死ぬ程分かってるのよ……!』
一方、高っちゃんは窮地に陥っていた。
放たれ続けるレーザーによって、高っちゃんが長年培って来た筋肉が削られてゆく。
彼の脳内に声が響き始める。
【どうしたんだい!大胸筋!】
【もっと頑張らんかい!僧帽筋!!】
【その程度かい!!上腕二頭筋!!】
「まさか……ワイの筋肉が喋っとる……!?」
【まだ使ってないんじゃないのかい!広背筋!!】
【目覚めてないんじゃないのかい!インナーマッスル!!】
「聞こえるで……筋肉の声が……!!」
「はっきりと聞こえよるで……!!」
【休んだお陰で元気満々じゃないのかい!】
【余裕で超回復してるんじゃないのかい!!】
何かを確信した高っちゃんは、大臀筋を引き締めながら叫ぶ。
「筋肉!!爆裂!!!」
高っちゃんの筋肉が神々しく光り始める。
そしてダンジョン内がテカリの閃光に包まれる。
《!!?》
【ケストレル】の巨大ビーム攻撃は、なんと超筋肉の閃光によって打ち消された。
「筋肉!!復活!!!」
《なんと……なんという光景だ!!!》
《全く……これだから闘いは止められない!!!》
高っちゃんは身体をやや前傾にして、首の横の僧帽筋や肩の大きさ、腕の太さを強調し出す。
「何故……ワイの筋肉はこんなにもデカいのか……」
「それはワイがモスト・マスキュラー(※1)だからや!!」
自分の問いに自分で答えを出してしまった高っちゃんは、クラウチングスタートの姿勢を取る。
彼は一直線に【ケストレル】に向かってダッシュする。
《一直線に向かって来るとは!!》
《そのひたむきさ!!賞賛に値するな!!》
《だが当たらないぞ!!》
【ケストレル】は【ヒュージキャノン】をパージし、上空へと飛び上がる。
高っちゃんのタックルにより、【ヒュージキャノン】は粉々に吹き飛ばされた。
《【覚醒】したようだな!!戦友ッ!!》
《なら手加減ゼロだ!!行くぞ!!》
《【ケストレル】第三段階起動!!》
《確信した!!この闘争が俺を更なる高みへ引き上げる!!》
オレンジ色の粒子が【ケストレル】に収束し、周囲の空間が歪み始め、武装が構成されて行く。
マルファはヤストレブに向かって、通信機越しに言う。
『大尉……もう……撤退しなさい……!』
だが、その声は半ば憔悴していた。
それでは闘争心と向上心の塊たる、この厄介な英雄は止められなかった。
《俺を甘やかしてくれるな!!魔女!!》
《それに闘えと言ったのは貴女だ!!》
《俺はこの闘争を通じ、まだ誰も見た事の無い空へ駆けあがる!!》
《いや、待っている!!クレイエルがその空で待っている!!》
《遂に手が届くぞ!!その黒い翼に!!》
【ケストレル】はブレードを構え、高っちゃんへと突撃して行った。
※1 端的に言うとハルクのポーズ。
記念すべき100話目のタイトル、これで良かったんか……?
まぁこの作品らしいといえばらしいけど……
サブタイの元ネタは超兄貴シリーズの『究極無敵銀河最強男』です。
なんて頭の悪いタイトルだ。
高っちゃんの筋肉が【覚醒】してしまいました。
ていうか聞こえてるの本当に筋肉の声か??
彼はその場に居る全員の思考を超えて行きました。
ヤストレブ以外。
筋肉で全ての問題は解決する。
本当に言葉通り解決してしまう。
ここまで突き抜けたら最早賞賛するしかありません。
一番作者の思惑超えて来た人だと思う。
物理最強の男が強烈な特殊技を習得するのは反則だろ。
しかも生きる場面が多そうなのがもう……
高っちゃんはマルファお姉さんの天敵かも。
彼には理屈も感情も通用しない。
だって筋肉とポージングで会話するから。
多分、最初からヴァヴィロフを連れて来るのが正解だった。
分かるかそんなん。
今回、マルファお姉さんは人生で初めて苦戦してるかもしれません。
いや、この人は圧倒的に成功し続けるしか無かった。
遂に彼女の輝かしいキャリアへヒビが入り始めた、そんな気がします。
一芸を極めた連中が集まると本当に強いし、格上とも対等以上に戦える。
そしてこれがアイテムを持った探索者同士の戦い、その本当の面白さでもあると思う。
人生Fラン探索者達が不動の女帝と張り合えてる事に、こっちが驚かされている。
なんか不良系スポーツ漫画みたいな展開だ。
というか、お姉さんが隠し通して来た精神的な脆さ……
それがここに来て一気に噴出して来た感じ。
ゲオルグと戦うまで持つのかな、この人……
自分で自分を追い詰めたがるのは、やはりレイカと似ているかもしれない。
イチカはもうそういうのが無くなって来た感じだけども。
そしてハルカの転生コントロールが無法過ぎ。
有機化合物を製造施設無しで生み出すのは、もうレギュレーション違反だろ。
ハルカに取ってはダンジョン全体が、無限の武器庫みたいなモノです。
クリエイティブ的思考(妄想力とも言う)が極めて高度に要求される能力ですが、ハルカにとっては普段やっている事と大差ありません。
イチカには今のところ血が材料という制限がありますが、ハルカにはそれすら無い。こわ。
ハルカがもっと知識や経験を吸収し出したら、
サポート・支援系ではトップに踊り出る可能性すらあります。
等価交換が成立すれば何にでも変換出来る。
そりゃヤザ君も放っておかない話です。
ただ、そんなのフリスちゃん様にとっては許し難い事態なワケですよ。OK?
にしてもヤストレブは人の言う事全く聞かねーな……
お姉さんの命令は絶対ですが、それすら振り切った。
こういう奴は案外長生きするかもしれない。
強さを求める、という意味では一番貪欲な奴です。
お姉さんは司令官というよりも、幼稚園や小学校の先生みたいだ。
部下に問題児が多すぎる。
実際軍人よりも教師の方が向いている気がする。
というワケで今回の後書きは終わりだ!!戦友ッ!!
「面白かった」「次も期待している」「ダンジョンこわれる」
「高っちゃん凄すぎ」「マジで加減しろバカ」「メンタルケアたぬき助かる」「吹っ切れたな、レイカ」「ハルカの応用力が高くてマジで驚いた」「レイやんのポニテ!!最高に似合ってる!!」
「お姉さんもう限界だな……」「レイやんカッコ良すぎ」「ヤストレブの闘争心凄い」
「今回マジでアツい!」「戦友ッ!!」
と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。
宜しくお願い致します。