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虚偽だらけのプロパガンダと愛車(前編)


正直社会とか組織とか主義思想とかそんなのどうでも良くて、アウトドアチェアーに座りウォッカを飲みながら、遠くの核爆発を眺めて終末を味わいたい。

そんな作者の願望を形にしました。


プレッパー。

日本では馴染みの無い言葉だが、アメリカではそれなりに知られた言葉だ。

意味は『備える者』。

と言えばカッコ良いが、彼等は何時来る分からない終末に極端な不安を覚え、地下にシェルターを建設する事はまだ序の口で、数十年分の食糧を備えたり、大量の銃器や弾丸を備蓄したり、果ては要塞まで作る。

要は愛すべきサバイバリスト達である。



~神奈川県横浜市・某所~


 私はダンジョンが現れてから会社を辞め、今は残りの有給を消化しながら、移住の準備をしていた。

遺産もそれなりにあったので、纏めて処分した。お母さんお父さんありがとう。

幸いそれなりの大金になったが、来たる終末ではほぼ何の役にも立たないだろう。紙切れや電子ゴミで、放射能やミュータントから身を護れるか。


この大金を使って、私は『来たるべき終末』に備えなければならないのだ。

こんなに楽しいのは、初めて『CIVORAIZATION Ⅳ』の最高難易度モードで、ガンジーの起こそうとした核戦争を力尽くで阻止した時以来だ。

ウィンドウ内で、核兵器ごと都市を取られてキレ散らかすガンジーを見て飲むコーラは、格別に美味かった。


「おっと。もうこんな時間かぁ。そろそろ飯食って寝るかな」

「必要な物は先に車に詰め込むか移住先に送っておいたし、うん!完璧だ!」


そして私は肉チャーハンを食べてビールを飲み、風呂も入らずに眠りに就いた。

女としては既に失格だが、風呂に入らなくても私は美しい。おっぱいデカいし。以上!

因みに寝るときはスマホを弄らない。

質の良い睡眠はプレッパーにとって、最重要項目なんだ。


~翌日~

~マンション前の駐車場~


「これで……よし!と……」


一人の背の高い黒髪の女が、白い中古のバンに荷物を詰め込み終わり、トランクを閉じていた。

そこにマンションの大家がやって来る。


「あら。イチカちゃん。準備は終わった?」


「ええ。これから出発、って所です」

「ワザワザ見送りに来て貰って、なんだか申し訳無いです」

「12の時に両親と越してきてから、15年経ちましたけど、その間に色々とお世話になりました」


そして、彼女は懐から封筒を取り出す。

大家は封筒を受け取り、中身を確かめるように指で押す。


「……?なにかしら」


「商品券とお米券です」

「抽選で当たったんですけど、もうこっちでは使わないから渡そうと思って」


本当は昨日、金券ショップに慌てて買いに行ったんだけどな。

だが、大家は喜んで封筒を懐に仕舞った。

良し。効果覿面(てきめん)だな。


「イチカちゃん。向こうでも上手くやるのよ?」

「貴女はほら……ちょっと人と上手くやれない所があるから……」


もうミサイルが直撃して来やがった。

だが、心のシェルターは既に万全だ。ノーダメージ。

アレ?このシェルター、衝撃でヒビ入ってない??


「だ、大丈夫ですよ」

「もう私も昔のように荒れてはいませんから」


大家はイチカの手を両手で握り、心底心配そうに彼女を送り出した。


~首都高~


 イチカはタバコに火を付け、交通情報のラジオ付けて鼻歌を歌いながら、華麗にハンドルを切っていく。

左手にビル群が見え、彼女は思わずため息を漏らした。


「今頃皆バリバリ働いてんのかなー……」

「なんだか懐かしさを覚える……」


ワケねぇだろ。毎日遅くまで働かせやがって。

おまけに業績は上がらず部内はギスギス、くだらない事で一々突っかかってくる経理の連中、おっぱいとケツを凝視してくるパワハラツーブロック、揚げ足取りとマウントに余念の無い中堅社員に、こちらの事をナメ切っている協力会社のおっさん達(薄給)、スマホと下半身をイジるしか能の無いZ世代……

