傲慢の快進撃
なんか偶然ジャンプ読んだら編集者にアンダーバーさんがいらっしゃるんですけど。
気のせい、ですよね?
私の、見間違いですよね?
上空で粉塵が舞い上がり、爆音が轟く。
その衝撃波はこの距離でもしっかりと伝わってきており、どれだけの威力と万力が彼に衝突したのか理解できた。
「……礼をいうよ、ガバルド」
レアストはこの龍艇船の犠牲を笑って許すような男だ。
それを利用するのは、少し罪悪感があった。
だが、今はただ、この神話の一ページを脳裏に焼き付けておくことの方が、幾分かは大切であろう。
だが、ただ見ているだけではいけない。
まだまだ、自分の仕事はあるのだから。
レアストはあまりに異様に愕然としている同胞へ一喝する。
「――落ち着いてください。 追撃を」
「さ、流石に死んだんじゃないんですか……?」
「念には念を入れて、です」
「ぎょ、御意」
狙撃犯のメンバーを眼光で黙らせ、レアストは自分自身も大弓を構え、今込められるかぎりの魔力を絞り出す。
まだだ、まだ終わっていない。
「――「天穿」」
刹那、神すらも穿つ致死の一撃が猛烈な爆風と共に放たれた。
飛翔する紫電の極光は時を経るごとにどんどん加速していき、音を超え、猛然と龍停戦ごとレギウルスを飲み込んでいった。
他の面々も長に続き、次々と射撃を加える。
やがて――龍艇船が甲高い音をあげ、崩壊した。
それに巻き込まれ無傷、ということは流石にないのだろう。
「……やりましたか」
「――――」
側近が頬を固くしながらそう問いかけてくる。
正直言ってレギウルスの生死はレアストにすら判断できなかった。
レギウルスは正真正銘の化け物。
そんな彼に常識が通用するとは、到底思えなかった。
だが、それでも攻撃が通じないわけではない。
掠り傷程度ではあるが、きちんとレギウルスにダメージは蓄積しているのだ。
つまり、絶対的な理不尽ではない。
そして先刻放たれたあの猛攻。
生きているかもしれないし、圧殺されているのかもしれない。
レアストは緊張した顔つきでひたすら天樹から上空を見下ろす。
刹那――爆風が、一瞬で吹き飛ばされた。
「なっ……」
「嘘だぁ……!」
正確には、爆風が爆風を吹き飛ばしたのだ。
新たに発生した爆風が収まり、雲一つない上空に一つの人影が居た。
黒い髪に黒瞳の大男。
天樹ごしにでも、その表情がなぜか否応なしに理解できてしまった。
――笑みだ。
獣の、否、狩人の微笑み。
それを認識した瞬間、レアストは自分の足が震えていることに今更気が付いた。
他の面々も同様。
誰も彼もが人の領分を外れた化け物を畏怖する。
そして化け物――レギウルスは凄惨な笑みを浮かべ、一言。
「――殺してやる」
幾らレギウルスが化け物であっても、彼は不死者ではなかった。
斬撃を受ければ傷も発生するし苦痛もする。
ただ、その肌があまりに頑丈すぎるだけ、そんな存在だ。
故に現在の状況はレギウルスにとって、十分死の危険がある状況だった。
一歩間違えれば死ぬ。
そう悟り、もはや本能的に状況を打破する戦略を思案する。
(あぁ、魔法が使えたらな)
レギウルスは、初代『英雄』と同じ特異体質である。l
その身に魔力を有さず、ガバルドと違う理由で魔法を扱えない。
魔力回路は健在だ。
単純な話、燃料がゼロに近いのである。
しかし神はレギウルスに魔力の代わりに、『剣聖』ですら羨むような、圧倒的な肉体的な才覚を与えられた。
その肉体に限界などなく、鍛えれば二乗される。
そしてレギウルスはある龍の計らいにより、貧民街出身だった7.
生きるためには、ひたすら強力でなければならない理不尽な世界で。
レギウルスは今に至るまで化け物じみた能力を得るのは当然の話だ。
だがしかし。
たったそれだけが彼の誕生秘話ではない。
――レギウルスの傍らには、常に一人の少女がいた。
鮮やかなパール色の髪をした半龍人。
それがどんなものに代えても守りたい愛おしい存在で。
死んでも、この少女だけは守る。
それは死んだと思われた、幼い正義感だったのかもしれない。
そしてその拙い正義感は、今も健在である。
「――だからこんなかっこ悪ぃ死に方、勘弁しろッ‼」
できることなら彼女の傍らで老衰で死に絶えるのが理想だ。
そんなくだらない妄想を、かっ飛ばしながら、全身全霊の力を込めた二刃が、龍艇船に食い込んだ。
不思議だ。
体中の隅々にまで力が漲り、かつてないほど絶好調である。
「うぉぉぉおおおおおおッ‼」
双剣の鋭利な刃が龍艇船を砕き、破砕し、そして崩壊させていく。
もっと、もっとだ。
流石にこの大質量をぶつけられては幾らレギウルスとはいえ死んでしまう。
ならば細かく刻み、その質量を減らせばいいだけのこと。
「――――‼」
幸い、双剣という武器は圧倒的な手数を必要とするタイミングにおいて、最高を働きをしてくれる。
何度も何度も、執拗に念入りに龍艇船を切り刻み――やがて、崩壊した。
「よし、これで――」
レギウルスが天樹の頂上を見上げた直後――その視界を極光が覆った。
「おいおい、幾ら何でも鬼畜すぎるだろ……!」
そう苦笑しながら、レギウルスは懐から十メートルほどはある鎖に繋がれた小さな鎌を取り出した。
レギウルスはそれを大きく振りかぶり、落下する破片へ引っ掛け、そして跳躍しながら極光の射線か逃れていく。
「――さて、芸も出し尽くしたか?」
レギウルスは凄惨を笑みを浮かべ、そして鎖鎌を駆使しながら猛烈な勢いで天樹へと向かっていった。




