旭浜トーチカダンジョン(前編)
着工まで時間あるから、その間ダンジョン行こうぜ。
~深夜~
~新ひだか町・イチカの家~
「うぃ~ただいま」
「色々あって疲れたわ、ホント」
くたびれて帰って来たイチカを、アイカが裸エプロンで出迎える。
「うぉっ……!?」
「我が家はいつからイメクラに……?」
「新婚イメージ?ですかね!♡」
「はい!ただいまのキスプリーズです!イチカさん!♡」
アイカはイチカに向かって頬を差し出す。
イチカは仕方なく、アイカの頬へ軽くキスしてやった。
「きゃ~~ぅ!♡」
「既に夕飯は出来上がってますよ!」
「ん、ありがと」
「いやぁ、マジで助かる……」
イチカが居間に行くと、既に出来上がった揚げ物類と海鮮サラダ、そしてビール瓶が置いてあった。
「よっこいしょういちっと……」
「さて頂きますか」
そして、彼女はラップをとり、コロッケへかぶりつく。
「うんめぇ~~……マジうめぇ……」
「あっ、そういえば土産買って来たから」
アイカはウキウキしながら、机の上に置かれた紙袋を開ける。
「わぁ……!これ『北菓楼』の『クロワッサンシュー』じゃないですか……!」
「それに『夕張メロン天然水ゼリー』……!!」
「イチカさぁぁん……!♡」
「色々と助かってるからな」
「その礼も兼ねてだよ」
アイカは目に涙を浮かべながら、シュークリームにかぶりつく。
彼女の口の中でクリームが溶ける度に、彼女の涙腺から涙が溢れていく。
「そんなに美味しかったか?」
「よかったよかった」
「んぐんぐ……」
「はははっ!聞いちゃいないか」
イチカは何と無しにテレビを点ける。
《では次のニュースです》
《国土交通省と総務省は、ダンジョンへ入る探索者を登録許可制にする案を纏めており、4ヶ月後の国会審議へ提出する予定です》
《なお、登録許可は日本に国籍を持つ永住市民から優先的に……》
「ふーん……まぁ誰も登録しねぇだろうな、こんなの」
「大体他人からイチイチ許可貰うような連中が、ダンジョンで宝探しするワケねぇだろ」
「外国から無用な反発喰らって仕舞いだな。世界のダンジョンの7~8割が日本に集中しているこの状況で、この法案を無理に通したら、1年後には日本が分割占領されてるかもな」
イチカはビール瓶を開け、コップへビールを注いでいく。
そして、アイカのコップへもビールを注いでやった。
「アイカ。そう言えば、あのウサギの肉って食えそうか?」
「……普通に食べれました」
「網焼きにすると良い感じです♡」
「としたら、後はあの宝石みたいな玉か」
「ドコに持っていけば良いんだろうな、アレ……」
「go○gle検索ホント使えねぇなぁ、時代はもうbingかDuckDuckG○か?」
「もしかしたら、SNSとかで買い取り屋が居るかもです」
「……う~ん、危ないなそれは」
「多分半グレ共の罠だ。ノコノコ玉を持っていたら、チンピラ共に囲まれているってオチだな」
「別の買い取りルートを見つけよう。地道に情報を分析したほうが良い。時間は掛かるけど、多分それが一番確実だわ」
イチカは海鮮サラダへドレッシングを掛けていく。
そして、サラダとエビを頬張りながら、アイカへ言う。
「業者と色々打ち合わせしたんだけどさ、地下室の着工は一週間後になりそうだわ」
「それで少し時間が出来るから、またダンジョン行くか?」
「はっ、はい!♡」
「イきます!♡イきます!♡」
(どういう意味で行くって言ってるのかな?)
