氷結の世界
呪術廻戦、まさかの映画!
予想外過ぎるやんけ……
というか結構早いね。 冬か……絶対行こっ
「――――」
ガバルドは、そっと転げ落ちるレアストを支える。
その動作は、ぶっきらぼうではあるが、どこか隠しきれない親愛があった気がして、思わず目が潤む。
やっぱり、彼は変わらないんだなと確信する。
「よぉ。 随分と無理したな。 あの頃じゃ考えられない光景だ」
「……長として、当然ですよ」
「まぁ、お前のことだ。 俺が止めて無理するんだろうな。 なら――代わりに、俺がやってやるよ」
「――――」
「んで、お前の本音を聞く。 言っとくが、もう誤魔化せねぇからな。 「耳」を使えば直ぐに分かるぞ」
「……わかりました。 ガバルド君こそ、頑張ってくださいよ」
「おう。 任せとけ」
ガバルドは花が咲くような笑顔を見せると、そのままレアストを投げ捨てる。
手負いの彼に、あの化け物の殺戮圏内に侵入する資格はない。
無理したところで細切れになるのがセオリーだ。
それを理解し、レアストはせめてもの抵抗としてなけなしの魔力を練り上げ、治癒魔法を発動する。
淡い光が長身の彼を包み、癒す。
「――お別れの言葉は済んだか?」
「どうやら、極悪非道で地を行く魔人族にも空気を読むことができるのだな。 『賢者』にでも教えてやろう」
「ハッ。 減らず口、嫌いじゃないぜ」
「――――」
無言。
ガバルドは静かに腰にぶら下げた鞘から鮮やかな銀色の刀身を生み出す。
抜刀し、洗練された動作で構える。
鋭い視線でレギルスを睥睨した。
かたや、かつて極悪人と嘯かれ、帝国制圧などいくつもの国の超重要任務に関わり、圧倒的な戦果を叩き出した英雄。
かたやその身に魔力を宿さないでありながら、血筋故かそれとも才能故なのか、ガバルドに匹敵する戦果を短期間で生み出した生ける英雄。
互いの英雄が、激突する。
始まりは、一瞬だった。
大地が陥没するほどの勢いで踏み込み、ガバルドは光すらも超越した速度で構えるレギウルスへ肉薄する。
しかし、レギウルスはその勢いに怖気づくことなく、凄絶な笑みを浮かべながら、双剣を躍らせる。
そして、互いの刃が交わった。
甲高い金属音がけたましく響く。
鍔迫り合いは不利だと悟ったのか、ガバルドは一気に力を抜きレギウルスの足首へ強烈な蹴りを放つ。
だが、まるで大樹のように不動なレギウルスは微動だにしなかった。
「――クソッ」
「オラァ‼」
次の瞬間、眼前に二刃が迫っていた。
圧倒的な筋力によって加速した双剣は、バランスを崩すガバルドへ容赦のない斬撃を加えようと。まるで瞬間移動でもしたかのような速度で迫っていた。
――少なくとも、客観的に見るとそうだろう。
しかし、それでもガバルドの「目」を誤魔化すことはできない。
「――遅い」
「――――‼」
再び、甲高い金属音が鳴り響く。
だが今度は金属同士が触れ合ったのではなく、ガバルドと双剣の間に介入したのは幾重にも重なった氷の障壁だ。
障壁と双剣が激突し、僅かな抵抗のあと木っ端微塵に砕け散る。
だが、それでもほんの数秒を稼ぐことはできた。
それならば万々歳である。
その数秒は、値千金にも勝るのだから。
「――――」
「ちっ。 ちょこまかと……!」
ガバルドは一瞬の隙を見逃さず、双剣の軌跡が描かれるである地点から這い上がるように滑走し離脱する。
よく見るといつのまにやら周囲は凍り付いており、ガバルドの足には綺麗なスケートシューズのようなものが履かれていた。
摩擦を、極端に減らして。
陸での最高速度を大きく上回り、ガバルドは疾走する勢いでレギウルスへ一太刀加えることに成功する。
だが――、
「……やっぱり、並大抵の技じゃ勝てないか」
「おいおい、落ち込むなよ。 悪いのはこんな俺を生み出しやがった神様なんだからな。 神とやらが存在するかどうかは知らんがな」
「ハッ」
何とか一撃、レギウルスの胴体へ触れることが叶ったが、鋼鉄を殴ったような抵抗感に苛まれてしまう。
(やっぱ化け物相手に小手先技は通じんか)
摩擦を最小限にし、そして己が放てる最大限の一撃でも、あの抵抗。
「どうやら、お前は誇張なしで化け物のようだな」
「ハッ。 よく言われる」
「……お前を見ていると、若かりし頃の自分を鏡で見ているような気分になる。 あんまり、長居したくはねぇ」
「そいつは結構!」
レギウルスは壮絶な嘲笑と共に、懐――推定アイテムボックス――から鎖鎌を取り出し、準備運動でもするかのように振り回す。
(遠距離武器か……厄介だな)
重傷を避けるためとはいえ、距離を開けすぎるのはどうやら愚行でしかなかったようだと判断する。
しかもあの鎖鎌からは身震いするような禍々しい魔力を感じる。
大方古代のアーティストか。
(あのアーティストには要注意、か。 全く、難儀なものだな)
苦笑し、そして再度片手剣を構える。
「――俺とお前。 どちらが先に倒れるか、比べっこといこうか」
「ハッ」
そして、唸る鎖鎌を隙間をガバルドは這うような姿勢で潜り抜けていった。




