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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
七章・「約定の大地」
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作戦前夜


そろそろ、レギウルスさんフルボッコタイムも幕引きになりそうです。


 













――遡ること、数刻前。


「――で、どうするんだ?」


「――――」


 レギウルスの問い明けに懐疑的な色合いは皆無であり、アリシアはとっくの昔にそれが浮かび上がっていることを大前提としている。

 この食えない女は、きっとアキラと同じだ。


 レギウルスのような単細胞な男ではない。


 地道に精緻な計略を企て、そして最終的にそれをさも当然とばかりに成功させてしまうような、そんな人種なのだ。


 故に、そもそも思いついているのか、そんな至極当然な自明の理を質問するような無様は晒さない。


 聡明なアリシアはそんなレギウルスの精神は余すことなく把握したようで、嫣然な笑みを浮かべてしまう。


「あら、信頼されたわね」


「腹黒さに関しちゃあ、お前の右にでる奴なんて居ないさ。いや、居るな」


「……釈然としないけど、ちょっと最後の一声が気になるわね。一体、それって誰なのかしらね。よかったら教えてくれないかしら」


「……いつかな」


「えー」


 きっと、口にしてしまえばまた感傷に浸ってしまう。


 それが唾棄すべき蛮行とは断じない。


 だが、時期が時期なのだ。

 敵の懐に潜り込み、そして潜在的な敵対者であるアリシアが如何なる罠を張り巡らしているのか定かではない。


 いつ、何が起こっても可笑しくはないのだ。


 故に、らしくもなく常時神経を研ぎ澄ませる寸法である。


 そんなレギウルスへ、どこか呆れたような眼差しで睨み上げるように上目遣いで見上げた少女は、一つ忠言した。


「張り詰めすぎも、ダメ」


「……随分と注文が雑多だな、オイ」


「中途半端くらいが丁度いいっていうだけ。お前は極端すぎる」


「さいですか」


 だが、確かにリーニャの指摘も的を射ているだろう。


 レギウルス自身、0か100、それらの二択しか選択肢が存在しない単調な思考回路の欠落は自覚している。

 だが、魂レベルの欠如は一朝一夕で完治しないだろう。


 ここは、気長に待つべきか。


 無論、かといって適度な緊張感を保持する努力は普段であるが。


「……話が逸れたな」


「ええ。あんたのせいでね」


「……今日はいつになく気が立っているな」


「そうかしら。だいたい私ってこんな風体だわ。そこら辺、勘違いしないで頂戴」


「へいへい」


 やや釈然としないが、ここは言葉を吞みこもう。


 そう自制心を活用させるレギウルスを一瞥し、アリシアはリーニャへ視線を傾けながら滔々と語った。


















「――『祠』に侵入するにあたって、関門と化す要因は主に三つ。まずは、そのうち一つを解決しようと思うわ」


「……詳細は?」


「千里眼……この面倒な魔術のせいで、『祠』へ悪意を抱き足を踏み入れた者は一切の例外もなく門前払いだわ」


「千里眼……?」


 小首を傾げるレギウルス。


 字面から察するに、数キロ先を見渡せる、あるいは仮に壁で隔たれていようともそれを無視し透視できるような、その手の魔術なのだろうか。


 だが、その推察は数秒後にアリシアの一声により全くの見当はずれであると、そう証明されてしまった。


「ああ、申し訳ないわ。あくまでも千里眼っていうのは肩書で、本質的な魔術は別名よ。――その名は、『審美眼』」


「――――」


「発動条件は、目と目を合わせる。ただそれだけで射抜いたその者の心情、記憶などの全貌を看破されてしまうの」


「……詰んでね?」


 それはなんとも、拷問を縄張りとする者にとって天敵ともいえるような存在であると、そう嘆息してしまう。


 しかも、隠形に長けたアリシアが如何に躍起になり隠蔽したとしても、容易く見抜かれてしまうらしい。

 更に、畳みかけるように憂鬱になってしまう情報がもう一点追加だ。


「……仮に露見してしまえば、その男はすぐさま近衛騎士を呼び出すわ。あの男たち、コールを察知した瞬間『転移』で即座に馳せ参じるから、相当面倒よ」