イチカはコロッケにソースを掛け、二つに分ける。
「なぁ、今日も同じ布団で寝るのか……?」
「はい♡お風呂も一緒です♡」
「朝までずーっと全裸ですよ、ぜーんら♡」
(やっぱりかぁ)
イチカは目を閉じてビールを飲み干した。
~明後日~
~道東・広尾郡大樹町~
~旭浜トーチカ群~
「いやぁ良い海だなぁ……」
「き~た~の酒場~には~♪」
「イチカさんのような、髪の長い女が似合う、ですね♡」
「何で知ってんだよ、『北酒場』」
「80年代前半の曲だぞ」
「一人カラオケで色んな曲歌ってたんですよ」
「それで歌ってみたってカンジですね」
「今度一緒にカラオケ行くか?」
「深夜カラオケやろうぜ」
「やります!♡是非!♡」
「あぁん、今から楽しみです♡」
イチカとアイカは砂浜を歩き、トーチカ一つに辿り着く。
「……兵共の夢の跡……じゃなくて杞憂の跡か」
「でもやっぱりコンクリート製には夢があるな。80年以上経っているが、まだまだ使えるぞコレ」
「随分頑丈に作ってあるな……感心するぐらいだよ」
「……米軍やソ連軍の上陸に備えて建築されたんでしたっけ?」
「……ああ。でもこれは使われなくて良かったかもな」
「どうやらこのトーチカ群の一つに入り口があるらしいんだが……」
「ん……?アイカ!伏せろ!」
イチカはアイカの頭を持ち、草むらに伏せさせた。
「どっ、どうしたんですか……!イチカさん……!」
「完全武装した迷彩服の連中が、トーチカの中からチラチラ外を窺ってやがった……!」
「人種は恐らく日本人だが、日本でこんな装備と格好するヤツらなんて一つしかないだろ……!」
「じ、自衛隊ですか……!?」
「でも、ここは訓練場じゃないのに……!」
「(まさか……!!)」
「……警戒しすぎかもしれないが、暫くここから様子を見よう」
「どう見ても状況が尋常じゃない」
「(そして動画で見るような自衛隊の迷彩でも装備でもなかった……イヤな予感がする……!)」
そして彼女達が伏せる事数分後、中から武装した自衛隊員達が、血を流したガタイの良い黒人達を引き摺り出していく。
黒人達は英語で何事か叫んでいたが、自衛隊員達に銃口で頭を小突かれ、黙らされた。
彼等は全員後ろ手に縛られ、海岸へ正座させられていく。
《小隊!!整~列!!》
小隊長らしき男が出した号令と共に、隊員達が一斉に捕虜の前に並んでいく。
そして、トーチカの中から20代後半ぐらいの背が高い男が出てきて、小隊長と何事か話していた。
その後、背が高い男はトーチカへと戻って行った。
《捧げ銃!!》
《構え!!》
隊員達は一糸乱れぬ動作で捕虜達へ対し、素早く銃を構えていく。
《撃て!!》
銃声が鳴り響き、捕虜達は一人残らず、正確に頭蓋を撃ち抜かれた。
波が彼等の血を浚っていく。
「なっ、なんだ……アイツ等……!」
「本当に自衛隊か……!?」
アイカはゴソゴソと背負っていたライフルを降ろし、隊員達に向かって狙いを定め始めた。
「イチカさん」
「彼等はウクライナ帰りです」
「アレらは平和な日本社会には馴染めなかった、生まれ付きの獣達です」
「……」
「知っているのか、アイカ……」
「……ええ。色々あって……」
「公式には、ウクライナへ自衛隊員は送らず、物資だけ送ったという話になってますが……」
「実際には1500人以上の志願者達がイギリス軍の協力で、外国人傭兵として激戦地へと送られた、と聞いています」
「……で、どれ位帰って来たんだ」
「あの戦争では外国人傭兵はかなりの死傷率だったと聞くが……」
「恐るべき事に死傷率は2割程度だったと」
「だから最低でも1200人以上の血に飢えた獣達が居る、というコトです」
「そしてメンタルケアなど一切されていないでしょう。だから、彼等の頭の中は未だに戦場なんです」
イチカは身体の向きを変え、寝転がる。
「戦争の為に作られて、結局一度も使われなかった」
「その意味ではトーチカもアイツらも同じだったんだろうな」
「だが後者は戦争へ投入され、戦場こそに己の存在意義を見い出して行った……」
自衛隊員達はまたしても整列して隊列を組み、トーチカへ入って行く。
「……処刑された奴等には後で手を合わせておくか」
「今の状況では、それぐらいしかしてやれる事がないからな……」
「にしても考えさせられるな……戦争があるのとないのって、どっちが良いんだろうか」
「……私は無い方が良いとは思います」
「だって私はもうイチカさんの隣という、最高の生き場所を見つけられましたから」
「……そうか。なら、私ももっと頑張らないとな」
「アイカ。今回のダンジョンは諦めるか?」
「別に無理をしなくても良いとは思うが……」
アイカはライフルを抱え、銃身をぎゅっと握り締めながら言う。
「いえ、やります……!」
「私が生きる場所はイチカさんの側、即ちダンジョンの中しかありませんから」
「……分かった。今回は私も覚悟を決める!」
「だが、あの入り口は隊員達に警戒されている。迂回して別の入り口を探そう」
「──はい!」
二人は草むらに身を隠しながら、自衛隊員が守るトーチカを迂回していった。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
「面白かった」「イイ話だった」「もう夫婦だな!」「一回トーチカ見に行ってみたい」「もうシビリアンコントロールがどうのとかいうレベルじゃなかった」「略式処刑するとか、戦場で何やって来たんだ……」「1200人以上もあんな連中が居るとか、ヤベーよこの北海道」「アイカの過去が気になる」「アイカとイチカが絆を築き始めてるのが良い」
と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。