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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
一章・「赫炎の魔女」
75/584

『強欲の九尾』


 用事がようやく終わりました。

 次の更新は、するとしたら四時半~五時半までかかると思われます。

 ストックが、無いのだよ












――世界が、氷点下に包まれる。


 何も感じない、何も見えない、何もない。

 極限まで低下した気温が生物の正常な思考を狂わせていく。

 いつしか世界は白銀に包まれ、豊かな大地の生命を温度共に奪い去っていく。


「何故、その力を――」


「とーぴんぐだよ」


 小僧に教わった言葉を披露しながらも、摩擦の少ない氷を、まるでアイススケートのように軽やかに滑り込むガバルド。

 その姿はどこまでも優雅で、洗練されたモノだった。


「そういえば、お前には見せてなかったよな」


「――――‼」


 誰よりもガバルドを理解していると豪語していたのにも関わらず、これだけ大きな変化に気が付けなかったことに悔い、恥じるジューズ。

 苦悶に彩られたその顔を一瞥するガバルドが浮かんだ感情は嫌悪だ。

 この女は、もうどうしようもないくらい狂っている。


 だからこそ、あんなにも無遠慮に愛を囁けるのだろう。


 ならばその愛の安売りに、それ相応の罰を与えるのが己の使命か。

 否、違う。

 ただ自分は、誰かを助けて本当の「声」を聞きたいだけなのだ。


「――あんたの「愛」。 正直、私には理解できない」


「――――」


 氷により構築された白銀の世界を勢いよく滑走し、滑り込む。

 次々と放たれた電撃も、身を傾け易々と回避する。

 もはや、誰も彼を止められなかった。

 遮るものの、遮ることができる者もいない。


 この一瞬、彼は今世界で最も自由である。


「でも、お前のその『強欲』さ。 ――少し、分かる」


「そうか」


 ジューズはガバルドの言葉を静かに許容する。

 その姿は、つい先ほどまで愛の狂気に吞まれていた女性は存在しなく、極めて理知的な美女が立っていた。

 

 あぁ、案外この女も綺麗なんだな。


 そんな失礼な感想と共に、剣が風を切り裂いた。














――声を、聞いた。


「――気持ち悪い」「何故、心が読める?」「一秒だって近くにいたくない」「気色悪い」「存在そのものが汚しい。 消えろ」「お前なんかいても、誰も感謝しねぇよ」「死ね」「あきらめろあきらめろ」「哀れだな」「嬉しい」「ったく、なんだよあのガキ。 往生で蹲って、一体なに考えていやがるんだ?」「ちょっヤダー。 服めっちゃくっちゃボロいんですけどー」「汚い。 汚い。 近寄るな。 匂いが移る」「死ねよ」「お前なんかいたって、誰も喜ばないだろうな」「どうしてお前のような人間がこの世界に存在する?」「見ているだけで、悲しくなる」「死ね」「消えてしまった方が、世界にとって有益だ」「死ね」「消えろ」「腐れ」


――気持ち悪い気持ち悪い!


 吐き出しそうになり、ようやく自分が空っぽだと気が付く。

 もう、嘔吐物すらなかった。l

 世界を汚すきおとすら、叶わないというのか。

 許さない、許したくない。


 でも、何度嘆いたって「声」は聞こえる。

 人は無意識的意識的問わず、常に様々なことを思考している。

 ガバルドの能力はその「声」を聞き取る。

 異能なんて、一万に一の確率の奇跡だ。


 場合によっては、これで一攫千金を狙えるだろう。

 ――でも、魂はまったく喜んでくれなかった。

 どうして、人は泣くことすら咎む?

 どうして神様は、自分にこんな欲しくもない力を与えたの?


 何度も何度も、彼は忌々しき髪を呪った。 

 何故、何故。

 理由を求め、ありとあらゆる場所を彷徨い、その度に「声」に苛まれる。

 ――地獄。


 誇張でも比喩でもなく、ガバルドにとってこの世界は地獄でしかなかったのだ。


 もう疲れた。

 そろそろこの手で、くだらい生に終止符を打ってもいい時期なのではないのか。

 そんなことを考えている時のことだった。


『――声が、怖いかい?』


『――――』


 長い獣耳を持った、金髪の少女がそう問う。

 その姿は、年不相応に凛としており、理知的であった。

 だが、ガバルドが愕然としたのはその点ではない。

 ――嘘が、無いのだ。

 

 疑い続けた人生だった。

 その短い十数年間で、彼は一度たりとも嘘をつかない者と出会ったことはない。

 だが、目の前の少女はどうだろうか。

 一語一句先ほど発した言葉と、なんら変わりがないのだ。

 

 これを異常と言わずしてなんと呼ぶ。

 

 叫びだしたかった。

 泣いて喚いて、慰めて欲しかった。

 だが――体が動かない。

 意思に反して、まるで石造にでもなったかのように、体が微動だにしないのだ。


『もしそうなら――一度、人を救ってみるといい。 そしたら、色々と分かるものがあると思うよ』


『――貴方は』


 口が、開いた。

 しかし、予想に反して自分は発声したのは純粋な疑問。

 きっと、魂が求めていたのだろう。

 一瞬少女はきょとんとした顔をし、そしてにやっと、悪戯でもするかのように笑った。


『名乗るほどの名前は、持ち合わせてはいないよ』


『――――』


『でも、今回は特別だ。 私の通り名を教えてあげよう。 あ、そういえばこの世界では広がっていなかったんだっけ。 まぁ、いいか』


 少女の言葉を意味は分からなったが、容認されたことは理解できた。

 そして――、


『――強欲の九尾。 憤怒の鬼神には劣るけど、結構語感がいい通り名でしょ?』


 きっと、彼女のしたり顔は、生涯忘れることはないだろう。



 

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