始末
更新忘れてたぁーーー
「あー。 疲れたわー」
だらしない顔でスキップしながら大樹へと進む。
別に体力的には全然大丈夫。
なのだが、やっぱあの連中雰囲気尋常じゃないし、あの虚ろな目玉は見ているだけで鬱屈とした気分になる。
まぁ、それでも目的通りアレを解放できたからよしとしよう。
俺はそう自分に言い聞かせながら加速する。
ついでにちょっと魔力の流れを確認してみると、ちょっと前まで発声していた魔力の奔流が複数消失している。
地下の方は別にいい。
月彦も特に死んだ様子もないし、あいつらも撤退を選択した。
にしても俺の後輩ちょっと優秀すぎなー。
まぁ、あの手の交渉術は俺が叩き込んだから当然か。
アレは交渉というよりかは脅迫に近いけど。
(でもなぁ、安吾がなー)
あの異質な魔力は明らかに魔術を扱うもの特有の品物。
一応、この世界に魔術を行使できる奴もいるっちゃいる。
『賢者』がその代表例。
だが、この戦場に置いて魔術を扱える人物は必然限られてくるよな。
俺月彦、安吾やガイアス。
人族陣営で魔術を繰り出せる奴はこれで全部か。
あぁ、あとアメリア家当主も居たな。
ちなみに、あのジジイショッタは自分だけ帰りやがった。
まぁ、彼の立場からして当然か。
(んで、魔人族サイドには魔術を使える者はいない)
俺は健在だしガイアスが生半可な軍勢に敗れるわけないし、そもそもあいつが死んだら俺にもなんらかの変化が生じる。
それが無いってことは、ガイアスは今も健在ってこった。
月彦も同様。
つまり――
「安吾か……」
月彦と安吾には、俺がシルファーの護衛任務を行っている間、ガイアスに魔術についてのアレコレを鍛えてもらった。
まだ術式改変にまでは到達していなかったが、土壇場で成功したようだ。
だが、その奇跡は時に仇となる。
魔術を薄っすらと理解していたまま死んだ方が、百倍マシだったかもな。
術式改変を習得すると、強力な魔術の代わりに使用中はシステムからのアシスト――つまり、リスポーンができなくなる。
復活できない状態で殺されれば、結果は必然。
「死んだ、か」
今後、俺は安吾の現実での生死を確認できないだろう。
なんせ、俺たちはあくまで仮想世界の中で繋がっていた。
お互いの本名も知らなければ、所在地すらもハッキリと把握できていない。
当然だ。
だって、ゲームなんだから」
「ゲームね」
薄々疑問に思っていたことがある。
この世界は、本当にくだらない遊戯の世界なのだろうか。
数万年前から現実と一切の遜色なく人々が息をし、彼らは死してなお遺伝子として世界に影響し続けている。
まるで、現実じゃないか。
「ったく、一体どうなってるんだよっ」
俺はただ、そう悪態を吐くことしか叶わなかった。
「――――」
男は遥か彼方からちっぽけに見える大樹をじっと見つめていた。
その瞳はまるで感情が抜け落ちたかのように凪いでおり、機械のような虚ろだけが移りこんでいた。
男の容貌は深く被られたローブによって隠されいる。
「――これは、前哨戦だ」
男が、掠れるような声でそう呟いた。
その今にも消えそうな言葉には万感の思いが込められており、心なしか真っ黒な瞳が少し潤んだ気がした。
「ようやく。 ようやくこの光景に辿り着くことができた」
そして、男は懐から呪符によって何重にも縛られた、禍々しい気配と魔力を無遠慮に吐き出す木箱を取り出した。
一瞬、躊躇する。
だが男はそれを振り切るように思い切って呪符を剝がそうとする。
「――スズシロ・アキラ。 貴様は余りにも危険だ」
思えば、最初のきっかけは彼だった。
彼がこの世界に偶然訪れ、様々な偶然というなの必然を呼び起こした。
自分たちの悲願が叶うのも、あの少年の協力が必要不可欠であっただろう。
だがらこそ――危うい。
あの虚ろな目をした少年は、謀略に長けた、まさに黒幕というべき人物。
確かに、彼は最高の結果を叩き出し、途方もない利益を生み出した。
だが――もしそれすらも彼の策略の一つだとしたら?
考えればキリがない。
彼はまず間違いなくこの世界において、最もたるイレギュラーであり、それがどう作用するか『亡霊鬼』ですら判断しかねるらしい。
そんな彼を野放しにするなど、あり得ない。
「――済まない」
男はそう静かに謝罪し、木箱を大樹へと放り投げようと――、
「――そこまで理解しているのなら、何故それを奴が想定していなかったと考える?」
「なっ」
男は決して許容できない異物が体内に侵入し、得体の知れない苦痛に顔に盛大に歪める。
水滴が落ちた。
数秒後、男はようやくそれが己の口内から盛大にぶちまけられたものと理解する。
「アキラから伝言だ。 ――『俺の予想通りに動いてくれて、本当にありがとう』」
「――――」
そして男は、静かに崩れ落ちた。




