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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
一章・「赫炎の魔女」
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笑えないのなら笑わなくていい


 地味に昨日の更新時間間違えたし









 


 ただ、影と炎熱が暗闇を支配する。


「――――ッッ‼」


「モ エ ロ」


「ギルディウス、少し下がってください! 深追いは厳禁ですよっ!」


 咆哮と、掠れるような声、怒号が響き渡る。


 師子王――ギルディウスは背中から展開された影をまるで鞭のようにしなられ、不埒者へとぶつける。

 だが、仮面はまるで羽のような身軽さでそれを容易く回避。

 その事実に歯噛みしながらも、月彦はより深く戦局を分析する。


(実力的には……ややギルディウスの方が上か)


 ギルディウスは腐ってもレイド級モンスター。

 その実力をたった一人で上回るなんて、考えてみれば到底不可能、それこそ神などでなければ不可能だろう。

 しかし、現実はそう簡単ではない。


「――――ッッ!」


「――ジャ マ」


「クソッ」


 砲弾のように放たれた影を仮面一振りで弾き返す。

 その瞬間、大蛇で引き寄せ隙を作ろうとするがそれすら失敗。

 ――強い。

 純粋な実力ではなく、技術が。


 確かに、仮面とギルディウスの力量は比べるまでもない。

 だが、それが戦局に絶対的な有利をもたらすかと言われれば、首を傾げざるをえないだろうというのが現実だ。


「――〈鎌鼬〉」


「ギルディウス、避けてっ!」


 刹那、禍々しい魔力が仮面の大鎌を包み込む。

 直感的に、これは喰らってはいけないと判断した月彦は、すぐさまギルディウスを引き下がらせようとする。

 だが――、


「オ ソ イ」


「――――ッッ!?」


 まるで幽鬼の類のような胡乱な姿勢で接近し――次の瞬間、先刻とうって変わってジェット機もかくやという速度で加速する。

 師子王は急激な速度の変化に追いつけずに大鎌の餌食となってしまった。4

 

 ――技術の問題だ。


 そもそもの話、ギルディウスはただ本能に従う野獣の類。

 その知能は考え、行動する人とはくらべものにならない。

 故に――ギルディウスに足りないのは冷静な判断力と、技術。

 それが補われないかぎり、ギルディウスは永遠と仮面に翻弄され続けるだろう。


 そうならないための月彦だ。


 本来なら、月彦が的確な指示を飛ばし、ギルディウスには足りない点をなんとか補うはずであった。

 しかし、ギルディウスはあくまで傀儡。

 その意思は今も魔法によって封じられおり、簡単な命令しか遂行できないのだ。


 結論は至極当然。

 つまり――月彦と師子王に、勝ち目はない。


「はぁ。 ――できることなら、使いたくはなかったんですがね」


 その事実を認識し、なおも月彦と戦意を喪失させない。

 詰みの状況がなんだ。

 今まで挑んだ数多のレイド。

 アレに比べたら、今の状況は数千倍マシである。


『――弱い奴ほど、敵は油断しやすいんだよ』


 それは誰の言葉だったか。

 分からない。

 だが――魂がそれを憶えている。

 ならば――、


「――弱者には、弱者なりの戦い方があるんですよ」


 そう呟き、彼は告げる。

 このくだらない不条理から離脱する、と。


「術式改変――【百花繚乱】ッッ‼」


 














――何時から、本心から笑えなくなったのだろう


 自分が、他とは違うと知った。

 故に、自分を隠し、そして上面だけを取り繕い、愛そう笑いを振りまく。

 楽しくなんかない。

 ただ、そうしなければ自分は独りになる。


 それだけは、それだけは許容できなかった。

 そんな未来を拝まないで済むのなら、どのような困難を乗り越えよう。

 ――そう、誓っていたはずだ。


 でも、どうしてだろう。

 誰かと馬鹿のように笑っているとふと、その疑問が飽和する。

 

――自分とは、一体何なのだろう


 だが、それも一瞬のこと。

 直ぐに「どうでもいい」と、考えることを放棄していた。

 これが最善、これでいいのだ。

 自分はこの結末に納得し、許容してる。


 ――でも、どうして心から笑えないんだろう。


 分からない、分かりたくない。

 そうして悶々とした心中で、環境が移り変わっていった。 

 そして――彼と出会ったのだ。


『――そんな暗い顔してると、幸が逃げちまうぞ?』


 その一言に、何の悪意も無かった。

 ただ、まるで物理法則のように胸の中に抱いた疑問を問いただけ。 

 だからこそ――その一言が魂に轟いたのは。


 それからの日々は余りに劇的だった。

 破天荒なその人は、なんら躊躇なく後輩である月彦をいらんトラブルに巻き込み、その度に胃が痛くなる。

 どうしようもないくらい、くだらな日々だった。


 でも、いつの間にか本心から段々笑えるようになってきたのだ。


 だからこそ――彼はあの青年の背中を今でも追い続けている。


「――術式改変・【百花繚乱】ッ‼」


「――――」


 不意に、蠢く影がぴたりと止んだ。

 その異変に、怪訝そうにする仮面の直感は大当たりだろう。

 ――なんせこれは、嵐の前の静けさなのだから。


「行くぞ――ギルディウス」


「――――ッッ」


 咆哮は、無い。

 必要ないのだ。

 魂どうしが結びつきあい、相棒の微かな動きすらも手に取るように理解できた。

 


「さぁ――嵐を見せましょう」




 

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