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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
七章・「約定の大地」
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踊り狂うかつての愚者、されど今や只人ですら非ず















「――『閃夜』」


 一度も露見することなく敵対者の背後に立つという『自戒』により、その刀身は神剣の類へと昇華された。

 更に、風流魔術によりその射程を極限にまで増大させる。


 そして――一閃。


 虚空を足場に、アリシアは軽やかに踏み込む。


 殺意は、凪いでいた。

 

 そもそも、アリシアのような淡白な少女が激情を抱くのは、愛らしい妹を惨殺した『傲慢の英雄』だけだ。

 故に、こうして感情を押し殺すのは造作もない。


 怖気も一切感じないのだ。


 アレに比べてしまえば、まだマシだ。


「――――」


 淡々と、容易く生物を致死にへと至らしめる刀身が異形の喉仏を撫でた。


 濁流のように溢れ出す鮮血はアリシアの純白の頬を深紅に染め上げ、さながらベールのような役割を果たす。

 その、無感動的な表情を覆い隠す、ベールとして。


「ッ」


「あら」


 断末魔の叫びすらない。


 容易く物の怪は、アリシアが放った斬撃によりその首筋を両断され、おびただしい程に流血していく。

 

 だが――その鼓動は、依然健在。


「アリシア――『核』だ!」


「知ってるわよ」


 小声で、そう返答。


 そのままアリシアは羽毛のように軽量なその身を容易く浮き上がらせ、そうすることにより洪水のように急迫する触手から退避した。

 依然、異形の生命は健在。


 だが、それでも口内と胴を切り離したことにより、疑似ブレスの行使だなんていう悪夢とえる可能性は防げた。


 後は、本体を潰すだけ。


「――ッ」


「はあ……存外、好調だわ」


 嘆息。


 その起因は単純だ。

 レギウルスはアリシアが奇襲に失敗したと悟ると、陽動を中断し、積極的に異形へと襲い掛かってきた。


 一歩。

 その一歩を踏み出すごとに常識外の膂力を以て、数千もの激烈な斬撃が振るわれ、迎撃の役割を果たす。


 踊り狂うその姿は、正に鬼神。


 これ以上なくレギウルスのコンデションは最善であり、その口元には毎度おなじみの嘲笑が浮かべられている。

 無論、アリシアもそれの意味は十全に理解していたが。


「夢を見すぎるのも、考え物ね」


 仕向けた張本人が何を。


 そんなツッコミをするような人材ははなから存在せず、アリシアはその翡翠の瞳をすっと細め――跳躍。


「駄犬のお手伝いも、飼い主として当然だわ」


「俺がいつ奴隷と化した!?」


 つくづく、度し難い。


 にじみ出る熱烈な憎悪が見え透えないように、アリシアは曖昧模糊な笑みを浮かべ、そのまま足を踏み入れる。


 距離的にアリシアは異形の胴体に近いので、そこ――幾多ものおぞましい触手が蠢く脊椎へ斬撃を振――えない。

 直後、閃光が舞い踊った。
















「――――」


 飛び退き、回避。


 が、どうやらホーミング効果でも備わっているのか、吐き出された純然たるエネルギーの塊はアリシアを追随する。


「厄介ね」


「――――」


 エネルギーなんていう偶像的なモノなんて、どれだけ研ぎ澄まされた剣術を用いようとも不可能だろう。

 無論、少々の例外も存在するが。


 少なくとも、アリシアにとってそのような大道芸が不可能なのは自明の理で。


 故に――。


「――消させてもらうわ」


 つい先程まで追随するその砲弾から逃げ惑っていたアリシアであったが、唐突にその歩みを途絶えさせる。

 背を向けた無様を挽回するかのように、彼女は正面を向き直る。


 砲弾は、これ幸いと更に加速させ、流星群が如くアリシアへと迫りくる。


 それに込められたエネルギーは思わずアリシアさえも身震いしてしまいそうな程であり、直撃でもしたら骨髄さえ残らないだろう。


 ならば、成すべきことは自明の理。


「――『浄罪』」


――華奢な掌が、飛翔する砲弾へ触れた。


 手先が、それと触れ合う。


 アリシアはあくまでも魔術師よりの身体能力であり、潜在能力の低さ故に魔力による増強もそれほどまでに効果を示さない。

 そして――指先が、ひしゃげた。


 それは、当たり前の光景だろう。


 アリシア程度の脆弱な肉体ではこれだけの密度で練り込まれた砲弾に触れ、弾け飛ばない筈がない。 

 アリシアは、それは理解している。


 そして、これは投げやりな蛮行などではない。


 それは、確固たる理性を以て行使された神仏の御業であり、そしてそれがたかが悪鬼羅刹の類程度が抗える筈がない。

 

