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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
七章・「約定の大地」
542/584

殺せ


 別のそこまでクレイジーじゃなかった!


 と、思うでしょ?

 ペテるのは、次の話からです













「――――」


 下町は相も変わらずだ。


 悪意がさも当然とばかりに鼓動し、そしてそれにより吐き出された濁流は容易く他人の人生を滅茶苦茶にする。

 一度も、此処に愛着を抱いたことはなかった。


 だが、心境の変化故だろう。


――此処が、心地よいと思えてしまうのだ。


 トンッ。


 不意に、ふらふらと覚束ない足取りで夜を徘徊するレギウルスの肩が触れた。


「ッッ。痛ってぇな、オイ」


「ハッ、随分とやつれた顔だな。今にも死にそうだ」


「――――」


 レギウルスへ絡んできたのは、典型的なチンピラ。


 衣服を新着することさえも叶わない程に困窮しているのか、彼らが着用する服はツギハギであった。

 頭髪も、髭も伸び放題。


 だというのに、その瞳だけがギラギラと稲光していた。


「なあ、金だせよ」


「――――」


「有り金、全部だ全部」


「――――」


 痛烈な形相で自分を睨む不良たちに対し、レギウルスは濁った眼差しで、ようやく認識したように目を剥ける。

 言外に眼中にさえないと、そう告げられた不良たちは爆発寸前。


 が――レギウルスにとって、それは認識する意義もない存在であった。


 故に、必然。


「――――」


 レギウルスは、そのまますごむチンピラを無視し、スタスタと立ち去ろうと――。


「――おい兄ちゃん、見栄も大概にしろよ」


「――――」


 暗闇の中、微かに漏れ出る陽光が反射し、僅かにレギウルスの瞳を焼き付けた。


 不良が懐から取り出したのは決して業物とは言い難い、錆だらけの刀身であった。 

 

