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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
一章・「赫炎の魔女」
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影に支配された世界


 今更エヴァに興味を持ちましたが、あれを作った監督のイカた逸話にドン引きしました。

 天才には変人が多いって、本当なんだなぁとしみじみに理解させられました。 













 残る推定タイムはおよそ三分。

 だが、当然それあくまで月彦の空虚な妄想。

 それが事実だという証拠は、どこにもないのだ。

 

(だから、殺す気でやる!)


 そもそも、全力でやって防戦一方の相手だ。

 殺意程度、込めることができないのなら彼に勝利はないのだろう。

 究極的に言ってしまえば圧倒的な実力差さえあれば、ほとんどの勝負において勝利が確定するのは自明の理。


 だが、それが逆転することだってある。


 小心者には小心者なりの戦い方があるのだ。

 月彦は自分の憧れの言葉を思い出す。


『戦い方っていうのは、一つじゃない。 本当ならめっちゃ実力差がある奴も、工夫さえすれば案外簡単に倒せるぞ?』


「――そう簡単にいったらいいんですけどね」


「――バ せ ロ」


 どこか飄々とした呟きと共に、爆炎が視界を埋める。


(工夫、ですか)


 最も効率的に時間を稼ぐには、どうすればいいか。

 考え、捻りだし、懊悩し、辿り着く。

 人は極限状態だと案外頭の回転が速くなるものだと、関心する月彦。

 

 そして――、


「行きますよ、相棒」


「――――ッッ‼」


 再び一体化し、共有される意識。

 獣特有の第六感を感じながら月彦は目の前で迫りくる影を睥睨し――術を展開した。


「結構魔力食うんで、やりたくはなかったんですけど、しょうがないですよね。 ――〈暗黒世界〉」


 刹那、世界が暗闇包まれる。

















 暗い。

 それ以外の表現方法が見つからないような、そんな世界が展開された。

 その圧倒的な暗闇は炎の光すらも隠し、遮る。

 しかしどういうわけか仮面は一切慌てることなく、ただ大鎌を構えていた。


 どうやら軽率に行動するような愚物ではなかったらしい。

 知っているが。

 気配を探る。

 微かな空気の振動、微弱な足音、呼吸音……


 「音」という概念全てを知り尽くし、なおもまだ足りぬとばか貪欲に集中し、いつ襲撃があってもいいように備える。

 そして――暗から影が飛び出た。


「――〈鎌鼬〉」


「――――」


 現れたのは影により構成された獅子型の物質だ。

 ギルディウスの魔力により傀儡となった影獅子は、猛烈な勢いで、されど音は一切遮断し仮面へ襲い掛かる。

 だがしかし――一閃。


「チッ」


「――――」


 微かな舌打ちと共に、影獅子が断面を晒しながら灰となったのが分かった。

 その事実に歯噛みしながらも、月彦は次撃に移る。


 ――今度は、二体同時。

 

 仮面によってその表情が識別できない推定魔人族は、赤黒いオーラを乱舞させながら悠々と大鎌を振るう。

 大鎌によって描かれた軌跡に重なってしまった影獅子は、最初の影獅子と同様真っ二つとなり消え去る。

 

 だが、これはあくまで前哨戦である。

 それは次の瞬間証明された。


 更に、もう四体。

 地面や天井から次々と幾つもの影獅子が飛び出て、忌々しき仮面の侵入者の寝首を搔こうと、猛然と突進する。


 しかしその程度の脅威、今の仮面にとって何の痛痒にもならない。


「――〈断嵐〉」


「くっ……」


 大鎌が荒れ狂い、その度に幾度も幾度も、何度も何度も執拗に切り刻まれる影獅子たち。

 結局影獅子が仮面に与えられるダメージは1も無かった。

 だが――警戒と、それにより生じる油断を得ることができた。

 それこそ、わざわざ残る魔獣全てを犠牲にした甲斐があるだろう。


「――行くぞ」


「――――ッッ」

 

 咆哮が暗闇の世界に轟く。


 それを聞き、微かに仮面の表情が硬くなる。

 そして悠然と大鎌を構え、決着の時を待ち続ける。

 次の瞬間、暗闇に閉ざされた世界を影が乱舞し、獅子の王が駆け上がる。


「――〈鎌鼬〉ッ‼」


 間違いない、今度こそ本物だ。

 そう確信し、全身全霊を込めた一閃を仮面は地面にクレーターが出来上がるほどの勢いで踏み込み、繰り出した。

 そして――、


「――チェックメイトです」


「なっ……」

 

 刹那、背後から致命の斬撃が放たれた。

 鋭利なかぎ爪は仮面をローブごと切り裂いて、その柔肌をバターのようになんら抵抗もなく切り裂き、血飛沫が宙を舞った。 

 苦悶の声を上げ、呻く仮面。


「――僕の魔獣に、気配を消すだけじゃなく偽ったりもできる便利な奴がいるんですよ。 やっぱり、感謝ですね」


「――――」


 そう呟くと、月彦は懐から金色のスライムを取り出した。

 ゴールデンスライム。

 討伐すれば莫大な経験値が手に入るが、凄まじい気配操作術で追っての目を巻くことで有名なスライムだ。


 ちなみに、月彦がこのスライムを使役するのに五日掛かった。

 もう二度と御免である。


「さて、そんな些事はどうであれ、その傷じゃぁ貴方もう戦えませんよね? オーラももう消えてるし」


「――――」


 いつのまにやら仮面が纏っていた赤黒いオーラ―は消え去っており、さしずめ手負いの猛獣といったところか。

 もちろん、これがブラフである可能性は否めない。

 警戒はしておくに越したことはないのだろう。


 だが、一つだけ。


「――貴方、どこかで会いました?」


 そう、問いた。




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