断頭台から飛び降りて
サブタイトル、あんま本編とは関係ないです。
あのフレーズは個人的にお気に入りです。
時刻はおよそ十六時。
ガバルドとレアストによるちょっとした微調整も終わり、現在は侵攻を警戒しながら顔合わせ、というのが現状だ。
俺が配属されるのは当然空中戦だ。
構築魔術で頑張れば足場は作れるという理由と、その戦闘力から抜擢されたというのが主な経緯である。
システム組はいいよなー。
なんせ息をするようにシステムアシストによって空中に足場を作れるんだから。
俺はまだ集中していないと無理だわ。
幹のその巨大さ故に、想定される戦いは空中戦となる。
この幹は天然の砦。
しかも、レアストのように強力な射撃が可能なエルフ連中にとってこの大樹は盾であり同時に矛の役割を果たしていた。
だからこそ、敵の狙いは自然この大樹へと集中するはず。
んなわけで俺の役割は大樹を堕とそうとする魔人族の迎撃。
ちなみに、月彦の配属は別だ。
「よォ、調子は?」
「残念なことに、自分が信じられなくなるほど良い……! 俺ってやっぱ神なのかな?」
「もっと謙虚に生きろよ」
だが断る!
余談だが、殴るしか能がない安吾も俺と同じ所属だ。
アレ……?
迎撃部隊に配属されたってことは……俺、もしかして戦いしか能がない?
いいや、絶対に違う!
俺は隣の猿なんかよりよっぽどマシだ!
……(´・ω・`)。
「……何だよ、その気色悪ィ顔は」
「ちょっとね……やっぱ、人生って虚しいよねってことに気が付いただけだ」
「意外と思いッ」
安心しろ、この懸念の究極的な原因は貴様だ。
まぁ、少なくとも安吾よりかはぁ、頭脳明晰であるという確固たる自信がある。
いや、比べるのさえおこがましいね。
「強く生きろ、安吾」
「今なんか無性にテメェを殴りたくなったんだが、殴っていいか?」
「取り合えず、その事後報告スタイルは止めようか。 暴力系ヒロインは嫌われちゃうぞ? ただえさえ、最近そんなヤツが流行ってるのに……」
「何の話だよ」
「お前には永遠に縁がない話だよ」
まずは文字が読めるようになってから話そうか。
そんな俺を、安吾は目を細めて珍しく静かな雰囲気で呟いた。
「――なァ、これ、どっちが正しいんだよ」
「……どういう意味だ?
「この戦争のことだ。 聞くと、キッカケはほとんどないんだろ? それに、食料なら共存でもすればよかったじゃねぇかよ」
まぁ……日本人ならその発想にもなるわな。
なんせ、本物の戦乱を見たことのないのだ。
戦争なんていう概念がなくなったからこそ、その疑問に辿り着く。
「――正義なんてないさ。 戦争なんて、所詮は正しさの押し付け合いだ。 勝者には我を通す権利を、敗者にはその剝奪を」
「――――」
「それに、もう手遅れだ。 この戦争が数年ぽっちならまだ話は変わってくるが、生憎魔人族との戦乱は数百年間にも及んだ。 もはや遺伝子情報にすらその嫌悪が刻まれる頃。 もう――衝突は避けられない」
「でも……」
「それが嫌なら――抗え。 それでしか、変えることができない」
「そうか――」
神妙な顔で安吾が頷く。
正直、俺は今現在目玉が飛び出るほど驚愕しつつある。
なんせ、あの猿……もとい、安吾がこんなにもシリアスな空気を作り出しているのだ。
それこそ、偽物と言われれば信じ込んでしまいそう。
確かに、倫理的な面では正論。
だが、戦場においてその綺麗ごとは日銭にすらなりやしない。
だからこそ、安吾は悔やんでいるのだろう。
この世界は、嫌にリアルだ。
心も、魂も、血も、愛情も、死も。
何もかもが現実とほとんど変わっていなかった。
唯一の変更点はこのシステム。
だが、それを取り除けば、この世界は十分地球になり得る。
この世界がリアルに感じてしまうのはそのせい。
これがもっとそこらのファンタジーのように美しくできていたら、まだ話は違った。
だが、この世界では、人の命はあまりに呆気なく散るし、汚い横暴だって日常茶飯事だ。
――故に、安吾は抗いたかったのかもしれない。
それ以降、会話は無かった。
「――おっせぇな。 もうちょっと速度出せよ」
「これ以上速くしたらレギ以外全員吹き飛ぶのだ」
「ほう、それはそれで良い余興だな」
「はぁ、なのだ」
竜が空を舞い、侵略者たちを戦場へと送り届ける。
今や竜の速度は、光を超えており、忙しなく動く二つの羽が猛烈な勢いで雲を真っ二つに切り裂く。
そして――、
「ほぅ。 アレが『天樹』か。 派手で良いな」
レギウルスがいうように、地平線の彼方に一本の大樹が見えてきた。
「気を付けるのだ。 一応竜船にはステルスを張っているが、敵の索敵がそれを上回らないとは限らない。 慎重に……」
と、忠告するメィリは、嫌な予感を覚える。
これは彼の横暴に付き合い続けている間に、不本意だが発達してしまったいわば警報器のようなモノである。
それがけたましく警鐘を鳴らす。
(あ、絶対暴走するな)
そう察していながらも――どこか高揚するメィリもいた。
亜人らは非力な人族とは違い、かなり強力だと聞いた。
それならばレギウルスの満たされない渇望の足しにはなるのではないか。
普通に常識人にはできない発想である。
そして――、
「はぁ。 仕方がないのだ。 ――レギ、存分に暴れるのだ」
「言われなくともなッ!」
薄く笑みを浮かべた『傲慢』は、猛烈な勢いで竜船から飛び降りた――




