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イマジナリーフレンドを殺した。
包丁で一突き、鮮血が吹き出して、俺の両手を真っ赤に染めた。
アイツは驚きと悲しみのまま、目が薄く開いて動かなくなった。
廊下で突然刺したから、後先考えずにやったから、血まみれの足元を見て呆然とした。
架空の友達は、俺が小さい頃からずっとそばに居た。
それが幻だと知ったのは、それなりに年齢が上がってから。幻でない友人もわりといて、俺が幻覚が見えると噂されたりもしたが、基本的にはそれには触れずに友人だった。
俺も自分が異常なのは分かったが、アイツは常に隣にいた。
隣にいてくれた。
まるで心の奥底を撫でるような言葉を発したり、俺よりも俺の事を客観視が出来たり、損得で消えるわけではないアイツは拠り所だった。
だから刺し殺した。
やっとできた恋人よりも、アイツの方が大切だと気がついてしまったから。
妄想が形になっただけなはずなのに、流れ落ちる血の生暖かさに恐怖を覚える。
「イマジナリーフレンドだと思ったら本当に人間だった」なんて漫画はいくらでも見た。
みんな架空の友達に興味津々で、遠くからサーカスを見つめるように、そんなことばかり書く。
なんて言いつつ俺はきっと部外者よりだった。少し面白いと思っていた。
なのに、鉄の匂いが鼻につく。
殺した。出刃包丁から血が滴り落ちる。殺した。
ストレスの限界が来て、急激に眠気を誘う。
もしも本当に人間だったなんてオチならば、目が覚めても死体はそのままだろう。
一人暮らしのこの部屋には、元から俺しかいない。
半ば倒れるように眠りについた。
あの、半開きの目がいつまでも脳裏にこびつき、夢の中にまで入ってこようとしているようだった。