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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
二章・「アソラルセの剣聖」
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少女を照らす朝日


 リゼロの星にかけたネーミングセンスに感銘を受けたけど二番煎じ感が半端なくて結局止めることにしました。

 ロマンは……不滅だぁ











――空は、どこまでも晴れやかだった。


 そろそろ冬も終わろうとするこの季節の中、空は雲一つなく燦然と煌めく朝日がこの空間にまで伝わってくる。

 少女はテラスの中、優雅な仕草で紅茶を亀のようにゆっくりと、味わうように喉を潤す。


 寒くもなく、温かくも無い涼しい微風が少女の長髪を静かに揺らした。 

 その景色を見ると、誰もが「今日は頑張ろうか」と思ってしまいそうだが、少女はどこか退屈そうだった。


「――浮かない顔をしているね」


「お父様」


 不意に背後から慣れしたんだ声が聞こえてくる。

 少女は少し驚きながらも、己の肉親のためにせっせと茶器を操り、流れるような手つきで紅茶をいれる。

 これも数か月に及ぶ訓練という名の拷問のおかげだ。


 二度は御免だ。


「――随分と早いのですね。 書類仕事に追われていて、また今日も徹夜でもしているのかと思いましたが」


「私も、別にやりたくてやってるわけじゃないよ。 ちょっとしたなりいきさ」


「――――」


「本当は今頃〈彼ら〉と年甲斐もなく騒いでいたのだけどね」


 少女の父親は、時偶に「彼ら」と呼称する存在を懐かしむような表情で語ることがある。

 今でもそれが何かは分からないが、それでも父にとってかけがえのない存在であったことだけはちゃんと理解できた。

 何故なら、自分もそんな存在と出会ってるのだから。


「前々から思っていたのですが、〈彼ら〉とは一体何なのでしょう」


「……私にとって、初めての友達たちさ。 ラース君から始まって、フィーニ、ヴォルケニオ、シロ、ケファレン、ディスラ……みんな、私のかけがえのない仲間だった」


「――――」


「でも、やっぱり私たちは永遠じゃない。 結局【円卓】は彼の寿命により崩壊し、今は世界中に散らばっている」


「……また、会えるといいですね」


「私も、本心からそう思う。 ――でも、あの日々はもう戻らない」


 男――ヴィルストは感傷に浸るように、自分を自分で言い聞かせるようにそう呟いた。

 その姿はどこまでも哀愁が漂っていて。

 完全に部外者であるシルファーすらも泣きたくなるような、そんな哀切だ。

 

「――だから私は、あの場所にある種を植えた。 これが実った時、また七人で笑い合えるようにと」


「――――」


「結局、もう満開実っちゃるのに未だ誰も集まってやくれやしなんだけどね。 まぁ、この姿じゃ当然か」


「お父様」


「ん?」


 不意に、シルファーが己の父へ問う。


「――その花の名前は?」


「――桜だよ。 大きな、大きな」


「それは何故でしょうか」


「……この花には、色々と思い出があるんだよ。 ――ラースが、言っていた。 桜のようになって欲しいと」


「――――」


「結局、私は実ったのかな? 封印されちゃった彼に聞けないのが残念で仕方がないよ」


「――そう、ですか」


 再び、沈黙が訪れる。

 

 そして数分後、ヴィルストは悪戯気に微笑むと、じっと自分を見つめる娘に笑みを浮かべ、こう言う。


「それじゃあ、今度は私の番だ。 ――君は、彼がいなくなって寂しいのかい?」


「――っ。 そそそんなわけないじゃないですか! アキラさんがいなくたって私は平常運転ですよ!」


「――私は、別に「彼」とは言ったけどアキラ君とは言ってないよ?」


「~~~~~‼」


 図星なの茹でたリンゴのように顔を真っ赤にするシルファーを、微笑ましそうに見つめるヴィルスト。

 シルファーは拗ねたように頬を膨らませながら、なおも言い訳を並べる。


「べ、別に私はアキラさんのことなんてなんとも思ってないんですからね!」


「そうかいそうかい。 子供の顔が見れなくて残念だよ」


「どういう意味ですか!」


「ハッハッハ」


 娘の初々しい姿に思わず頬を綻ばせてしまう。

 きっと、あの頃の自分も同じような心境だったに違いないと確信しながら。


「父様、冗談はよしてくださいよ!」


「御免御免。 ちょっと、娘が可愛くて」


「もうっ」


 拗ねたようにシルファーがそっぽ向く。

 その姿すらもかわいらしく、更に笑みが堪え切れなくなってしまう。

 

「――正直な話、彼の事をどう思っているのだい?」


「――――」


「私は、少なくとも彼のことを好ましく思っていると感じるよ。 でも、やっぱりこういうことは本人に聞いた方が正確だし手っ取り早いしね」


 シルファーは一瞬言葉を選ぶように視線を彷徨わせ、頬を真っ赤に染めながらぽつりと今にも消えそうな声で答える。


「――好きですよ、もちろん」


「――――」


「あっ、もちろん友人としての意味ですからね! 別に深い意味なんてまったくないんですからね!」


「そうかいそうかい。 どうやら存外早く孫の顔が見れそうだ」


「本当にどういう意味ですか!?」



 そして、平穏な日常は過ぎ去っていく。

 



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