連撃、
タイトル、いい加減に変えようと思ってます。
もう全然魔王要素ないし……いや、闇堕ちっていう形でそれらしくはなっちゃってるけど、でもあのタイトルはそういう意味じゃないんですよ……!
いずれにせよ、まだ考案できてないのでタイトルを変更するとしたら一か月後ぐらいです。多分、その頃ではそのこと自体を忘れている可能性大ですが
『聖女』。
その一言がさらりとリーニャの耳元をすり抜け、そして刹那を以て余すことなくそれが意味するモノを噛み砕き、咀嚼。
一瞬沸いたのは、義務感のような憎悪。
だが、それも霧散する。
そして、直後には乾いた笑みを浮かべた。
この期に及んで、そのような大衆心理に、今更になって踊ろうとしていた自分自身が、酷く滑稽だからだ。
そして、どこか晴れやかな顔色で、口を開く。
「知ってる。――殺人鬼でしょ?」
「――――」
「その憎悪に身を焦がされ、ただただ魔人族を殲滅する。……あれは、そういう存在」
「……俯瞰してみると、そう見えるのかしらね」
「?」
不可解な声音に瞼を開く。
そんなリーニャへ、アリシアは「はあ……」と嘆息した。
「ねえ、ちょっと聞いていい?」
「……勝手にして」
返答は、どこか投げやりだ。
それに固執する様子もなく、随分と自分の人物像がどこぞの魔王により汚されたなと、そうアリシアは苦笑する。
無論、理解はできる。
それは戦争を持続する上で致し方ない措置。
故に、八つ当たりなんていう醜態は露呈しないでおこう。
代わりに、その不躾な誤解を、今ここで解こうではないか。
「ねえ、あなた、その瞳でありありと聖女を見たことがある?」
「……ない。でも、たくさんの人が――」
「――話の論点をすり替えるのは、感心しないわ」
「――――」
魔力的な威圧感は、皆無。
だが、アリシアのその可憐な――いっそおぞましい程の微笑に、確かにリーニャの瞳が畏怖で潤んだ。
「なら、改めて聞くわ。どうして、見たこともないのに、そんな風に決めつけたのかしら? ああ、責めているわけじゃないの。ちょっとした疑問よ。安心して。『誓約』を信頼しなさいな」
「……分かったわ」
依然、四肢の震えは健在。
だが、アリシアとレギウルスは今現在、結ばれた『誓約』を反故することができない――つまり、暴行を加えることができないのだ。
それも、金輪際。
間接的に死因になり得るケースも撤去した。
ならば――もはや、怖気づくことはない。
「……人々が言うことには、大抵バラつきがある。なにせ、この世に戯言を嘯かないような聖人君子なんて存在しないから」
「ええ、全くだわ」
「でも――『聖女』の噂は、違った」
「――――」
「大手多数の下町の人たちは、『聖女』こそが諸悪の根源だと、そう言う。あの、欺瞞の体現者たちが口を揃えて」
「――――」
「たくさんの集落を滅ぼしたって、そう言ってた。――なにより、魔王様は、『聖女』さえ殺せばこの戦乱が、……地面を這うかのような生涯も終わりだって、そういったの。私たちが敵視するのも、当然でしょ?」
恐怖は、無い。
そう暗示したとしても、もはやアリシアが放つそれに呑まれてしまうのは一つの生物として極々自然なことだ。
故に、目を逸らしながらも、相手の機嫌を伺う。
「……何か、文句でも……っ」
「――――」
不意に、目を見開く。
それは、アリシアがリーニャの物言いに対し、当の本人として悪しき魔人族へ憤怒し般若が如き表情をしていたのが起因――では、ない。
その表情を一言で言うと――渋面だ。
それはもう、子供が好奇心に囁かれ、わさびでも食してしまったかのような、そんな表情をしている。
ある程度発言から聖女のことは見知っていると判別できた。
そして、どこか執拗にこんな問いかけをするのだから、相応に思い入れがあることも、看破済みである。
だからこそ、この否定的な意見にある程度の感情を示す――最悪、それが殺意に昇華されることも覚悟していた。
下町は、さながら闇夜だ。
それまで好青年のような雰囲気を醸し出していた少年が、本当に唐突豹変しこちらの財産を簒奪するだなんて日常茶判事。
