その意図は
「安心しろ。 あくまで冗談だ」
「…………」
「ちょ、なんだよその疑いの眼差し! 言っとくが俺生まれてから一度も魔人族なんていう厨二病みたいな連中と接触したりしてねぇからな!」
「ロマンがあいって、いいじゃないか」
「まさかのコメント」
確かに、ロマンは最高だけどね。
さてさて……しかし囚われの姫か。
人質ってのは時に争いより多くの利益をノーリスクで得ることが可能だ。
今回の場合がまさにそれ。
もし王国が攻めてきた場合、姫を人質にすれば十分効果を発揮するだろう。
だが、一つ疑問がある。
「……人質は強力な一手であると同時に諸刃の剣でもある。 なんせ一度王国が姫を見捨てればその切り札はただのゴミクズ当然となり果てるんだしな」
「…………」
「あれぇ? 不思議だなぁ。 じゃあなんでそんな姫様をわざわざ大金で俺達〈プレイヤー〉を雇ってまで奪還するのかなぁ?」
「……白々しいぞ」
苦々しい表情を浮かべるガバルド。
それを見て、俺はニヤリと笑う。
「……では、何故こんな部隊が作られたのか。 あんたの気配はそこらのモブとは一線を画す異質なモノだ。 そこそこお偉いさんなんだろうよ。 そんなあんたが懇願すれば、多少の無茶も許してくれるかもな。 それに王国側にはほとんどデメリットないし」
「……もしそうだと言ったら?」
「どうもしない。 俺は大人しくあんたの手足となってお嬢様を奪還するだけだ」
探るようにガバルドが俺を凝視する。
ちょっと恥ずかしいな……
「何が目的だ?」
「色々」
だって本当に色々とあるもん。
これはあくまでも俺の妄想なのだが、このおっさんは囚われの姫さんになんらかの好意、もしくは恩を抱いていたのではないだろうか。
そうでもないとこんな面倒なことするまい。
まぁ、単純に騎士として姫を救いたいっていう気持ちもあるかもしれないがな。
「……貴様には貴様なりの目的があるということは分かった。 だが、一つ聞きたい。 ――その目的は我ら王国の未来を大きく左右するか?」
少し悩んだのち、俺は答える。
「答えはイエス。 でも、ある意味良い変化が訪れるんじゃない? 少なくとも、あんたたちの人権をないがしろにしたりはしないさ」
「そうか……なら、俺はそれを黙認する」
「そいつは僥倖」
これは思わぬ誤算だ。
まぁ、今ここでガバルドを消すのはデメリットがあまりに大きすぎるからな。
ガバルドは明らかに先刻の言葉により俺を意識している。
この状態が一番都合が良いと言えるだろう。
「それじゃあ、お互い頑張ろうぜ。 俺は俺なりの方法で、あんたはあんたなりのやり方でな」
「……分かった。 このことは他言無用にしろ。 約束だ」
俺はその言葉にニヤリと口元を歪める。
「了解了解。 ありがとう、色々と収穫があったよ」
成程、これこそがこの世界のアイデンティティーか。
あんまり試したくはないが、いつかちゃんと検証する必要があるな。
やっぱりリスクが少ないのは魔人族側に加勢した〈プレイヤー〉かな。
多分、これは既に一般常識として伝わっている。
騙すのは異端児である〈プレイヤー〉だよね。
一体それを破った場合どうなるのやら。
楽しみだなー。
「……私はもう行く。 これでもそこそこの立場だから、貴様と違って多忙なのだよ」
「そうかい」
そして、ガバルドは豪快に足踏みしながら遠くへと消えていった。
そんなちょっとしたトラブルがあったが、それからは特に問題なく一同は囚われの姫君とやらへと向かって行った。
でもなー、やっぱ不気味なんだよな。
向こうは明らかに俺たちの動きを把握している。
だからこそ、姫君を誘拐することができたんだからな。
なら刺客の一人や二人、配置してもおかしくはないだろう。
しかし、何時まで経ってもそんな素振りは見えない。
何を狙ってんだが。
余談だが、どうやらこの世界にもちゃんと魔法という概念は存在するらしい。
まぁ、残念なことにこの世界の住民はスキルは使えんがな。
当然、「隠形」のように気配を遮断するような魔法も存在する。
だが、やっぱりそれの対策もあるんだよねー。
その対策が、俺の後輩だ。
やっぱりレベルが違うからか、〈プレイヤー〉の使う魔法やスキルはそこらのモブとは一線を画している。
月彦の召喚魔法に周囲に極度の「隠形」の効果を付与する魔獣がおり、多少魔力は喰うがこの隊全員にそれを付与したのだ。
「相変わらず俺の後輩は便利だな」
「そうやって何度パシられてか」
「アッハッハ」
「それで誤魔化したつもりですか」
「もちろんさッ!(渾身のドヤ顔)」
「……そっすか」
やだぁ最近こいつ反応冷たいんですけど。
よし、一度自分の立場を理解せる必要があるようだな。
そう、エロ同●のように。
「そういえば、あのおっさんは?」
「ガイアスなら黄昏がれてんぞ。 おっさんの黄昏とか誰得な」
「事実とはいえ酷い」
と、その時気配が。
「おっさんですが何か」
「ア、スミマセンでした…………」
「その反応が一番傷つく……」
再びおっさんは黄昏ていった。
なんというか……罪悪感っ。
ガバルドが意外と賢いということがこの世界のアイデンティティーについてのヒントです。