差し込んだ陽光、あるいはそれは欺瞞の煌めき
薄々察していらっしゃる方も多いのかと思いますが、私は今現在「器用値」の大改稿作業を行っております。
どうして?
ええ……もちろん、沙織さんサイドですよ。
矛盾が、多すぎる!
ただえさえ七章書いている間に改変された設定が多いのに、これ以上の矛盾は流石にヤバすぎますよ。
後、沙織さんの性格がヤバい。
あの可愛らしい沙織さんが、あんな風に……改めて閲覧した時には、思わずPCをへし折りかけました。
その他いろいろ修正箇所多数。
強く生きます。
「失望、しましたよ」
「――――」
その一声が発せられた刹那、華奢な『剣聖』の輪郭は瞬く間に消え失せ、突如として真正面に出現する。
(速い……!)
電光石火が如きその速力に目を見開く。
だが、それでもまだ反応できない速度でもなく、レギウルスはつとめて冷静に迎撃しようと目論む。
だが、それは帝国が誇る『最速』にさえも匹敵する程の速力を保有する『剣聖』相手にとっては、愚策。
故に、その末路は見るまでもない。
「ハァッ!」
「っ!?」
微かな、魔力のうねり。
それを認知した瞬間――天地がひっくり返っていた。
「は?」
かのレギウルス・メイカでさえも反応できぬ程の速度の脚撃を、目下の『剣聖』は繰り出したというのか。
信じがたい。
が、それは避けようのない事実――。
「……?」
違和感。
レギウルスは心なしか羽毛のように軽くなったように思えるその体躯でリーニャを抱えながら、一旦体制を整えるべく、後退し。
「!? 居ねえ!?」
「ようやくですか、兄者」
無機質なその瞳に、どこかつまらなそうな感情を揺らめかせた『剣聖』の掌は――アリシアの頭蓋が握られていた。
「いつの間に……!」
「兄者とて、成長しないままではいられないでしょう。――ですが、それは兄者だけの専売特許じゃないんですよ」
「っ……!」
確かに、完全に慢心していた。
身体能力においてハイトがレギウルスに及ぶことは無く、如何なる奇襲であろうともその手から『紅血刀』を弾くことはできない。
何故、ハイトは刺客に抜擢された?
本来ならば、それは不毛な筈。
だというのに、名高き『剣聖』がこうしてレギウルスの道を阻んでいる時点で、勘づくべきであった。
「兄者――これで、詰みです」
――そもそも、ハイトは正面突破などはなから考えもしなかったことを。
ハイトの左腕は確かにアリシアの頭蓋骨を掌握しており、彼の膂力の塩梅次第では脳髄が容易く飛散してしまうだろう。
「……俺が、この性悪女に頓着すると?」
「そうでないのなら、どうしてわざわざ足手まといを捨てなかったのですか?」
「……気分」
「それが、兄者の言い訳兼遺言ですか」
「ハッ」
強がりの笑みを浮かべるが、弟分たるハイトには、それが虚勢の類だと容易く看破されてしまったのだろう。
ハイトは嘆息し――懐から、一つの鉄塊を取り出した。
「何を……」
「見ててください」
この状況下ではレギウルスの一挙手一投足がアリシアの生存を左右させてしまうので、呼吸さえもはばかれる。
それを利用し――ハイトは、強引にアリシアの口内へ鉄塊を吞みこまれた。
「おい!? お前は一体全体――」
「これは、脅迫ですよ」
「……何?」
怪訝そうに目を見開くレギウルスへ、なおもハイトは声音を投げかける。
「俺に刻まれた魔術はとっくの昔に知っていますね。俺の魔術は『「剣」を操作する』というモノ……。そして、先刻『聖女』殿の体内へ侵入したのは、俺の愛刀の一部分……この意味が分からない程の愚図ではあるまい」
「……クソがっ」
確かに、それを行使するたびに文字通り血反吐を吐いてしまう程の代償がその身を苛んでしまうだろう。
だが、それを差し引いても有り余るほどの効力をハイトの魔術は保有しているのだ。
平たく言ってしまえば、それは金属操作。
金属――『剣』の形状、質量、密度などを自由自在に操作し、武器として振るえる破格の魔術である。
恐ろしきは、その効果範囲。
それこそ、国境線を跨ぐ程の距離差があろうとも、ハイトがそう念じてしまえば容易く悲劇は訪れるのだ。
即ち、もはやこの法国の刀剣の一切は、ハイトの所有物。
仮にここが市町村であるのならば、とっくの昔に詰んでいただろう。
「っ」
そして、アリシアはハイトの手により、強制的に『剣』を取り込んでしまったのだ。
ハイトが念を発信してしまえば、彼女の体内を巡る鉄塊は猛威を振るい、臓腑を滅茶苦茶にするだろう。