「――――」


――刹那、エネルギーが消失した。


 否。

 消失……『天衣無縫』のような芸当を実行するには、相当な魔力を喰らってしまうのは請け負いである。


 だからこそ、非才の身でも扱えるように、あくまでも分解に留めることにより、その奇跡を実現させる。


 宿った濃密な魔力、その魂に刻まれた魔術の根底的な側面――そして、砲弾が侵した確かな『罪』。


 『罪』を犯した咎人には、相応の『罰』が下されると相場が決まっておる。


 そして、それは今この瞬間も不変の真理。


「…………」


 心なしか愕然とする異形に対し、アリシアは十八番の治癒魔術により破砕してしまった指先を修繕し、再度疾駆する。

 目指すは、その奥底の『核』。


 それさえ粉砕できれば、この不埒な喝采は幕を下ろすのだ、


 ならば――。


「ぁ」


「アリシア!?」


――不意に、アリシアの細身が掻き消えた。


 それは、突如として異形の脊椎により自由自在に蠢きのたうち回る触手により壮絶な勢いで痛打されたため。

 アリシアの華奢な細身が砕かれ、そのまま街角へ激突する。


 共闘する、いわば相棒ともいえる存在が場外へと吹き飛ばされてしまった事実に思わずレギウルスは声を張り上げる。

 そして、そんなレギウルスへと神速の勢いで、「それ」は来る。


「――ッッ」


――ブレス。


 龍種がそれこそ文字通り呼吸するかのように多用し、同時に只人の身では到底行使が許容されぬ禁忌の所行。

 これは、それを模したモノ。


 たかが紛い物だ。


 練り上げられた陣の練度は余りにもお粗末で、初心者たるレギウルスでさえ一蹴してしまうような代物だ。

 だが、込められた魔力に際限などという不毛な概念は、無い。


 魔力によるゴリ押し。


 それこそが、理性無き異形に天が唯一下賜した、本能的知性なのかもしれない。


 吐き出されたエネルギーの奔流が、レギウルスへと激突する。


 咄嗟に『紅血刀』を交差させ胸元へと添える。

 膂力を極限にまで強化し、構えた絶対的なアーティファクト『紅血刀』を、まるで盾のように運用する。


 こんな土壇場で若干『紅血刀』の角度を屈折させることによりエネルギーの奔流を受け流そうとした技量はすさまじい。


 されど先刻のホーミングが脳裏をよぎり、回避は不毛だと悟ったレギウルスは不動の心意気で、『紅血刀』を構え――刹那、それへと轟音を鳴り響かせながら、猛然とエネルギーの大瀑布が衝突した。


「――――」


――そして、レギウルス・メイカは呆気なく投げ出された。


 自明の理だ、自然の摂理、当然の帰結。

 ただただ、レギウルスの膂力と比較し、いっそ尊敬さえできてしまう程にエネルギーの桁が違っただけの話だ。


 異形は、文字通り命を削っているのだ。

 

 片や、レギウルス・メイカはその魂を偽善により震わせているだけで、十全に生来の魔術を発揮できていない。


 これだけで、もはや結果なんて知れたモノ。


「――――」


 猛烈な勢いでレギウルスへ光と化し、隕石のように灰塵と化した住宅へと激突し、それを勢い任せに破砕する。


「――『紅血刀』ッッ!!」


 満身創痍。

 そんな形容さえもお情けともいえる重傷を負ったレギウルスであったが、『紅血刀』の権能により再誕を果たす。


 獣の咆哮が轟いた。


 全ては、『英雄』の名を取り戻すため。


 それが果たされるのならば――こんな雑魚相手に苦戦だなんて、それこそ笑い話にさえなりやしない。




「――死ね、化け物ッ!」



 

 そう――咎人は、嗤った。





 あんま解説したくありませんし、というかそもそも本編(ストックの方)でやっちゃってるので、ここら辺はノーコメントで。

 ただ、富と名声が至極当然とそう誤認している者こそ、それが剥奪されてしまえば見苦しくなくという話です。

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