辞めて清々したわ。

今までの体調不良が、ウソのように回復したぞ。


そして、白いバンは川口方面へと向かって疾走していく。


「お、順調順調」

「エフエ~ムラ~ジオ~♪」


バンは川口ジャンクションを通り抜け、東北自動車へ突入していく。


「メシは蓮田(はすだ)SAで食べるか」

「あそこの深谷ねぎうどん美味しいんだよなぁ~!」

「いや、そばもアリだな!そばで行こう!」


イチカはアクセルを踏み、バンは追い越し車線を爆走していく。


~蓮田SA~

~フードエリア~


「くぅ~~っ!これこれ!!」


イチカは特製ダレに漬けた肉と麺を一気に口の中に放り込み、口の中で混ぜ合わせる。

彼女は洗っていないOLの匂いを漂わせながら、夢中で麺に食らい付く。


「隣、良いですか?」


女性の声がし、イチカは麺を啜りながら頷いた。

その女性はお上品な格好をした、今風の美人さんで、到底自分の隣に来るような服装では無かった。

歳は私と同じくらいか。茶髪が綺麗だ。


「……!」


その女性のトレイにも、深谷ねぎそばが乗っていた。

彼女は元気そうにイチカへ言う。


「深谷ねぎそば、美味しいですよね!」

「私も大好きなんです!」


うおぅ、眩しいぜその顔……!

私みたいな女じゃ無くて、もっと違う人に向けるべきだよその笑顔。

悪い男に狩られるぞ。


「……よくここは通るんですか?」


イチカは彼女へ質問する。

彼女は豪快に肉を頬張ってから言う。


「ええ、私北海道へ狩猟に行くんです!」

「やっとって感じで!入猟者登録にはそんな時間掛からなかったんですけど、肝心の狩猟免許の方が時間かかってしまって……」


こりゃたまげたなぁ。

まさか、狩る方だったのか。

華奢(きゃしゃ)でお上品な見た目のワリには、結構アグレッシブな性格をしているな……


「失礼ですけど、お名前は?」


「香坂イチカ。一夏と書いてイチカと読む。イチカって呼んでくれれば良いよ」


「私は山県(やまがた)アイカって言います!愛の歌と書いてアイカです!」

「イチカさんは、背が高くてスタイル良くて、横顔がすっごいイケメンで私の好みのタイプなんですよ!」

「LEIN交換しませんか!?」


ぐいぐい来やがる。すげぇなこの女。

アレ?獲物は私だったか??