「……そりゃあ厳重な管理体制だな」


「それだけ『龍』が法国にとって必要不可欠……そういうこと?」


「ええ、正解だわ、リーニャちゃん」


 ちなみに、余談なのだがメイセに関してはこれ以上の面倒事は勘弁と言い残し、そくさと退散していった。


 その実アリシアの『念話』の一声で直ぐに参戦できるように細心の注意を払っていたりもするのだが。

 それをレギウルスが知り得ることは、断じてないだろう。


 閑話休題。


「詳細は把握した。問題は、それを打破する手段だ」


「……即殺こそ最善策」


「ねえ、それって女の子の発想としどうなのかな?」


「聖女(笑)が何を」


 『聖女』の皮を被ったおぞましい生物が遠い目をする光景に頬を引き攣らせるレギウルスへ、鋭い眼光が飛び込んでくる。

 レギウルスは、流れるように目線を逸らした。


「確かに、即刻殺害して――近衛騎士を呼び出すよりも早く息の根を途絶えさせてしまえば、問題は解決しそうだわ」


「……まあ、その口調なら無理だよな」


「ええ。愚策よ」


「――――」


 このあたり、アリシアはバッサリと勇猛に切り込んでいくタイプらしく、自身の献策を「論外」と断じられたリーニャが遠い目をする。

 

 普段ならば慰めでもしただろうが、状況が状況なので、レギウルスはため息を吐くだけにとどまった。


「理由は?」


「学のなってない孤児でさえ思いつくことよ。なら、智謀を司るあの男がそんな自明の理を看破できないワケがない」


「……なんらかの対策は講じているってことか」


「全く以てその通りだわ」


 アリシア曰く、仮にその門番の男の鼓動が断絶してしまえば、それに呼応し近衛騎士も出現するような仕組みになっているらしい。


 それならば、遅かれ早かれ厄介迂遠な近衛騎士が降り立ってしまうので、結局のところ末路に対して差異はないようだ。


「……なら、アリシアだったらどうする?」


「まあまあ。そんな獅子でも卒倒しそうな殺人鬼さながらの眼光をしないでよ、リーニャちゃん」


「!? そんなに怖かった……?」


「常人まら泡吹いてたと思うぞ」


「!?」


 余談なのだが、リーニャもリーニャでアリシアとの稽古で潜在能力を極限にまで磨き上げられている。

 故に、彼女が発する威圧感は常人の比ではないのだ。


 冗談めかしいアリシアとレギウルスの声音も、あながち的外れではない。


 そう理解し、やや落ち込むリーニャであった。


 アリシアはそんなリーニャを視界から除き、片目をつぶる。


「妙案なら存在する……っていうか、行動の早い私よ。もう、対策だなんてとっくの昔に講じているわよ」


「……仕事が早いことこの上ねえな」


 それこそ、その敏腕さを疑問視してしまう程度には。


 アキラにも共通した胡乱な雰囲気に剣呑に目を細めるレギウルスへ、アリシアは肩を竦めた。


「失敬な。前準備、大事だよ?」


「お前の場合、その前準備が相当的確だから怖いんだよなあ……」


「はて。なんのことやら」


 またはぐらかすアリシアへ疑惑の眼差しを向けながらも、レギウルスは渋々次の一声を視線で促した。


「焦らしプレイも一興なんだけど、流石にこの期に及んでそんなことに時間を割いている暇なんてないわね」


「本当だよ」


「はいはい」


 おざなりに返すアリシアは、すっと目を細めながら、さる人物の名を口にした。


「――『妄執の狂王』。この肩書に、覚えがあるんじゃないかしら?」


「……はて、なんのことやら」


「それで隠せた心算だったら、一層可愛らしいわね」


「……生憎、そんな形容詞がお似合いな年齢はとっくの昔に過ぎ去っているし、その当時でも愛嬌の欠片もねえよ」


「知ってるわ」


 断じるアリシアはレギウルスを見据える。


「あの人の魔術は世にも珍しい現実改変系。それに、私はその実あの人と裏で繋がっているのよ。昔、色々あってね……」


「――――」


 何故か、懐古にも似た情念で瞳を揺らめかせるアリシアであったが、その異変も刹那で消え失せ、代わりに浮かんだのは不敵な笑みだ。


「それはともかく、私が成したことは唯一無二。――あの人の魔術で、門番の認識を覆させてもらったわ」



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