それぞれの対峙
まふまふさんが、東京公演!?
取りあえず、永久保存は任された。
同刻。
「――さて。 レギの足りない分を補うために、今日も頑張るのだ」
「……何の用だって質問はちィとばかり無粋かッ」
「――――」
安吾は獣のような凄まじい形相で宙を羽ばたく少女を睥睨する。
並みの子供では震え上がり泣き叫ぶそうな威圧を真正面から喰らっても、少女は何食わぬ顔で翼を動かした。
そして少女は、せめてもの礼儀として告げる。
「――降伏するのなら、殺しはしないのだ」
「ハッ! そうかい」
安吾は少女の戯言を鼻で笑い飛ばす。
「……不服なのだ?」
「自分の胸に聞いてみやがれよォ」
安吾はガバルドに支給されたブーツに微弱な魔力を込め、空中に魔力によって形成した足場を作りし、いつ何があっても対応できるように構える。
その様子に少女はすっと目を細める。
「戦う気なのだな」
「当然だろォ。 お前らにはちょっとばかりィ、借りがあるんでな」
「――――」
そして、安吾の双眸に堪え切れない殺意が溢れかえる。
それを一瞥し、少女は、この少年が何をそんなに憤激しているのか、直感的に察することができた。
その感情は、人族にも、魔人族にも共通した激情だ。
故に、少女もその感情に覚えがある。
一瞬同類のように感じ――直ぐにその感情を捨て去った。
戦場に、迷いは要らない。
少女は頭の片隅で今も激戦を繰り広げているであろうレギウルスを思い浮かべた。
――無造作で無秩序、無作為で無鉄砲な、そんな戦い方だった。
雑念など一切存在しない。
ただ、戦いの快楽を心の奥底から望み、そして獣のような無鉄砲さであまりに強引に勝利を掴み取るその姿を。
そうだ。
その愚かな姿こそ、血塗られたこの戦場に相応しい。
求めるのはたった一つ、勝利だ。
それを自覚した途端、程よい緊張感が少女を包み込む。
今や、体の隅々にまで魔力が行き渡り、思考がかつてないほど洗練され、クリアになっていく。
「――おい、ガキ。 名は」
「――メイル。 どこにでもいる、ただのメイルなのだ」
それを聞き、安吾は薄く笑った。
一瞬、その顔がレギウルスとダブって見えたのは気のせいか。
もしくは――、
「さァ、始めるとするか。 ――死んでも詫びても泣いても、叩き潰す」
「――来い、なのだ」
そして踏み込みの勢いで猛烈な勢いで足場が破砕し、安吾は凄まじい速度でメイルへと襲い掛かった。
「――――」
薄暗い。
ただその空間を尽きることのない暗闇が支配し、そこに立っているだけでも心にまで暗闇が侵食しそうだ。
そんな暗闇をスタスタ歩く影が。
「――――」
仮面によって顔が隠されており、男か女かすらもハッキリとしない。
仮面はその身に薄汚いローブを纏ていて、これにより露出は完璧にゼロである。
その背中には禍々しい鬼気を放つ大鎌があった。
仮面の背後には音もせず数十名のローブを纏った男女が黙々と追随している。
この暗闇を一言で表すならば、「取引所」だろう。
言うまでもなく王国は今現在食料自給率が致命的に不足しており、それは戦争が激化するにつれて下がる一方。
故に王国は、輸入に生命を預けることにしたのだ。
そしてその輸入相手が、亜人国である。
その事実は今や王国では自明の理となりつつある。
故に、当然それを魔人族たちが知らないわけはないだろう。
その取引現場を襲えば、王国の民は皆飢餓で苦しむのだ。
故に用意したのがこの暗闇――否、トンネルだ。
このトンネルの入り口はかの〈老竜〉が封印されたかの山の周辺に設置された小屋だったのである。
そして、それを知るのは亜人国王国問わず極一部の重鎮のみ。
つまり、この通路が襲撃される可能性はゼロに近いのだ。
――しかし、限りなく0に近いだけであり、確定した0ではない。
なんせ、この情報を知るものが他者、それこそ魔人族に告げないとは限らないのだ。
情報を二人に共有されればそれはやがて自明の理へと変貌する。
この通路の終着点は、必ず亜人国だ。
あくまで空中戦を行っている連中は陽動。
本命は、今も虎視眈々と出口を探し彷徨うこの仮面たちだったのだ。
「――だから、僕が派遣されたわけですよ」
「――――」
だが、突如としてそんな声が響く。
「――――ッ!」
仮面の背後を追随していた部下たちは、一斉に戦闘隊形へとなる。
仮面自身もゆっくりと背中に背負った大鎌を取り出し、構える。
「まぁまぁ。 そんなに過剰反応しないでくださいよ」
「――――」
「チッ。 交渉は失敗ですか」
「おい、そこのガキ! 死にたくないなら投降せよ! 出口まで誘導すれば、それなりにもてなしてやるぞ!」
「僕がそれをイエスと言うとでも?」
恫喝する部下を少年――月彦は嘲笑する。
あぁ、本当に滑稽だ。
「――まさか、今更お預けとかはないでしょうね?」
「落ち着け、ガキ。 そんなに国が大事か?」
稚拙な交渉を鼻で笑った月彦に、なおも交渉を続けようとする。
「――ギルディウス」
「――――ッッ‼」
刹那、暗闇を魔法人が照らす。
次の瞬間、凄まじい爆風と共に魔法陣から鬣を逆立てた、圧倒的な威厳を無遠慮に放つ獅子の王者が現れる。
それこそが、最も明解な意思表示であった。
「愚か者めがッ」
「さて――穢せ、ギルディウス」
刹那、暗闇すら飲み込む暗黒が通路を支配した。




