一歩、一歩、
今更だけど、鬼滅の作画クオリティー高すぎ!
リアルシャンフロかよ! とツッコんでしまうのもしょうがないでしょう。第二期楽しみですっ。
――爆炎が、肌を掠める。
「――――」
緊迫した状況下故に、もはや真面に溢れ出す烈火に対する対策を編み出すことはレギウルスの杜撰な脳内では不可能だ。
否、不必要とも言える。
「――『紅血刀』」
その一言で、骨髄にまで及んだ火傷が刹那で逆再生でもしたかのように修繕され、原型をようやくとどめる。
――『紅血刀』。
前代『帝王』の愛刀であり、そして今現在はレギウルス・メイカに強かに握られ、猛威を振るう深紅の刀剣だ。
備わった魔術は『吸血』。
ストックした血液の分だけ負傷を帳消しにできるという代物だ。
痛覚は、健在。
依然として猛烈な勢いで熱波が神経という神経を侵し続け、常人ならば発狂して然るべき苦痛が蝕む。
だが、それは断じて足を止める理由にはなりやしない。
故に、その感覚を振り払おうと、殊更レギウルスは勢いを増す。
同刻、瞑目。
「――――」
神経を極限にまで研ぎ澄まし、微かな吐息の乱れさえも聞き取る程に張力を強化し、生存の痕跡を必死に模索する。
耳元へ極度の練度で魔力を宿した。
それにより、ただえさえ常軌を逸していたその聴力は殊更にその機能を昇華され――同時、無数の拍動が。
「っ」
目を細め、一閃。
それに伴い、レギウルスの目下で炎上していた住居の小規模な木製の扉を、遠慮容赦なしに純然たる斬撃により断絶する。
直後、跳躍。
「――――」
猛然と疾駆したレギウルスは件の住宅地へ侵入し、そして確かに感じ取った気配を探し求めていく。
そして、微かに鼻腔を震えさせる、甘美な――血臭。
「そこかっ」
レギウルスは倒壊した住居の最中、その常人離れの脚力を以て積み重なった瓦礫を破砕し、その細身を回収する。
瓦礫に埋もれていたのは年端もいかない少年であり、貧困故かその体躯は骸骨のようにやせ細っている。
そして、彼の至る箇所から流血が。
一目で、彼が瀕死の重傷を負ってしまったのだと理解する。
(薬液には限りがあるが……背に腹は代えられない)
レギウルスは、懐から『清瀧事変』の目前に買い揃えていた霊薬の一つを、強引ながらも少年の口内へ垂れ流す。
それと同時に、目に見える形で少年の重傷も改善されていく。
「次は……!」
レギウルスはその少年をアイテムボックスに格納しつつ、そのまま踏み込み、傲然と震える少年の母親と思わしき女性を救出する。
幸い、これといった傷跡はないようだ。
レギウルスはそれを確認すると軽めの薬液を投げ渡し、本人の了承を得てから格納庫に収納していく。
これで、二人だ。
たったの、二人。
「……クソがっ」
労力が、絶対的に不足している。
一分にも満たない短時間で二人を救出したレギウルスであったが、その横顔は依然として晴れない。
なにせ、この下町には何千もの人々が息をしているのだ。
そんな彼らを、果たしてこんなにも稚拙なペースで全員救出できるだろうか。
無論、その解答は知れたモノ。
そうこう思案している間にもレギウルスは救出活動に精を出しているが、それでもたった一人では限界が存在する。
レギウルスに、アキラのように自身の分身体を構築するような真似はできない。
故に、こうして不器用に愚直に困難に挑むことしか、できないのだ。
そんなていらくに、いよいよ嫌気が差していく。
「……どうすれば」
増援を期待するのは……少々希望的だろう。
、正直レギウルスのように『紅血刀』のような対策が可能な人員は、相当限られていると思うのだ。
果たして、この下町にそれに該当する人材がどれだけ存在するか。
そもそも、下町の惨状を気に掛けるような『上』の存在がこの世に存在するのかも甚だ懐疑的であるが。
「……?」
と、そうこう葛藤している最中、レギウルスの視があるモノが捉える。
それは、幾何学的な紋様が深々と刻まれ――そして、今もなお虚空より魔力因子を流入される陣で。
