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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
一章・「赫炎の魔女」
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伝えたいこと












「――私も行きます」


 会議は終わり、今は各自準備の時間である。

 俺たちルシファルス家陣営も例外ではない。

 面倒な調節はガバルドがなんとかしてくれるでしょ。

 我ながら何という丸投げっぶり。


 酷い、酷すぎる。

 でもそれでも反省しないのが俺流である。

 さて、そんな俺にシルファーが言い放った言葉がこれである。

 ちょっとどうやったらその思考回路にたどりつくかどうか分かんない。


 当然、


「ダメに決まってるだろボケ」


 辛辣な拒否が返答である。


「ど、どうしてですか!?」


「いや、だって姫さんが姫さんだし」


「?」


 俺はアイテムボックスを整理しながらそう言い放つ。

 容量を得ない俺の言葉に首を傾げるシルファー。

 まったく、こいつ本当にルシファルス家の長女か?

 もうちょっと考えて発言して欲しい。


「あのなぁ、二度も同じ轍を踏むつもりか? 内通者の存在は絶対視されている今、お前の面は割れているだろう。 そんなお前が戦場に向かえば、どうなるか分るよな?」


「――――」

 

 俺はそう無慈悲に突きつける。 

 そして更なる追い打ちを。


「後、お前むちゃ弱いし」


「ちょ、酷くないですか!? 事実ですけど!」


「だって事実じゃん」


 なんらかの防衛手段は得ているようだが、それでもどう考えても戦場で役立ちそうにないというのが現状だ。

 もう一回捕まったらどうなるかは自明の理。

 というわけで、無理なものは無理なのだ。


「んなわけで納得してヒキニートになれい。 あっ、御免、それ平常運転か」


「それはアキラさんも同じじゃないですか? でも――やっぱり、嫌です」


「チッ。 強情な」


 俺はそう苛立ち気に舌打ちする。

 もうちょっと聞き分けのいい子だと思っていたんだけどな。


「――離れたくありません」


「あー、うん。 ちょっと何言ってるか分からん」


「もうっ」


 大方、護衛が居なくなるのが精神的に不安なのだろう。

 あれ?

 でも、だったら普通に俺を引き留めればよくね?

 うーむ。

 ちょっとシルファーの思考は読めんな。

 

 俺は拗ねたかのように頬を膨らませたシルファーを一瞥しながらそう思考した。

 チッ。

 ただえさえ自由奔放な正確だ。

 精神的なリミッターがいなくなると、それなりに面倒な状態になりそうだな。


(……致し方ない。 ちょっと慰めるか)

 

 正確には、言い訳である。


「御免な。 俺も本音ではお前と二人でニートしていたいが、残念なことに運命は俺を許してくれないらしい。 安心しろ、ちゃんと帰ってくる。 お前も、五体満足でいろよ」


「――はいっ」


 何故かシルファーの顔が真っ赤だ。

 それこそ、どこぞの包帯の付属品並みである。

 えーっと、もしかして何か逆鱗に触れちゃった?

 もしそうなら今すぐ土下座しなければならないのだろう。


「……はわわわわわ、それって、結婚してくれってことじゃ」


「ん? ちょっと何言ってるのかわからないや」


「――――」


 あっ、別に期限を損ねたわけではなかったんだ。 

 じゃあなんで顔真っ赤になったんだし。

 月彦にでも聞いてみますか。


「――伝えたいことがあります。 全てが上手くいったら、あの部屋で話します」


「なら今伝えればよくね?」


「雰囲気! 雰囲気ッッ!」


 御免、ちょっと何言ってるのか分からない。

 

 首を傾げる俺へシルファーは告げる。


「――待っていますからね」


「おう。 お前こそ死ぬんじゃねぇぞ」


 



 そして――彼女の真意が紡がれることは、無かった。

















――深夜、三日月が妖しく輝く。


 陽光が月によって反射され、薄く俺たちを照らしていた。


「――ほう。 久しい顔を見たな」


「久しぶり俺の半身。 元気にしてたか?」


「ふんっ。 お前に俺の行動を逐一報告する義務もない」


「そんなこと言わずにさぁ。 もっとフレンドリーにしようよフレンドリーにさー。 ほら、相棒みたいなもんだし」


 とはいえガイアスは他と違って完全自立型だからな。

 ぶっちゃけ俺とガイアスの関係って思って以上に薄っぺらいんだよね。

 余談だけど、別行動できるとはいえ、ちゃんと限度はある。


 十五キロ。


 この距離を超えると、ガイアスは最悪魂の形を保てずに崩壊バットエンドという物騒な運命を辿ることとなる。

 流石にそれは避けたいなー。

 まだまだガイアスには利用価値がある。


 それが廃れた場合は知らんが、少なくとも今はまだ十分活躍できる。


「――取り合えず、ガイアスはなし崩し的に同行決定ね。 ま、灰になって消えたいのなら別にいいけど」


「愚問だな」


「そうかいそうかい。 どんな風に暗躍するかどうかは知らんし興味もないが――俺の敵になったら、容赦もしねぇし喰らいつくすぞ」


 最後の言葉は自分が思ったより平坦で淡々としていた。

 ハッ。

 ついつい本音が漏れ出てしまった。

 ちくしょう、もうちょっと修練が足りないか。


「成るべく、その未来は避けたいな」


「そだねー。 でも、やるといったからにはやる。 なんせ、男に二言は許されないからね」


「まったく、思ったより数倍難儀な生き方だな」


「同情してるのか?」


「いいや、別に」


 そして、深夜の密会は数分ほどして終幕を遂げたのだった。


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