プロローグという名のエピローグ
このエピソードは、この小説の最終話のホントのホントに一番最後のシーンの抜粋となっております。
読みたくない方は普通にスルーしてくれて結構です。
ただ、最終話のラストシーンだけを最初に読んでから、改めて一からこの小説を読む、というのも作者的にはアリだな、という心持ちから、一番最初に掲載しております。
このエピソードを読んで、どうしてこうなってしまったのか、というのを追いながらこの小説を読むもよし、普通に一から読むもよし。
お任せします。
「 」
作者より
人の気が全くない、石造りの建物の中、暗闇の奥から、コツコツと足音が聞こえて来る。
足音は一人の少女の前で止まり、少女は目の前の男を真っ直ぐ見つめた。
男は、銀髪の魔法使いであった。
しかし、目も虚ろで、服もボロボロ、ほとんど千切れかかっている。言葉一つ発する気力のない、ただの廃人同然の生き物だった。
「兄さん...」
少女の目の前に立ったきり動こうともしない魔法使いを、少女はギュッと抱きしめた。
これが、異世界への旅を続けた魔法使い、ないしは魔術師の「結果」である。
「どうして...こんな...」
魔法使いの、その輝かしい銀髪が数本、少女の肩へ落ちる。
少女は魔法使いの目を見るが、もはや彼の目は何も見ず、何も映してはいない。ただ呆然と、目の前に目元に着いた玉を向けているだけに過ぎなかった。
「とりあえず...おかえり。兄さん」
そうボソッとつぶやくと、少女は肩をかして魔法使いと、一歩づつ、一歩づつ、歩き始めた。
廃墟となってしまった石造りの建物を出ると、そこには紛れもない平和な世界が広がっている。
人々は今日も幸せそうに、そして当たり前の幸せを無意識のうちに享受しながら、かたや誰かと話したり、かたやコーヒーを飲みながら読書に打ち込んでいる。
「あなたが守った幸せですよ。涙の魔法使い様」
...反応はない。それでも、少女は話しかける。
「家に帰りましょう。もう、以前ほど賑やかではありませんけど」
少女は脱力しきった魔法使いに肩を貸しながら、再び歩き始めた。
家に帰る、帰路をたどって。