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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
七章・「約定の大地」
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ちょっと何言ってるのか分からない


 だそうです















「おや、お早い帰りですね」


「……待たせたのだ」


「いえいえ。こちらとしても別段気にしていませんよ。たとえ本望を忘失し、個人的感情に身を委ねる行為の巻き添えにされても、全然気にしません」


「それ絶対気にしてるやつ!」


「何のことやら」


 メイセは素知らぬ顔でそうとぼける。


 それに猛然とツッコむメイルであったが、それよりもメイセが興味関心を抱いたのは、その背後である。

 そこには――廃人が、居た。


「はっはっは……」


 もはや乾いた笑みさえ出てくる。


「――嗚呼、何故人は争うのだろうか」


 廃人――レギウルスは、空虚な眼差しでそんな戯言をおびただしい人類をこの手で殺めていてほざいていた。

 明らかに、正気ではない。


 その瞳の焦点は狂い果てており、度々移り変わっている。


(……少々悪ふざけが過ぎましたね)


 まさか、こうもメイルが独占欲が強烈とは。


 メイセもある程度『見切』という魔術によりガバルド同様、他者の心情を片手間で読み解くことができる。

 それにより、メイルが存外ヤキモチ焼きだということは理解できていた。


 だが、恋人が廃人同然と成り果てるまでとは……。


 これには流石のメイセも頬を引き攣らざるを得ない。


「あ、あの大丈夫ですか『傲慢の英雄』……」


「嗚呼……風の声が、聞こえる」


「異常なんですね本当に有難うございました」


 まるで会話が通じない。


 つい先刻までは十全に意思疎通が測れていたというのに、蓋を開けてみればこの始末である。

 

(……どんだけ恐ろしい折檻を受けたんですか)


 メイセとて王国の一味として必然的に魔人族は唾棄すべきだという確固たる持論があるが、この時ばかりは同情せざるを得なかった。


「……メイルさん、貴女この人に何を……」


「……言わせないで」


「アッ、ハイ」


 順々に押し黙るメイセ。

 有無を言わせぬ気迫で命令が下されたというのも一つの要因であるのだが――何よりヤバいのは、メイルがぽっと頬を紅潮されたこと。


 これは、色んな意味で聞かない方が良い。


 そう本能が悟った瞬間であった。


「……ですが、この廃人はどうしますか?」


「箱に……いや、私が連れて行くのだ」


「ハイ」


 箱云々は聞かなかったことにしよう。


 気持ち悪いくらい澄み渡った眼差しをするレギウルスをメイルはまるで赤子を引導するかのように連れていく。

 

(ヤベェ。魔人族ヤベェ)


 とんでもない魔人族に対する風評被害であった。


 かなり……否、ほんのちょっとだけ独占欲が強いメイルの眼差しに冷や冷やしながらも、一同は閑静な住宅街を進んでいく。


「『妄執の狂王』と顔を合わせるのは、また後日です。万が一のことを考慮し、少々余裕をもって到着できるようにしてありますからね」


「随分と用意周到だな?」


「……そういうモノです」


「へえ」


「…………」


 メイルは明白に納得する気配はないのだが……今この場で恩赦の件を口にするのは愚策以外の何物でもないだろう。


 故にメイセは背後より突き刺さる視線を無視し、そのままメイルへ宿屋を用意し、そくさと退散していった。



 

 ……何故かさも当然とばかりにメイルとレギウルスが同室であったことは、見なかったことにしよう。


「強く生きて下さい、『傲慢の英雄』」


 そんな、慈愛に溢れた声音が闇夜に溶け込み掻き消えていった。
















――控えめな朝日が、瞼を焼く。


「う、うぅ……」


 意識は酷く朦朧としていた。


 二日酔い、否それさえも児戯に思えてしまうような、そんな得体の知れない不快感が俺の全身を蝕む。

 が、かといってそれを受容しないワケではない。


 真逆だ。


 本能が理解する。


 この不快感は拒絶すべきモノではなく、あえて受け入れて然るべき代物であると――。


「っ。なんなんだっ」


 正体不明な感覚に、眩暈にも似た感覚に襲われ、それでもなお俺はベットから起き上がろうと――。

 ……ベット?


 ……え?


