移住提案
酒とつまみをそれなりに消費し、お互いに打ち解けてきたので少し踏み込んだ話題になった。
「ケウはずいぶんと礼儀正しい話し方をしているな。最初のときはもっと、こう……」
尊大だった。族長の娘であるとか叫んでいた。
ケウが少し恥ずかしそうに頬を赤く染めた。酔っただけかもしれないが。
「いえ、最初から媚びへつらいますと舐められますから。女二人旅なので少し強気に行きませんと」
「そんなものなのか。しかし、ケンタウロスとドラゴンってのは珍しい組み合わせだな」
「けんたうろす?」
「あぁ、すまん。人馬族だったな。俺の国ではケンタウロスと呼んでいたのでな」
「ケンタウロス……。なにやら不思議な響きですね。妙にしっくりくると言いますか」
どこか上機嫌に酒で喉を潤してからケウは旅の経緯を説明してくれた。
「私の住む里が、水と食料の関係で少々住みにくくなりまして。新しい移住先を探すためにジーン族で一番の戦士である私が探索者となったのです」
「ほぉ」
一番の戦士を旅に出して里の守りは大丈夫なのかと思うのだが、魔物もいる世界なので一番強い者でなければ旅などできないのかもしれない。新しい移住先ということは基本的に人の住んでいない場所を探索するのだろうし。
……あ、そんな使命があるのならケウが移住するのは無理か。姫はあの感じだと残りそうだが。
いや、いっそのこと一族みんなでここに移住してくるのはどうだろう?
ここは俺の土地というわけではないが、誰かが領有しているわけでもないそうだし。
人馬族が移住先を探しているのは食料と水の関係と言っていた。
D.P.を使えば井戸は掘れるし、飲み水の心配はない。
畑もリュアに頼めば作れるだろう。
肉も、鳥っぽい魔物やイノシシ型の魔物なら血抜きをきちんとすれば食べられる。自給自足の一環で試したから問題はない。さすがにゴブリンを食う勇気はなかったが。
畑での農作が安定するまでは俺がD.P.で作物を出してやればいいし……と、そんなことを考えている間にケウは姫との出会いを話し始めた。
「氷竜姫様には旅の途中、廃棄された都市の神殿で出会いまして。『面白そうな出会いに繋がる未来が見えるのぅ』という理由で私の旅に付いてきて――いえ、同行していただいているのです」
訂正した言葉にケウの本音が透けて見えるような……。いや、言わぬが花だな。
「神殿ってことは、神様扱いされていたのか?」
「えぇ。元々氷竜姫様は神話に登場するドラゴンですし」
『……神話となると軽く二千年は生きているはずだね』
リュアが黒板で解説してくれた。推定二千歳とか、異世界は凄いな。
「その都市は移住先に適さなかったのか?」
「元々住んでいたのが人間か亜人かは分かりませんが、人馬族にとっては色々と小さかったもので」
「なるほど」
ケンタウロスはとにかく大きい。並んで立ったとき、俺の頭が大体ケウの腰くらいだからな。家などの建物はもちろんのこと、道路などのインフラも人とケンタウロスでは基準が違うのだろう。
「ふ~ん、となると一から作った方がいいのか。ならここは最適だな。土地はとにかく広いからな」
と、俺が先ほど考えていたことを口にすると、
「――ほぅ、いいのぉそれは。あまり長々と移住地を探すのも何だし、ケウも一族と移住してくればいいのではないか?」
いつから話を聞いていたのか姫が賛同し、
『人馬族の人数は知りませんが、一族が移住できるくらいの範囲を我々の『領土』にしてしまえば毎日のD.P.収入も増えますね。そして土地神である私も、増えた領土と暮らす民の数に比例して力を増すことができると』
リュアも乗り気のようだった。
というか、お前って土地神だったの?
世界樹だし、耕作地を祝福していたから別におかしな話ではないのかもしれないが。
「…………」
ケウが真剣な顔で悩んでいる。
ま、酒が入っている状態で冷静な判断はできないだろうし、やはり移住の件はまた後日にした方がいいだろう。
ちなみにエリザはいつの間にか酔いつぶれていた。姫が途中で会話に割り込んできたのはこれが原因らしい。




