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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
一章・「赫炎の魔女」
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乱入


 何気なく600話行ってました











「――貴方、どこかで会いました?」


「――――」


 仮面は月彦の問いに否定も肯定もしない。


 その無言という返答に目を細めながら、なおも月彦は追及する。


「何か、ダブるんでるよね。 貴方の動き。 どこかで見たことはある。 でも、それが何かハッキリしない」


「――――」


「やっぱり、貴方僕と会いました?」


 繰り返しそう問うが、しかし仮面は沈黙を続ける。


 その煮え切らない態度に苛立ちながら、月彦は仮面の動きを再度脳内メモリーから見返した。

 仮面の戦闘スタイルは、広く言えばオールラウンダータイプ。

 それなりの威力の火炎魔法も行使でき、更に無手での体術ならばアキラすらも超える自負がある月彦と互角に渡り合えるその手腕。


 弱点らしい弱点はほとんど見つからず、無策で挑めばたちまち火炎の呑まれ、灰と化すことは明白。


 確かに、この力量ならば幾多もの魔人族を従える立場へ、自然と収まっているのだろう。

 だが――どこか違和感を感じてしまう。

 どこかで見たような、そんなあやふやさが今は歯痒い。


「――答えませんか」


「――モ エ ロ」


 模範解答の代わりは、激烈な火炎だ。


 仮面が詠唱のような行為を行い、次の瞬間月彦が真面に触れれば焼き切れてしまうような爆炎が乱舞する。

 だが、それと対峙する月彦に焦燥はない。

 ただ平坦な眼差しで仮面を見据える月彦へ、業火の流星群が激突する。


 が――、


「っ!」


「やっぱり、炎弱くなってますね。 ドーピングの効果が消えると、魔術の威力も減衰していますね」


「――――」

 

 数瞬前ならば展開された影ごと月彦を吞み込んでいた爆炎も、今や老いた麒麟のようにあっさりと一蹴されてしまう。

 やはり、ドーピングが切れたのはブラフではなかったらしい。

 月彦はそう判断しながら、韋駄天の如き速度で仮面へ接近する。


「流石に、手負いの今だったら物理ステータス段ボールレベルの僕でも、それなりに戦えるんじゃないですか?」


「くっ……!」


 アイテムボックスから取り出した片手剣を遠心力を上乗せし、鋭利な刀身が禍々しい大鎌と激突する。

 鋭い金属音が響き渡り、数多の火花が舞い散る。

  

 月彦は一瞬体に込めていた力と魔力を抜き、その反動であっさりと仮面の大鎌によって弾かれてしまう。

 隙だらけな月彦の胴体へ、仮面は流れるような軌道を宙に描くが――届かない。


「やっぱり、便利ですねギルディウス」


「――――」


 刃と胴体の間に、唐突と介入した黒影は、容易く仮面が繰り出した刃を弾き返し、今度は逆に仮面が致命的な隙を晒す。

 当然、月彦がそれを見逃すわけがない。

 最大限の魔力が込められた片手剣は、猛烈な勢いで仮面の首筋へと肉薄し――、



 刹那、轟音が通路を木霊した。
















 次の瞬間、たった数秒の間に起った事象を説明するとこうなる。

 

 破砕音が轟き、反射的に硬直してしまった月彦へ、仮面は咄嗟に大鎌で己の首筋を両断しようとした片手剣を弾く。

 ――仕留め損なった。

 そう月彦が認識した刹那、おびただしい影が仮面へ殺到する。


「――――」


 しかし、殺到した影は頭上から飛び降りた人影に呆気なく一蹴されてしまう。

 その光景に瞠目する月彦へ、肥大化した鋭爪が襲い掛かる。

 体勢的に回避が不可能な月彦を、ギルディウスが咄嗟に吐き出した影が巻き付き、なんとか殺戮圏内から抜け出した。


 放物線を描く月彦を、ギルディウスは影のクッションで衝撃の一切を吸収し、なんとか重傷を負う無様は避けられた。


「何がっ」


「――情けないのだ、仮面」


「――――」


 土煙が晴れると、乱入者の要望が鮮明に確認できた。


 まるで宝石のように煌めくパール食の長髪は、幾多もの戦闘によりかつての面影を無くし、ボサボサとなっていた。

 その瞳孔はネコ科のように開ききっており、尋常ではない殺気を振りまいている。

 

 だが、やはり最も特徴的なのはこの両腕だろう。

 少女の両手は今や肥大化し、そこら中に爬虫類特有の鱗が張り付き、その先端には鋭利な爪が生えている。

 先刻月彦を両断しようとしたのは、おそらくこの鋭爪だろう。


「……すまない」


「……お、おぅ。 魔人族として当然のことをしたまでなのだ」


 仮面ごしに聞こえた謝罪の言葉は少女のように澄んでおり、声優ですと言われてもそこまで驚かないだろう。

 性別不詳の仮面が実は美少女ボイスを持つことに、月彦はもちろん同胞であるメイルも愕然としている。


 だが、二人はギルディウスがメイルたちを憎々し気に威嚇するような嘶きに、なんとか正気に戻される。

 

「……何の用ですか」


「言わなくても、分かるだろう、なのだ。 妙に苦戦しているようだから、同胞として助太刀したまでなのだ。 何か、文句でも?」


「もうちょっと遅く到着してたらよかったのに」


「ハッ」


 月彦の適当な文句を鼻で笑うメイル。


 その様子からは月彦に対する警戒が微塵も感じられず、事実彼女から感じる膨大な魔力は、明らかに月彦や仮面を上回っている。

 使役していた魔獣のストックはゼロ。

 ギルディウスも切り札を使い捨てしたことにより、疲弊しきっている。


 そして己の力量を考慮し――諦めたように両手を挙げる。


「――詰みましたね」


 

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