きっと、この少女もそうだと思った。
リーニャが放った言葉が彼女の琴線に触れ、そしてそれまでのどこか儚い存在から一転、悪鬼へと成り果てるのだと。
それは、半分正解で、もう半分は的外れだ。
確かに、その言葉は琴線に触れ、アリシアはそれまで浮かべていたポーカーフェイスともいえる微笑を取り消した。
だが――宿る感情は、想像していたのとかけ離れていて。
「あー。そう来るか」
「……どうしたの」
「いーや。なんでもないわ」
どこか無気力に、アリシアは嘆息する。
「……はあ。盲点だったわ。一体全体私たちに露見しないようにどうやって……ああ、諜報機関が作り変えられる前か」
「――――」
アリシアは「確かに、リーニャちゃんも外見と相応の年齢じゃねいしね……」とどこか投げやりに嘆息した。
「……文句でも?」
つかみどころのない感情に天を仰ぐアリシアにしびれを切らし、そうリーニャは敵愾心を隠そうともせずに問いかけた。
それに対し、アリシアは目を細め――。
「ええ――売る程あるわ」
そう、言った。
一瞬で空気が張り詰めるのが分かる。
例えば、それまで遊戯に興じる場であった公園に、幾多もの爆弾でも投下されたような、そんな惨状だ。
それは、アリシアが放つ年不相応の気迫に起因する。
「おいおい……お前、殺す気か?」
「あら? 自殺願望?」
「そうじゃないけど……ああクソっ!」
つい先日あれほどまでにみっともなく死を嘆願したレギウルスは、うしろめたさに思わず視線を逸らしてしまう。
それを満足げに眺めながら、不意にアリシアの視線がリーニャの元へ向けられる。
「……文句って」
「色々よ」
端的に告げるアリシアに、リーニャは『誓約』が存在するとはいえども、思わず固唾をのんでしまい――。
「――勘違い、しないで欲しいわ。私は、別にあなたに憤怒しているわけじゃないのよ」
「……じゃあ、誰に?」
「前任の魔王」
「……前任?」
「そこからか……」
リーニャ曰く、あくまでも彼女の記憶は数十年前から途切れてしまっているとのことだ。
それらの月日を計算し、「軽く百歳は超えてるや……」と思わずアリシアは頬を引き攣らせてしまう。
「端的に言うわ。――今現在は、あなたの生きた時代の、その数百年後よ」
「……は?」
その、余りにも意味不明な声音に目が点になるリーニャ。
だが、レギウルスの場合は少々異なったようで、腑に落ちたとばかりにしきりに首肯する。
「成程な……道理で違和感を抱いたわけだ。そもそもなあ――俺たちはなあ、お前ら程に『聖女』に対する敵対意志はねえんだわ」
「……背信かしら?」
「違ええよ。当時、魔王は『聖女』を最重要敵対者として認定してきた。そして、それを打ち破ればこの戦争も終幕すると、基盤にあった『魔王』という名に対する信頼を利用して嘯きやがったんだよ」
「でも、お前が違うとしたら……方針の転換?」
「いいや、正解だが、厳密には違う。――魔王の代が、変わったんだよ」
「……なっ」
絶句するアリシアへと、アリシアはより精緻な情報を付けたそうと補足する。
「そもそもが履き違えっていたのよ。『聖女』なんて、ただの生物兵器でしかない。ガラクタを壊しても、てんで法国へダメージを与えることはできないわ。もちろん、戦乱が幕を下ろすだなんて以ての外よ」
「……嘘っ」
「なら、いっそ住人全員にアンケートでもするか? 一部の阿呆は除くとして、まず間違いなく大半は首肯すると思うぜ」
「――――」
呆然自失。
そんな形容が余りにもお似合いな風体で唖然としてしまうリーニャを意気地なしだなんて、口が裂けても言えないだろう。
――『魔王』こそ、絶対。
それが、この世界の条理。
それを履き違えてしまえば瞬く間にこの国家から排斥されてしまうが故に、それを信じ込まざる得ない。
やがて、それは当人にとっての真実となるのだ。
それを否定され、魂が抜けるのも無理ないことだ。
故に、ここぞとばかりに、畳みかける。
「それを踏まえた上で言うわ。――私は、聖女よ」




