目を刳り貫くような
エヴァンゲリオン見に行こうか行かないか迷います
「――――」
レギウルスは、凪いだ瞳で乱入者を観察する。
まだまだ幼く、背丈もヨセル並みといったところか。
その容姿はいっそ二次元と説明された方が納得できるほど整っており、万人が見惚れてしまうような魅力を醸し出している。
だがその目はただの色男には出せないような危うさが宿っていた。
(歴戦の猛者……とは違うな)
戦場において、感情を表に出すことは禁忌に近い。
故に歴戦の戦士ほど寡黙で無表情になりやすい傾向になる。
この男の気配はどこまでも凪いでおり、まるで幽霊のようだ。
だが――違う。
何かが、決定的に違うのだ。
これまで出会ったどんな戦士とも違う、この瞳。
レギウルスにはまるで感情が抜け落ちた機械のようにも感じられ、そのどこか無感動な眼差しに身震いする。
「――誰だ」
「スズシロ・アキラ。 一介の雇われ傭兵さ」
「ハッ。 その魔力量で?」
「ん? お前、魔力無い癖に感じることはできるんだな」
「――――」
少年――アキラからはレギウルスであっても戦慄してしまうような、途方もない膨大な魔力を感じる。
この魔力量で平の戦士、ということはあり得ないだろう。
そしてなにより、先刻刃を交えたガバルドは中々の強者。
それも無情になりきれない性格だ。
そんな彼が自分のような規格外の化け物との無謀な戦いを強いることはないだろう。
つまること――ガバルドにとって、レギウルスと対等以上に戦えるだけの強者!
「面白い……!」
「はー。 面倒草っ。 もうちょっと休ませろよ」
「そいつは悪いことをしたな。なんらな、永遠に休ませてやろうか?」
「遠慮しまーす」
しかしながら少年の雰囲気はどこまでも場違いであった。
レギウルスの実力は容貌も含めて人族に広まっているはず。
当然、少年が自分の正体を見破っていない、なんていうことはないのだろう。
そんな化け物と対峙していながら、この態度。
虚勢……ではない。
少年の態度はどこまでも似合っており、これが演技の類であるのならば彼は戦士よりも役者の方が天職であるだろう。
つまること、それは強者の余裕。
確実に勝てると心から確信しているからこそのこの態度なのだ。
「――――」
当然、レギウルスにとってそれが面白いわけがない。
故に、ほとんど無意識的に口が開いたのだろう。
それが――それが、どうしようもなく致命的であるとすら知らないまま。
「――いいなぁ」
「……?」
「神が創造でもしたようなその造形。 騎士団長にさえ頼られる実力。 俺でさえ怖気づくような、圧倒的な魔力」
「……何が言いたい」
突如として語るレギウルスを、胡乱気に見つめる。
「さぞかし、優雅な生活を過ごしてきただろうな」
「――――」
「きっと、神ですらお前を羨んでいるぞ。 お前ほど完璧な人間は、これからもきっと二度は生まれないだろうな」
「――――」
レギウルスは、まだ気が付いていない。
先刻まで人間味を見せていたアキラが、急に押し黙ったことに。
それは、レギウルスの言葉が図星だったからではない。
逆だ。
自分が、完璧な存在?
レギウルスは貧民街育ちだ。
当然、日本人生まれのアキラとの価値観は大いに差異が存在するのだろう。
だが、それだけではない。
言うことを欠き、この男はアキラを「完璧な存在」と称したのだ。
――心底、甚だしい。
「――俺も、お前のようになりたかった」
「――分かるのかよ」
「?」
ぽつりと、呟かれた。
それは今にも消えそうで、異常な神経を持つレギウルスであっても鼓膜を振るわせきれなかった程に。
だからこそ、その一言に込められた『憤怒』に気が付かない。
「――お前に、何が分かるのかよ」
「――――」
音がしない。
視覚が機能を失う。
平衡感覚でさえ真面に働きやしない。
――それは、まるで絶対的強者――神にでも睨まれたかのような圧倒的な威圧でした。
体がかじかんで動かない。
不意に、レギウルスは己の両腕両足がまるで生まれた小鹿のように情けなく震えていることに気が付いた。
――有り得ない。
次代の英雄と言われた、この俺が?
違う、これは何かの間違いだ、そうでならなくてはならない。
――殺せ、殺せ、殺せ!
今ここで己が生物界の頂点に立つことを証明できなければ、きっとあの少女を守る資格なんてなくなる。
「うぉおおおおおおおお‼‼」
レギウルスはなけなしの戦意を振り搾り、猪のように愚直にアキラへと突進した。
だが――居ない。
いつのまにやらその場所にアキラという少年の存在が消え去っていた。
(どこだ! どこだ!)
超人的な気配察知能力で、必死に周囲のどんな微弱な気配でも暴こうとしてみせるが――何もない。
まるでレギウルスだけが、独りぼっちの世界に取り残されたかのような、そんな孤独感が支配する。
そして――、
「獣宿――【牙突】」
猛烈な魔力の奔流が迸った。