そうなってしまえば、幾ら『聖女』とはいえども一巻の終わり。
仮にレギウルスがハイトから『聖女』を奪還したとしても、それでは大して効能を見出すことはできないだろう。
「……大人しく死ねってか?」
「それも一興ですね」
「――――」
考えうる可能性としてはアリシアの安否をたてに怨敵たるレギウルス・メイカが『紅血刀』を捨て去り、そのまま永劫の眠りを許容させようとするような代物であったのだが……あるいは、それは無粋の勘違いか。
ハイトの口調だと、それ以外に意図が存在するとしか思えない。
レギウルスが心底気になってしょうがないのは、推し量れないそれの詳細である。
「じゃあ、どうしろと?」
「近々、俺たち法国はさる男を一戦を交えることになるでしょう。――その際に、兄者はこれ以上ない切り札になる」
「……おいおい、魔人族を滅ぼす心算か?」
法国と魔人国との因縁は周知の事実だ。
あの男云々は知りもしないのだが、まず間違いなくあの偏執的な男の矛先は魔人族へと向けられるだろう。
それだけのことをされたのだから、迷うことなく確信できる。
だが、ハイトの口から漏れ出たのは紛れもない否定。
「いいえ、それは筋違いです。……あくまでも、それはこれを凌いでからのお話です」
「……はあ? その言い方だと、お前ら魔人族へ喧嘩を後々吹っ掛ける気満々のように聞こえるんだが……」
「そう言ってるんですよ」
「――――」
薄々感じていたそれが的を射ていたと知るレギウルスであったが、必然それに能天気に喝采するような余念は、無い。
「数週間前、魔人国で爆破テロがありましたでしょ? ――それを主導したのは、その実法国なんですよ」
「おいおい……嘘だろ?」
「少々先走り過ぎた感もありましたが……本来ならば、意図的に残してあった法国の関与を指し示す証拠品を残留する予定だったんですよね」
「――――」
そもそも、だ。
アリシア――『聖女』なんていう法国の重鎮が、大した口実もなく悪しき魔人族の穢れた大地へ足を踏み入れることができる筈がない。
だが、それでも『聖女』はそこにいた。
例えば、こんな仮説はどうだろうか。――『「聖女」は、テロ行為に勤しむ法国の面々と別行動をとっていた』と。
例えば――『傲慢の英雄』への間諜だとか。
「ですが、彼女……『聖女』は絶妙に残しておいた証拠品の一切を焼却したんですよ。まあ、それが発覚したのはつい先刻ですが」
「……成程な。仮に法国が関与してるって、そう魔人国に知れ渡ってしまえば憎悪の連鎖は必至だろう」
「所詮は下らない口実つくりですよ」
「……行動力が無駄に強い魔人族のことだ。仮に一度憎悪に苛まれちまったら、即座に決起するぞ。俺みたいな短絡的な野郎しかいねえからな。――しかも、生憎今現在俺たちのトップは不在なんだよなあ」
「で、情勢が不安定な、いわば火薬のような彼らに憎悪という烈火を点火してしまえば……もはや、末路は見るまでもないでしょう」
おそらく、魔人国は真っ先に報復行為を実行する。
そうなってしまえば実質的に同盟は崩壊してしまい、新たなる戦乱の時代の幕開けとなってしまうだろう。
ただえさえ『清瀧事変』で物資を損耗しているのだ。
更に、首脳不在。
「……最悪、魔人国は滅んじまう……!」
「今では、邪魔な『聖女』がこの様であるが故に、この好機を無為にしないようにと工作員が破壊活動に勤しんでいる頃合でしょう」
「……悪辣なっ」
「きっと、あの御方にとってそれは誉め言葉でしょう」
「ハッ!」
そう鼻で笑うレギウルスであったが、その内心は絶え間なく流動する情報量に脳内が爆発寸前である。
そんな彼へ、ハイトは乾いた笑みを浮かべた。
「ですが――仮に兄者が俺の提案を呑んでくれれば、きっとあの御方もお考えを修正させるでしょう」
「――――」
今レギウルスが傀儡となれば、あるいは魔人国は破滅の道へ一歩を踏み出さずに済む。
それを理解し――。
「さあ兄者――俺の手を取ってください」
そう、ハイトは微笑さえ浮かべ、手を差し伸べた。
追伸ですが、七章プロローグ改稿しました。
もしかしたら、今日で沙織さんサイド全滅するかもですねw
・10/10、18:30
ようやく、整理が終了しました。
では、いよいよ本格的に沙織さんサイドは削除していきたいと思います。タイトルもあらすじも元々が沙織さんサイド一筋でやりきることが大前提で考案された代物なので、変更になる可能性は大です。
……削除しすぎて運営にブラックリスト認定されそうでコワい




