エルフのキングは■■
隠す必要無かったのかもしれない
「――さぁて、謝罪は土下座と札束な」
「性根歪んでいやがるぜ」
「ほらっ、そこはもうちょっと穏便に。 誰も被害がでなかったわけですし、ね?」
「ね? じゃないんだよ! アレのせいでむちゃ魔力使ったの! 貰うったら貰うのーーーーーーーー!」
「幼児退行していやがる……」
あの後、ガバルドの宣言通り追撃は無かった。
それからは警戒しながらも特にトラブルなく進み、そしてようやく天樹とやらに辿り着いたのだった。
そして今現在、それをやらかした張本人とご対面というわけだ。
「奪う。 絶対に身ぐるみはがす!」
「それ悪い盗賊のセリフですよ! というか、仮にも王なんだから、もうちょっと敬意をもって接したらどうですか!?」
「はなから敬う気がねぇんだよ」
「五●さんスタイル、止めて貰えません?」
いや、だってさぁ!
俺たち何にもしてないし、ちゃんとガバルドが事前に連絡をしたはずだ。
混乱はない――そのはずだった。
だというのにあの射撃!
アレが大船に直撃すれば、まず間違いなく崩壊するだろう。
しかもしかも、そんな迷惑極まりないことをやっちゃったのがこの亜人国のキングなんですよねこれが!
頭大丈夫か!
こんな物騒な奴が王様で大丈夫なのか!
俺、はちらっとこちらを――気のせいだと思いたいが俺を――ジッと見つめいる美丈夫を一瞥した。
白い、白い肌だ。
当然、その皮膚にシミなど一つもなく、ポニテールスタイルで一つに纏めている金髪と妙にマッチする。
その背丈は俺より顔一個分大きいな。
中でも特徴的なのはその耳だ。
成人男性の耳の面積を遥かに上回る長耳。
その特徴はファンタジーで定番な「エルフ」と一致する。
でも、気のせいだろうか。
俺が知っているエルフは平和を好み、花を愛でる温厚な種族なはずだ。
この男はそのセオリーを真っ向から否定したような存在だった。
まず、目つきが鋭い。
だからこそ顔に味がでるのだが、その瞳はまず間違いなく武人のものだ。
そしてなにより、その身に纏う濃厚な魔力と圧だ。
(ガバルドと、互角程度か……?)
そもそもガバルドは魔力を使わないから正確に比較することは叶わないが、個人的な見解では五分五分といったところか。
それだけの力量を持っているからこそ、王と呼ばれるんだけどな。
(これが……エルフ?)
もしかして某野菜星人が擬態しているのではないのか、という失礼極まりない疑惑が浮上してしまう。
しかも相手には前科まである。
警戒はしておいた方が得策だろう。
「――よぉ、久しぶりだな、レアスト」
「うん、こちらこそ。 また君に会えて嬉しいよガバルド」
「……そうかい」
心なしかガバルドが気持ち悪そうな顔をする。
……俺も、ある二文字が浮かんでしまうのだ。
止めろ、それだけは止めて欲しい。
主人公に発情するのは女だけで十分なんだよ!
と、心の中で叫んでいると、エルフの男――レアストの視線が俺を射抜く。
そして、ぬるりと予備動作なしに俺へと肉薄した。
その様子はまるで、ナメクジの生態家を見てしまった時のような、生理的嫌悪感を誘う光景である。
「やぁ。 君が、さっきの矢を跳ね返したのかい?」
「……それが?」
「んん! いい返答! いやぁ、ボクは君のような尊い存在に出会えて嬉しいよ。 この戦が終わったら、ちょっと個室に来てくれないかい? 二人っきりで」
「ひいいいいいいいいい‼」
なにぃこの人!
怖い、この俺がこんなに恐怖を感じている。
思わず口から何かが噴き出そうになった俺を、ガバルドは哀れなものを見るかのような眼差しで見つめる。
「強く生きろ」
「ガバルド様ぁああ! お助けくださいませ!」
「知らんっ」
俺の懇願はあまりにあっさり切り捨てられてしまった。
ちくしょう!
俺は跳躍し、レアストと物理的にも精神的にも距離をとる。
これ以上近づいてはいけない。
「――さっさと始めるぞ、会議」
呆れたようなガイアスの低音が樹海に響いたのである。
「さて――まずは、現状報告だね」
「さっさと済ませろ」
愛想よく微笑むレアストへ、不愛想にガイアスは本題を催促する。
「安心するといい。 ――今のところ、魔人族たちは攻めてきてない。 そうでなければ君たちがここに入ることもできないし、あんな矢を撃つ時間なんてないよ」
「……信じよう」
「嬉しいね♡」
愛情表現は気のせいだと思うことにしよう。
しっかし、魔人族遅いな。
否……この場合、俺たちが早いのか?
確かに魔人族たちには『竜艇船』の技術はないはず。
それに距離的にもこちらに部がある。
ならばこちらが先回りしていてもおかしくはない、か。
「――軍隊は?」
「安心してぇ。 なんせ、ガイアスきゅんの言葉なんだから、大至急で整えたよ。 ――いつでも、戦える」
「それは行幸だ」
ガバルドの返答にレアストは嬉しそうに薄く微笑む。
そして――、
「それと、内通者についてだが――」




