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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
一章・「赫炎の魔女」
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――『傲慢』、参上!


 怪盗の自己紹介みたいな台詞ですね












 その男は、隕石のような速度へ大気圏内へと投げ出された。


 重力と引力によって猛烈な勢いで落下する『傲慢』――レギウルス。

 その額に張り付いている表情は笑みだ。

 

「――ま、こんまま落下すると幾ら俺でもミンチになっちまうからな」


 レギウルスは懐からネックレスを取り出す。

 これはレギウルスのような特異体質でも起動できるようの細工が施されたアーティファクトである。

 そして――虚空に透明な足場が生れ落ちる。


(足場を視認できねぇのが唯一の欠点だよなこれ)

 

 レギウルスはたんっ、と独特の動きで衝突の際に発生するはずだった衝撃を殺し、軽やかに着地する。

 

「さて――どんな奴がいる?」

 

 そして、レギウルスは一つの光となった。


 周囲に、適当に透明な足場を生成し、ほとんど勘で粗だらけの橋を視認できない速度で渡っていく。

 前へ、前へ、前へと進むレギウルスを阻むものは誰一人として存在しない。


 今、自分は自由だ。

 権力も、政治も、その一切合切を投げ捨てて踊り舞う。

 これだから戦いを止めることはできない。

 刹那――凄まじい勢いでレギウルスへと紫電の矢が降り注いだ。


「――――ッ」


 レギウルスはそれを本能のままに躱す。

 が――、


「チッ、追尾式かッ!」


 背後に強烈な殺気が。

 レギウルスは、予想外の事態に瞠目しながらも、呼吸の暇を残して、紙一重で再度弓矢を回避する。


(おそらく、先端に衝撃が発生することによって解除される。 このまま逃げ続けても不毛、か。 まぁ、どちらにせよ性に合わんがな)


 回避は無意味。

 ならば――答えは単純明快。

 レギウルスの足りない脳でもその回答に十分辿り着くことができる。


 レギウルスはメィリから預かった魔道具箱の蓋を開き、己の獲物を取り寄せる。

 彼が取り出したのは左右対称の鋭利な双剣。

 その刀身は血のように紅蓮に染まっており、とてもじゃないが趣味がいいとは思えない。

 そしてレギウルスは、有り余る筋力を無駄なく酷使し、その双剣を一斉に振るう。


「――オラァアアアアアア‼」


 流儀も、優雅さの欠片もない無骨な一閃だった。


 しかし――機能美という点については何の文句もない。

 ただ、己が生き残ることだけに特化した一撃。

 その一閃は余りに呆気なく、それこそ豆腐でも斬るかのように何の抵抗もなく紫電の矢を真っ二つに切り裂く。


「――――ッ」


 荒い息を吐きながら、レギウルスはちらりと先刻切り裂いた矢を一瞥する。


(消えたな……)


 レギウルスが真っ二つにした矢は、力を失いやがて灰となって宙を舞う。

 おそらく、魔力によって構築された矢なのだろう。

 しかし、それは残弾が幾らでも有ることを示していた。

 相手の魔術をなんとなく理解した刹那。


「――そうこなくっちゃな!」


 

 猛然と飛びかかるレギウルスへ、幾百もの矢がぶっ飛んで来た。




















「――――」


 静かだ。


 心の声はけたましく「逃げろ」と騒いでいるのに、それなのに体は死んだのかと思えるほど冷めていて、思考は妙にクリアだった。

 そして、レギウルスは選ぶ。

 逃亡ではなく――迎撃を。


 この弾幕に飛び込んで生きていられる方法は唯一無二。

 全ての追尾式の矢を捌く。

 そもそも逃げるにしてもあの矢は追尾式なのだ。

 逃亡は無駄に体力を浪費するだけであるだろう。


 道はたった一つ。

 あぁ――これだから戦いは止められない。


「ハァアアアアアアアアッッ‼」


 獣の如き咆哮をあげ、猛然とレギウルスは弾幕へと突き進む。

 刹那――視界が消えた。

 溢れかえる矢の大群は浮遊するだけで正常な感覚を狂わる。

 故にレギウルスは――そっと、瞑目する。


 その姿は目の前に『死』が列をなして並んでいる姿を見た人のものではなかった。

 

 聞こえる。

 何もかも。

 空気が切り裂かれた微かな音、自分の両足が奏でる透明な足場と衝突した際に生じた音、揺らめく矢が降り注ぐ音。


 ありとあらゆる音が満ち溢れていた。

 それでもレギウルスは迷いを見せない。

 知っているのだ。

 どれが不用意な音か、どれが必然的な音か。


 そして音と音との挟間の「正解」を導き出す。

 刹那――一瞬にして数百ものの斬撃が振るわれた。

 無造作に、無遠慮に、無作為に、振るわれた双剣は自由自在に踊り狂い、今まさにレギウルスへと迫る致命の一撃を否定する。


「――――」


 そして、数秒後。 

 一切音をたてることなく、無残になった数多の矢が、粒子となって空の彼方へと消え去っていった。

 

「あー。 しんどっ」


 そう気だるげに呟いた直後――極光が空を覆いつくした。


「――――ッッ‼」


 極光は猛烈な勢いでレギウルスへと迫り、道中あった雲を根こそぎ奪いつくして、また更にレギウルスの命を灯火を吹き消そうとする。

 直感で分かった。

 これを真面に喰らえば確実に死ぬと。


 先刻の弓矢が思わずお遊戯に思えてしまうかのような絶大な矢だ。

 それを見据え――レギウルスは舌なめずりをする。


「――久々に骨がある敵だなッ」


 そして――一陣の風となり出撃する。

 

 

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