功守交代
安吾さんの名前の由来は某丸眼鏡文豪真面目系キャラです。 そうです、奴です
安吾とやらが二連撃を繰り出す。
回避は……間合い、そして安吾の速度からして厳しいか。
なら、被害は最小限に。
「オラァ‼」
「よいっと」
隕石のように重い安吾の拳が掌ごしに伝わってくる。
しかも今の拳、内部に響く。
意識的にやってるのかは知らんが、インパクトの直前拳を中心に魔力が拡散、そして振動して伝わってきやがる。
おかげでさっきの一撃で骨はバキバキさ。
こりゃあ月彦があそこまで泣くわけだ。
しかも魔力を意識的に動かしていないからか、動きがかなり読みづらい。
(……黒帯か?)
俺も何度か黒帯の野郎と戦わされたことはある。
そして安吾のこの動き。
……似ているな。
そこらの剣術のように、華美さは一切なく無骨な動きだ。
だが、故に合理的でもある。
動きも最小限かつ最大限の威力を発揮だせるように工夫されているな。
おそらく、リアルでもなんらかの武道を経験しているのだろう。
俺は基本的に剣術オンリーだからな……
多少は教わったとはいえ、それでも本職の奴にはどうしても劣ってしまう。
パワーは、魔力により強化された俺の方が上回ている。
だが、技術では明らかに向こうに軍配が上がるな。
「どうしたどうしたどうしたどうしたどうしたッ!? もっと来いよォ!」
「――――ッ」
安吾がまるで四足歩行獣のように低い姿勢を取る。
それこそ地面に這いつくばるように。
うわっ、これは厄介……!
基本、剣術では下は見ない。
そんなことしたってほとんど無意味だもんな。
まぁ、偶に足を引っかけやがる泥沼戦法を使う奴もいやがるがな。
だが、それもあくまで少数派。
ほとんど全員が最も斬撃を見切りやすい中段へと視線を固定するだろう。
だからこそ、このような奇襲に慣れていない。
安吾は片腕を支点にし、まるで台風のように風を切りながら回転する。
ヤバイ、間に合わん!
「ぐっ……!」
「おいおい、こんなもんかァ!?」
重心が崩れ、隙だらけの俺の体へ安吾は再び強烈な連撃を浴びせる。
不味い、このままじゃタコ殴りだ。
俺はすぐさま離脱し、一旦呼吸を整える。
幸い安吾も、特に深追いすることなく、ただメラメラと燃え滾るような眼差しで俺を睥睨している。
「……案外、やるな」
「そう思うんならァ、さっさとその鉄棒を使えよォ」
「……やっぱりバレてるか」
俺は先ほどまでの攻守の中で、魔術を使うどころか一度も腰にぶら下げられた剣すらも抜いていない。
その理由は主に二つ。
相手は野生人とはいえ一応は味方だ。
そんな味方を殺すと、これから不味いことにならないか、というちょっとした懸念故に中々抜けないのだ。
もう一つは、ちょっとしたスポーツマンシップだ。
魔術なんて、使おうと思えば幾らでも使える。
それこそ神獣の魔術なんて使えば、瞬く間に安吾を倒すことができるだろう。
だが、それでは退屈すぎやしないか?
一体そんな勝ちゲーになんの意味がある?
どうせなら、もっとスリルを味わいたいだろ。
「ま、そんなわけで今は両手で楽しもうぜ」
「どういう意味だよォ」
困惑しながらも、再び俺へ特攻する安吾。
毎度のことながら本当に凄まじい速度だ。
並の〈プレイヤー〉なら何が起きたのさえ理解できないだろう。
だが、
「搦め技を使うのが自分だけとは思うなよ?」
「――――ッ!」
俺は軽く、ではなく真正面から安吾の思い一撃を受けとめ――弾く。
「なっ……」
「オラッ! お返しじゃあ!」
重心が狂った安吾へ先程の礼とばかり俺は奴の足首へと強烈な蹴りを放つ。
バランスが崩れたため、それを回避することができずに転倒する安吾。
そして俺は無法備となった安吾の顔面へ全身全霊の魔力を込め、殴打を繰り出す――!
「ふんっ!」
「おいおい……お前本当に人間か?」
だが信じ難いことに安吾はインパクトの直前、自身へと殴打を放ち、その圧倒的な衝撃でなんとか紙一重で俺の拳を回避する。
確かに、パワーは俺の方が安吾よりも高い。
にしてもその避け方はとてもじゃないが人の発想とは思えんな。
流石野生人。
俺たちにできないことを平然とやってのける。
だが憧れないし逆に呆れるわ。
「オラオラ! ガラ空きだぞ!」
「ワザとやってんだよ熱血漢」
拳が空振り、勢い余って再びバランスが崩れる。
もちろん、その決定的な隙を安吾が見逃す筈がなく、目が覚めるような強烈な一撃を俺へと繰り出した。
だが――、
「――ッオラ!」
「なっ……合気!?」
瞬間、安吾の天地がひっくり返った。
こちとら初心者レベルとはいえ合気ぐらいは習得してんだよ!
反撃のチャンスはやはり相手が最も油断しているタイミングだ。
「今度こそ外さん!」
「―――――ッ!!」
「歯を食いしばれ!」
そして、俺の全魔力を込めた一撃が安吾の顔面へと到達した。