表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
一章・「赫炎の魔女」
80/584

大樹の惨劇


 











「――迎撃せよっ!」


「――――」


 レアストの号令が響いた刹那、一斉に大樹から、もはや数えることすら馬鹿らしくなるような致命の矢が放たれる。

 並みの相手ならば、この時点で詰んでいるだろう。

 だが当然、対峙する相手は常識で推し量れるような存在ではない。


「――〈煌爆鎖〉ッ!」


 幾千もの流星群と対峙するレギウルスは、先刻ワイヤーのように利用した鎌版モーニングスターを構える。

 そして猛烈な踏み込みと共に――一閃。


 刹那、轟音が上空を支配した。


 無造作に振るわれた鎖鎌は、冗談のようにレギウルスへ直撃する矢のみを、正確無比に叩き落した。

 そしてそのまま矢の流星群を素通りし、更に大樹との距離を縮める。

 

「――「天穿」!」


「ハッ! 今更それがどうした!」


 必死の形相で放たれる極光を、レギウルスは嘲笑いながらも力任せに双剣を振るう。

 双刃と極光が激突し――。

 

「なっ……」


「やっぱクソ弱ぇな、お前らっ!」


 刹那、極光が消し飛んだ。


 「天穿」は、現森人族長レアストが放つ最高峰の一撃だ。

 それを、風船を割るような呆気なさで消し飛ばされた。

 その非現実的な事実に思考が停止し、値千金の数秒を与えてしまう。

 レギウルスは空中で再度鎖鎌を振るい――大樹の隅っこに引っかかる。


「さぁ――焦らなくても楽にしてやるぞ!」


「――迎撃、迎撃!」


 次の瞬間、伸びきったゴムが元の長さに戻るように猛烈な勢いでレギウルスが大樹へと接近してくる。

 狂ったような叫ぶレアストの勅令に従い、再び己が繰り出せる最高峰の快進撃を放つが――。


「嘘、だろ」


 今度は、迎撃すらない。


 レギウルスは光を超越する速度で肉薄しながら、少し体をひねり何食わぬ顔で己へと迫る矢を躱す。

 そして何度も何度もそれが繰り返され――、


「――はい、捕まえた」


「ひっ……」


 『傲慢』が、神聖なる大樹への侵入を果たす。















「血ぃ! 血ぃ! 血ぃ! もっと、もっとくれよっ!」


「クソッ……!」


 ついに大樹へと到達したレギウルスは手始めに双剣ですぐ傍で呆然と己を凝視する背丈の小さな森人族の少年を惨殺する。

 血飛沫は、無かった。

 まるで剣に鮮血が吸いつくされたように血筋は一滴たりとも零れなかった。


 傍目から見ればほとんど普段と変わらない。

 だが――、


「――ぁ」


 唐突に命のタイムリミットが迫りくる。

 

 体から体温が猛烈な勢いで奪われ、視界が霞む。

 激痛も、苦痛も、無い。

 ただ、不可視の何かに抉られたような傷跡だけが、彼を死へと誘う唯一の予告であった。

 体から活力が抜け落ち、崩れ落ち絶命する少年の瞳はどこまで虚ろだった。


「あぁ。 やっぱ、ガキの血は旨いな」


「き、貴様ぁああああ‼」


 つい先刻まで共に同胞として戦場に臨んでいた少年があまりにも呆気なく絶命する姿を視界に移し、義憤に体を突き動かされ男は懐に帯刀していた極めてコンパクトな片手剣をレギウルスの首筋へと振るう。

 だが――結果は一目瞭然。


「ん? おいおい、こんな戦場に玩具の剣なんて持ってきちゃだめじゃないか。 もしかして、愛する息子の他愛もない悪戯? もしそうならご愁傷様」


「――――」

 

 そして、頭部が冗談のように空を舞う。

 

 それだけで彼の儚い命が散っていたのは一目瞭然であり、戦士たちは凄絶な笑みを浮かべる狂人へ一斉に矢を放った。

 飛翔する矢の軌道は韋駄天もかくやという速度だ。

 おそらく、危機的状況故に魂が己が放てる最大出力の限界を取っ払ったのだろう。


 だが、生涯最高の一撃は、一瞬で無意味となる。


「そんなモンじゃ俺を殺せねぇぞ。 折角魔力なんていうモンを持ってるんだ。 今度はそれをもっと有効活用しような」


「――――」


「じゃぁ、サヨナラ。 ――〈煌爆鎖〉」


 言葉は、無い。


 なにせ既に首筋から先が消失しているのだ。

 どのような超人でも声帯が消えては発声することも叶わないだろう。

 

「はぁ。 どうせなら吸いたかったんだがな。 どうして人間は無意味な行為が好きなのやら。 あ、そういえばお前ら人間じゃないっけ」


「――貴様っ」


 激情を強靭な精神力で堪え、凄まじい形相で狂人を睥睨するレアスト。

 彼のすぐ傍には幼い少年が力なく倒れていた。

 何故、あの蹂躙劇の中でレアストが生き残ったのか。

 それはひとえに、少年の果敢な行動故だろう。


 あくまで、彼らは兵士だ。

 いつどのように死のうととっくの昔に覚悟は決まっている。

 だが、自分たちを統率する長、レアスト。

 彼が絶命するのは、絶対に駄目だ。


 彼の死によって生じる指導者不在により生じる混乱やパニックを想定し、己の命を天秤にかけ、少年は飛び込んだ。


「クソっ」


 堪え切れない激情を悪態へと変換し、レアストはすっと悠然と洗練された動作でレギウルスへと大弓を構える。


「――覚悟は、できてるだろうな」


「覚悟ぉ? ナニソレ美味しいの?」


 


 なんだかガバルドさん(過去)とレギウルスさんがどんどんアキラ君に似てきてる件について。

 一応レギウルスは醜悪さを目立たせ、ガバルドさん(過去)は正義のヒーロー的な仕様をしているのですが、どうしても重なってしまう摩訶不思議

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