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 次の日。

目が覚めると死体は消えていた。

死体だけではなくて、あれだけの血も全部消えていた。

包丁は綺麗で床に転がり、昨日のままの服も血の跡はひとつもない。


 そしてなにより、アイツも消えた。

幻なのに、架空なのに、殺したら消えた。

訳が分からなくて、むしろ混乱してしまう。

あの血は幻、アイツも幻。

それはたった一夜で証明されたけれど、幻のくせに本当に死んだというのだろうか。


 ……なにごともなく、身支度をして仕事へ向かった。

なにごともなく帰ってきた。

いつも隣にいて、騒がしくなにかを言って笑ってた幻は消えた。

ふと、旧友に連絡を取り、その事を言ってみた。



「やったじゃん。やっと消えたんだ」



 まったくの善意の声が、スマホの向こうから響く。

善意が降り積もる。

「良かったね」「心配してたんだよ」口々に、俺の幻を知る人達は言った。



「やっと私たちの仲間になれたね」



 ハッとして、声の方を振り返る。

しかし、そこには誰もいなかった。

「また幻聴か?」なんて、空気を和ませるためだろう。

旧友たちは笑った。俺も笑った。

ああ、なんて、気味の悪く寂しい世界だろう。


 結論から言うと、俺はイマジナリーフレンドがやっぱりまだいるように振舞った。

やっとできた彼女は早々に俺に別れを告げて消えた。

それでも俺はずっと、幻が見えるふりをした。

幻の影を踏まないよう避けて歩いて空を見上げる。

綺麗な入道雲だな、と隣へ声をかけた。


 空っぽな隣席は、記憶の中の笑顔を引きずって、言葉を予測させるのに、その声はもう聞けない。

幻の幻を追う人は、狂気か正気かどちらだろう。

春の折、花吹雪の中に、誰かの姿を見たような気がして。



「桜を見に行こう」



 誰もあの血の生暖かさを知らない。

俺が友達を刺し殺したことも、なにも。



終わり

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