でも、旅には付きものだよな、こういうの……


「私でいいなら……」


イチカはアイカが差しだしたQRコードをスマホで読み取り、お友達登録した。

アイカはスマホの画面を嬉しそうに眺め、胸に当てて言う。


「イチカさんて女性にしてはスゴい身長高いですよね」

「身長どれくらいあるんですか?」


「184」

「バレー部とかバスケ部に勧誘された事もあるけど、私は格闘技の方が好きだったから」


「何の格闘技を?」


「古流柔術。結局生かす機会はケンカぐらいしか無かったけど、楽しかったなぁ」

「今はもう筋トレとか本読むくらい。だってもう週四回も五回も道場通えないし」

「だから今はもっぱらPCゲームかな」


アイカはメモを取り出し、イチカの発言をシュババッとメモしていく。

彼女は目をギラギラさせながら、イチカへ質問する。


「因みになんのPCゲームが好きなんですか?」


「今はアーマード・キルⅦ」

「元々コンシューマーゲーでPC版なんだけど、久々に燃え尽きさせてくれた感じ」

「途中から私はレイ○ンだ!ってなったよ」


「ふむふむ。もしかしてFPSとかオープンワールド系もやります?」


「やったんだけど、他にやりたい事が多くて積んでるかな」

「まぁそんな所。ドライブも大好きだけど」

「アイカはどんなゲームが好きなの?」


「ブルー・デッド・リデンプション3ですね!!」

「あの西部開拓時代の無法感とサバイバル感が堪んなくて……」

「動物も人も撃てる所が最高ですよね!」


見た目に合わぬ過激な価値観と、好みをお持ちのようで。

人間分からないなぁ。


「ごちそうさんっと……」

「私も北海道へ行くんだ。もしかしたらまたバッタリ会うかもしれないな」

「じゃあな。楽しい昼メシだったよ」


アイカはフードエリアを離れていくイチカの後ろ姿を、手を振って見送る。

そして呟く。


「ふふ……♡」

「『かもしれない』じゃなくて、『きっと必ず会える』。ですよね?」

「だってこれは偶然じゃ無いんですから」


一方のイチカはサントリーの最高傑作『伊右衛門』を買ってから車に乗り込み、カーナビを確認する。


「今日の夜10時までには八戸まで着きたいな」

「SAでの休憩は1~2回、八戸ICで高速を降りる感じか」

「で、朝まで港の駐車場で車中泊して、朝一でフェリーに乗る。うん、完璧!」


~夜9時45分~

~八戸市内~


 「さあ夜食だ夜食!八戸と言えばラーメン!ラーメンを食べるために私は生まれてきた!」

「確か八戸にもダンジョンあるんだっけ?プレッパーズ生活に余裕が出来たら調査してみようかな……」


イチカは深夜営業のラーメン屋に入り、八戸ラーメンとライスを注文した。

そして、八戸ラーメンとライスが運ばれてくる。


「おぉぉ……この透き通ったスープにほのかに香る煮干しダシ!」

「そして(すす)る!!くぅ~~っ!!縮れ麺に鶏ガラスープが良く絡んでいて、うん!最高だな!!」

「そしてライスをかき込む!麺を食い、さらにかき込む!!ひゃおぉ~~っ!!」


周りの客は異臭を漂わせた長身女が、クソ高いテンションでラーメンを食べてるのを見て、次々と身体を遠ざけていく。

しかし、店主は彼女が美味そうにラーメンを食べているの見て、終始ニッコリだった。


「人数は4人。空いているかしらインテレエスノ・タン・プストゥァ?」


長身の白人達が入って来たのを見て、客達は更に壁際へ引いたり、椅子を詰めていく。

だが、西欧人のような洗練された感じでは無く、傷顔の男や異様に体格の良い男もおり、まるで敵の拠点に乗り込んできた兵士達のような雰囲気を漂わせていた。


「空いてるよ。アンタらはデカイから、テーブルを二つくっつけて使いな」


だが、店主は全く動じず、店員に水を持って行かせた。

イチカはまるで気にせず、ひたすらにテンション爆上げで麺へガッついていた。


『マルファ様。あの女を黙らせて、店から放り出しますか?』


『必要無いわ。犬みたいなモノと思えば、結構カワイイじゃない』

『暫くお風呂に入ってなさそうなのは頂けないけど』

『それにあの娘に掴みかかれば、放り出されるのは恐らくアナタよ』


そして、イチカは最後の麺を啜り上げ、スープをガブ飲みしてどんぶりを叩き付けるようにカウンターへ置いた。


「美味かった!!!超美味かった!!最高に美味かった!!!」

「ごっそさんでしたぁ!!」


店主も元気よく応じる。


「おう!!ありがとございやーす!!」


そしてイチカは会計に向かおうとする。


「ふぃ~~!食った食ったぁ~!」

「ん……?外国人?なんか私に用??」

(てか私より背が高い女の人、久しぶりに見た……)


会計カウンターの前に金色の瞳をした長身のスーパー美女が、千円札(北里柴三郎)を店員の前に置いて行く。


「あ、ありがとう!!え、え~~っと、どちらの国の人で……」

「取り敢えず、超絶サンクスありがとう!マジ多謝!」


「大丈夫よ。私は日本語話せるから」

「貴女、相当やる(・・)でしょ?これから北海道のダンジョンへ行くなら、私達の会社を頼ると良いわ」

「武器や戦闘車両の調達なら自信があるの。機会があったらヨロシクね♡」


そう言って、長身美女は名刺を差し出した。


「スタヴロス貿易……?」

(あ、名刺も日本語仕様なんだ……てか戦闘車両??)


そして、長身美女は金色の瞳を鈍く輝かせながら、イチカの手を両手で軽く握り、テーブルへ戻って行った。


イチカは最低でも3日間風呂に入ってません。服も着替えてない。

多分洗ってない残業OLの匂いがします。見た目だけで人を惹き付けてる。

別に風呂が嫌いというワケではなく、単に面倒くさいという理由だけです。だからこそ余計に重症です。


イチカちゃん(27歳)は危ない女にモテモテですね。

なんかヤバいフェロモンが出ています。


何故イチカが、フェリーで八戸から北海道へ行こうとするのか

何故青函トンネルを使わないのか。

何故ダンジョンのある北海道で、プレッパーズ生活をしようとするのか。

それは次回分かります。


ここまでお読み下さりありがとうございました。


「面白かった」「これから期待している」「斬新でワクワクしてる」「ネタが危なすぎる」「深谷ねぎそば美味しいよな」「八戸ラーメン美味いよな……」「伊右衛門を褒めやがって……!」「危ない女ばかりだ」「風呂に入れ」


と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。

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