 チンピラはそれをレギウルスの首筋に戦士としての流儀もなく、ただただ乱雑に添え、低い声音で恫喝した。


「――殺されたくなかったら、出せよ、金」


「――――」


 躊躇なく他者へ凶器を突きつけるその凶暴性から、それが断じて虚勢の類ではないとレギウルスも理解した。

 故に、だ。


「邪魔だ」


「――――」


 レギウルスはそう、発する。


 そして、そのままナイフを軽く指で弾き――次の瞬間、弾丸が如く破片は飛翔し、深々と一角に突き刺さる。


「ひっ……」


「――――」


 それまでの優位さはどこへやら。


 チンピラたちは、レギウルスがさも当然のように成した非現実的な光景にただただ当惑するしかない。

 だが、反してレギウルスは冷徹だ。


「二度は無い。――邪魔だ」


「――――」


――もはや、誰もその声音に逆らえず、ただただ畏怖の念を抱くしかなかった。

















 ――。

 ――――。

 ――――――――。


「…………」


 あれから、一週間経った。


 その間、レギウルスは寝食することもなく、どこまでも機械的に閑静な街並みを迷い犬のように彷徨っていた。

 それに、大いなる意味が隠匿されているワケではない。


 真逆だ。


 レギウルスは、特段これといった理由もなく、これまで過ごしてきた場所に、足を踏み入れていた。

 だが、もうそこにレギウルスの居場所は無かった。


 いずれにしろ、顔も知らない誰かが占拠している。


 その事実だけが、ただただレギウルス・メイカを満たしていた。


「――――」


 虚しい。


 自害することもできず、さりとて明日に向かって健気に、そしてあどけなく生き足掻くこともできない。

 実に、醜悪だ。


「…………」


 また今日も、一人腐っていく。


 それでいい。


 誰も巻き込まず、誰とも関わらず、誰とも触れ合わないことでしか、もうレギウルスは満たされることがないのだから。

 それに……もう、段々どうでも良くなった。


「はあ……」


 心のどこかでそんな自分を悲観していたのか、レギウルスは思わずそんな重苦しい溜息を吐き――。


「――ッッ」


――そして、倒れ込むように横薙ぎに振るわれたその斬撃を回避した。


 レギウルスは路地裏で唐突に――それも、存外強大な刺客に襲撃されたなと、そう冷淡に思案する。

 無論、もはやレギウルスの敵ではない。


「ッ」


「――――」


 レギウルスは、縦横無尽かつ正確無比に流れる水が如く流麗に振るわれる刀剣の一切合切を片手間で受け流す。

 それに刺客もやや驚嘆したように目を見開くが――直後、嘲弄するかのような気配が醸し出される。


「――Ⅲ」


「身体強化……それもこうもハイレベルで」


 思わず、もう捨てた筈だというのに『傲慢の英雄』の一面が漏れ出てしまい、構築される精緻な術式に溜息がこぼれる。

 それだけが、場が際限なく張り詰めた。


――それに呼応し、レギウルスの闘志も練り上げられる。


「アホくさ」


「!?」


 その、寸前。


 レギウルスは思わず昂ってしまった自分自身に本当にどうしようもないと叱責しながら、そのまま無手で振るわれた刀剣を掴み取る。

 遅れて刺客も瞠目するが、時すでに遅し。


「――――」


「なっ」


――そして、刺客の天地がひっくり返る。


 レギウルスは久々に柔道なんて行使したなとはんば他人事のように嘆息しながら、そのまま刀剣を奪い取る。

 そして、間髪入れずそれを刺客の首筋へ突きつけた。


「――動けば、斬る」


「――――」


 絶対に、動くな。


 仮にレギウルスの思惑が外れてしまえば、それは彼の腐り切った精神へ決定打が下されたことを意味しているのだから。

 だが――結局、世知辛い現実は存外辛辣だ。


「――絶対の絶対、断るわ」


「――――」


 そして、刺客は首筋に抜身の刀身が添えられているにも関わらず、いっそ狂気さえ宿してレギウルスへ殴りかかった。

 一目みただけで、その殴打には絶大な魔力――そして、万感の想いが溢れかえっていた。


「――――」


 直後、刺客は凝然と目を見開く。


 それは、直撃を過信した一撃が容易く『傲慢の英雄』により防がれてしまったが故――では、ない。

 その解は自明の理。


 レギウルス・メイカは特段抵抗することもなく、刺客の一撃に対し、特段防御することもなく頬で受け止めたのだ。


 あの『傲慢の英雄』が、これ程までに見え透いた殴打を受け流すこともできない筈がないと、そう凝然と目を見開く。

 そして――。


「ふんっ」


「――――」


 また、一撃。


 刺客はこれ幸いにと手元に極限にまで魔力を凝縮し、火事場の馬鹿力でこれまで発揮した既存のそれの一切を遥かに上回る一撃を繰り出す。

 が、依然レギウルスは無抵抗。


 流石に『傲慢の英雄』とて、それを真面に喰らえば相応の負荷があるのか、血反吐が刺客の白い頬を深紅に染め上げる。

 

 そして、刺客はこの千載一遇の好機を逃さないようにと、レギウルスが握っていた刀剣を回収する。


 やはり、抵抗は皆無。


 ならば、もはやレギウルスなど的が大きいだけの雑魚だ。


「――『疾風迅雷』」


「――――」


 嵐風魔術と、それに純然たる剣技が相まっていくことにより常軌を逸した威力を有する斬撃がレギウルスの強靭な筋線維を抉る。

 深紅の液体が路地裏を染め上げ、それと同時にレギウルスの瞳から生気が徐々に失われる。


――だが、彼はうめき声の一つさえ口にしなかった。


「――――」


 まるで、それがせめてもの懺悔とばかりに。


 その、あまりにも夢に見た光景とは乖離した現実に刺客は顔を真っ赤にし、そしてより一層激烈な乱舞を叩き込む。


「苦しめ! 泣き叫べ! 惨めったらしく命乞いの一つや二つくらいしないさい! それが、あんたにできる唯一無二の懺悔でしょ!?」


「――――」


 臓腑が、切り裂かれる。


 痛烈な苦痛がレギウルスの身に巡った神経の一切を抉りとり、また一つ、二つと致命傷が増加していく。


 だが、レギウルスに苦悶の色は無い。


 否――それ以前の、問題。


――レギウルス・メイカは今この瞬間、これ以上なく安らかな顔をしていた。


 まるで、百年もの味わってきた地獄からようやく解放された囚人のような、そんな微笑を浮かべる。



「――俺を、殺せ」



 そう、彼は満面の笑みを浮かべ口にした。




 メイルさんの元から離れたのは、第一にメイルさんに対する罪悪感と本人は認知しているだけですが、実際のところ彼女と接する度に溢れ出す自己嫌悪を予期し、それが耐えられなかっただけですん。

 後、普通に気まずかったのかも。


 エゴイスト。

 それがレギウルスさんへのテーマですっ。


 ……鬱展開に鬱屈としていらっしゃるとおもいますが、次はコメディー風です。いや、それはそれでどうなんだ! ……普段のカンジではなく、鬱云々を超越したカンジだそうです。たとえるなら、ペテ公の醜態を眺めるような、そんな心境になるらしいです。


 作者自身も、あれにはドン引きしました。


 詳しくは、次話で。

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