「……レギ?」


「…………」


 そして――瞳が、交差する。


 幼馴染ことメイルは、未だ微睡む視界の最中でも、まるで愛しむかのようにそっと俺の肌に指先を触れさせる。


 どこか遠慮した様子のその仕草の一切合切からは普段はあまり感じられない年相応の可憐さが今日強調されていた。

 が、嫣然と微笑むその姿はいやに妖艶としており――。


「おおっ!?」


「……どうしたの、レギ」


 思わず飛び退いてしまった俺に対し、メイルは明確に拒絶されてしまったかと誤認し、その瞳を潤ます。

 だが、そうじゃない!

 

 そうじゃないんだ!


「……なあ、一つ聞いていいか?」


「なんでも」


「じゃあ、遠慮くなく言うぜ。――どうして、お前全裸なんだ」


「…………」


 おい黙るな。


 ちなみに、かくいう俺も一糸纏わぬ完全なる裸体である。


 普段は「ちゃいなー」的な『プレイヤー』と呼称される輩が持ち込んだ衣装を死闘を阻害しないように改造したモノを着用しており、それ故に白日の下に晒されることは無かった引き締まった肉体が剥き出しに……ってそうじゃない!


 どうして俺は冷静に現状を分析してるんだ!?


 常軌を逸した状況故にただえさえ不出来なこの脳内が殊更に覚束ずに、俺はただただ当惑するだけである。

 

 だが、それも序の口である。


 なにせ――。


「……いや?」


「~~~~!!」


 いや、誰だよ!?


 普段のツンデレともいえる無愛想はどこへやら、メイルは上目遣いで頬を上気させながらそう問いかける。

 姿勢も、所々露見するアレも相まって……エロい。


 ハッ……! 俺は何を……。


 我に返った俺は、不意に瞳をうるうるさせるメイルと目が合い――。


「メイルと添い寝する事が嫌? そんなこと言う阿呆、この世界に果たして存在するか?」


「レギ……!」


 そう恥も外聞もなく言い切る俺に、メイルは万感の想いで抱き着き……ちょ、胸! 当たってますよメイルさん!

 だが、この甘ったるしい空気でそんなことを言ってしまえば……。


『――レギには、がっかりなのだ』


 あっ、死ぬな俺。


 それを漠然と悟ってしまった俺は、絶対に卑しき獣と化さないように深く精神を統一し、メイルの抱擁に堪える。

 それから数秒、数十秒。


 依然、メイルが俺から退くことは無かった。


(……まだ?)


 朝起きたらメイル共々全裸だったり、ついでに添い寝してたりと、知らぬベットで寝っ転がっていることとか、色々と不可解な事項が多すぎる。

 だが、レギウルスにはそれを追求する暇もないので。


「――――」


 結局、レギウルスには肩を震わすメイルの頭髪をよしよしと赤子でもあやすように撫でることしかできなかったのである。
















「おや、ようやく正気に戻ったのですか」


「――――」


 あれから数十分後、ようやくメイルの抱擁から解放されたレギウルスは宿屋のおっちゃんの一切合切を理解したかのような慈愛に満ち足りた眼差しを必死に無視し、こうして昨日別れたメイセと合流していた。


 ……彼が酷く自分の身を案じるような眼差しをしていることには、色々怖いのでなるべく触れないでおこう。


「ふう……僥倖です。重鎮たる『傲慢の英雄』が箱に詰められてしまえば、私も本懐が果たせませんからね。安心です」


「ちょっとなに言ってるのか分からない」


 そう、胡乱な言動は『賢者』にとっても平常運転なのだ。


 なので、今更気にするのも不毛である。


 俺は好奇心こそ疼くが、されどどこからどうでも地雷の香りしかしない話題から本能的に避け、メイセと向き直る。


「それじゃあ、早速行くか」


「? どこへですか?」


「……? 『妄執の狂王』だなんていう生粋の中二病がつけたとしか思えねえ肩書の野郎に決まってんだろ」


「ああ……そういうことですか」


 いよいよ容量を得ないメイセの発現に頭上に疑問符を浮かべるが、結局その真意は彼自身の口により言及された。


「あくまでも、私は『後日』としか言ってません。――つまり、今日この日に来訪するだなんて一言たりとも申しておりませんよ」


「……テメェ」


「まあまあ。誤解したのはそちらでしょ?」


「……チッ」


 言葉足らずとはいえども、確かにメイセは虚言の類を一切述べていないので俺は特段追及することはない。

 と、そんな俺へメイセは意味深な笑みを浮かべ、一言。


「――じゃ、二人っきりでデート楽しんできてください!」



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