それが意味するモノを察せられない程にレギウルスは鈍感ではない。
「諸悪の根源……!」
アリシアは、無尽蔵に拡散しているこの烈火には、確かに魔術的な要素がかみ合っていると言っていた。
そして、目下の魔法陣は今もなお健在、なおかつ稼働中だ。
これだけ状況が揃っていながら、結びつけない方がどうかしているだろう。
「――ッッ!!」
完膚無きままに目下の魔法陣を粉砕すべく、レギウルスは一切妥協することもなく神速で跳躍し、常識外の膂力を以て深紅の刀身を振るう。
その刃先と陣が接触した瞬間、微かな抵抗が行く手を阻む。
だが、それも数瞬後には掻き消されていた。
そのまま、『紅血刀』は豆腐でも、切り分けるような容易さで、忌々しき陣を片手間で切り伏せた。
「…………」
が、依然火勢は健在。
心なしかややそれが収まったような気もするが、それでも根底的に下町を焼き尽くす爆炎が掻き消えたワケではない。
「……複数陣が存在するのか、あるいはそもそも切りつけたこの陣が今回の一件とは無関係っていう推測が妥当か」
後者の場合、それがこの局面において最低最悪な結果を呼び寄せるような羽目にならないことを切願するばかりだ。
嘆息し、レギウルスは烈火の海を見据える。
いずれにせよ、レギウルスが実行することにはこれといって差異はない。
そう、理性が判断していた。
だが、心の奥底ではその魔法陣の存在――否、独特な魔力の質にどこか違和感を抱いてしまっていたのだ。
不意に、一瞬熟考するレギウルスの耳朶を再度の爆音が嬲った。
「……行くか」
雑感だなんて、抱く暇はない。
レギウルスは、嘆息しながら猛然とか弱い下町の人々を救いだそうと、疾駆していった。
「――――」
アリシアは、透徹した眼差しで陣を構築する。
数瞬後、それまで形成していた魔法陣が猛威を振るい、アリシアの行く末を阻んでいた烈火が消失していく。
「……試したことはなかったのですが、どうやら幾多もの無辜の民を葬り去っていたこの烈火も『罪深き者』と認可されるのですか」
どこか呆れたように、アリシアはそんな声音を吐く。
アリシアは、この鬼気迫った局面の最中でもポーカーフェイスともいえる微笑みを絶やさず、気まぐれに人々を救済していた。
無論、それはもののついでだ。
アリシアの思惑は、もっと別。
「……気配は、ここですね」
アリシアは、今もなお焼却され続ける住居の一つを見据え、そしてそれへと神々の御業を代行する。
「――『洗罪』」
その一斉に応じ――直後、住居を覆っていた熱波の一切合切が超常的な力に作用され、掻き消えてしまう。
アリシアはそんな月並みにありふれた光景に、特段感慨を抱いた様子もなく淡白に、塵芥だらけの住居へ足を踏み入れる。
ふと、頭蓋骨らしきモノが目に入った。
どうやら死の間際まで絶叫していたようで、あんぐりと口元はあけられており、それだけで常人は苦痛を感じ取るだろう。
だが、アリシアは異なった。
彼女は、特段これといって苦悩に満ちた頭蓋骨に一切興味を示すことなく、それをさも当然とばかりに踏みつぶした。
微かな脳漿がアリシアの靴底を濡らす。
「――――」
そのまま、アリシアは淡々と足を進め――そして、不自然に烈火の痕跡が皆無な、小奇麗な箇所へと視線を傾ける。
抜刀。
そのまま身体強化により本来ならば外見通りの脆弱であったその肉体を際限なく強靭化させていく。
そして、鋭利な刀身は主人の常識外の膂力も相まって、その床をバターのように容易く断絶されていった。
切り分けられた地盤を蹴り飛ばす。
アリシアはかつて床が不自然に埋まっていたその地点を――その後に続く螺旋階段を、見下ろした。
「案外、容易いわね」
そう嘆息し、そのまま重力に身を委ねる。
着地し、そのまま軽やかに階段を下っていく。
そして――照明が、灯った。
「――あら、久しぶりね」
「――――」
――地下に、澄み渡ったその声音が木霊していった。




