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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
六章・「桜町の夜叉」
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再誕
















 これぞ孤立無援。


 今現在、『傲慢の英雄』が撃退されてしまったことにより、もはや俺を守護する存在は一切存在しないのだ。

 白日に晒されるとはまさにこのこと。


「あ……やっぱ、殺せんか」


「……理解していながらお前はあんな暴動を?」


「まーね。ちょっと時間稼ぎたい心境だったし、俺もたまにはああいう大規模な魔術行使してみたかったんだよ」


「それはそれは。最後の魔術は存外大仰だったと記憶してやるぞ」


 俺がお亡くなりになってしまうことが大前提となってしまっているように思えるのは、きっと気のせいだろう。


「はー。今投降したら許してくれる?」


「無論、即殺する」


「お前数十分前の自分の温情にまみれた台詞思い出してみろよ」


 あの頃の綺麗な『老龍』さんはどこへやら。


「ふん。あの頃と今では事情が変わったのだよ」


「……それに振り回される俺の気持ちもくみ取ってくれないのかな?」


「大丈夫。骨は拾ってやるから」


 もはや会話は不毛。


 そろそろ『老龍』もしびれを切らし、俺の寝首を掻こうとする頃合だろう。

 

 そして、現状俺がそれに抗う術は存在しない。


 俺は、あくまでも『傲慢の英雄』のように単身で最高峰の力量を発揮するようなタイプではないのだ。

 仲間の地力を最大限にまで引き出し、援護に挺する。


 その時になって初めて俺の真価が発揮されるのだ。


 が、今現在ライムちゃんはもとより、先刻の一幕により、レギウルスは文字通り蒸発してしまった。


 正に絶体絶命である。


 そろそろ温厚な俺も神様に反吐が出る頃合いだ。


「はあ……仮に『厄龍』陣営に寝返るって言ったら?」


「そうかそうか。お前はそんなに犬小屋でリード付きで住みたいのか」


「どうしてそうなった!?」


 おおかた、途轍もなく俺という存在が信用できないことに対する隠喩なのだろう。


 にしてもまさかの犬扱い……。

 どれだけ俺がルインに警戒され、そしていっそ芸術的なまでに信用皆無であることが理解できる一幕であった。


「さて――遺言は、済んだか」


「……時間稼ぎに付き合ってくれるんだね。ツンデレかな?」


「つん、でれ……?」


 普通に疑問なのだが、どうして飼い犬という概念が存在しないこの世界においてリードを理解しているのにツンデレという単語を知らないのだろうか。

 まあ、知名度はどっちもどっちか。


 いずれにせよ、考えても栓無きことである。


「つんでれ……どこかで聞いたことがあるような……あの生けるセクシャルハラスメント被害者量産機が言ってたような」


「いや、誰だよそれっ」


 俺でさえドン引きするような人が、何故ツンデレを口走っているのはつくづく不思議である。


 が、『老龍』はもはやそれを模索し無闇矢鱈と時間稼ぎの片棒を担いでしまうのは不埒だと判別したのだろう。


「……さて。御託は来世で好きなだけ嘯け」


 そう渋面で返す『老龍』であったが、直後にはどことなく感情という概念を極限にまで抹消した暗殺者が如き怜悧さを宿す。

 それこそが、彼の決意の表れ。


「……殺す気か?」


「愚問だ」


「――――」


 色々と疑念を抱くことはある。


 だが――正直なところ、俺は『老龍』が如何に尊い覚悟を以て俺を他殺しようとするだの、そのような些事に関心は無かった。

 なにせ――もう既に、根回しは済んでいるのだから。


「はあ……やれやれ。ゴリラの落命と引き換えに手に入れたそれがあんまり釣り合わんな。釈然としない今日この頃」


「? 何を……」


「まあ、そう急かすな。――どうせ、すぐその身を以て理解できる」


「――――」


 何を言っている……そう頭上に疑問符を浮かべる『老龍』であったが、どうやら俺の声音をブラフと判断したようだ。

 数瞬後には決別とした表情となり――。


「――来世では、友人で居よう」


「やだね」


 そんな、らしくもない……とは一概にもいえない、あるいは万感の想いが宿った声音を絞り出し、途轍もない勢いで跳躍した。

 その刀身は依然鞘に納められたまま。


 どうやら居合を披露しようとしているようだ。


――俺の『天衣無縫』は、存外急所が存在する。


 まず、何よりをも欠点は、言うに及ばず辻褄合わせの制約である。


 仮に俺がこの迫りくる刀身を『天衣無縫』により掻き消してしまおうとも、『辻褄合わせ』により再度新たな鋭刃が生じるだけだ。

 それは、実に不毛。


 無駄は俺が何よりも忌み嫌うモノだ。


 故に、そのような無駄な悪足掻きは一切致さない。


 諦観?

 否。

 断じて、否。


「――――」


 視線が、交差する。


 それを黙認した俺の口元に微かに浮かんだ微笑にも勘づくことなく、『老龍』は俺の間合いへと急迫する。

 一拍。


 踏み込み、地を這う肉食獣が如き実に独特な姿勢で流麗な動作でそれまで納められていた刀身を盛大に抜刀する。

 牙を剥くのは一切合切を割断する神剣の類だ。


 十中八九、愛刀『羅刹』さえも振るわれるこの暴威に前に、成す術もなく木っ端微塵となってしまうだろう。

 百も承知だ。


 そして――。


「――眠れ」


「あっそ」


 それは、囁くように、言い聞かせるように、愛しむように。


 『老龍』は今まさに自身の華奢な首筋へと鋭刃が振るわれているのにも関わらず一切表情を変えることなく受け入れる俺を一瞥する。

 そして――。



「――『巡羅』」



 そして――さる狂愛者のどこか都市不相応に甘美な声音が、確かに耳朶を打った。
















 刹那、視界が切り替わる。


「ッ」


 投げ出されることを事前に予知していた俺は、特段焦燥することもなく淡々と受け身を取り、そのまま軽やかに立ち上がる。

 目を凝らしてみると、どこか愕然とする『老龍』の姿が映っていた。


 つい先程まであれ程の覇気を放っていたあいつがあれ程までに感情を露わにするだなんて、中々に滑稽だ。


「なあ、お前もそう思うだろ? ――レギウルス」


「ああ、全くだ」


 そう、背後の気配――どこか既視感を抱いてしまう、身長二メートルをゆうに超える大男へ、そう俺は問いかける。


 それに対し、大男ことレギウルスは快活な笑みを浮かべ同意する。


「あれ程威張っていた野郎があんな醜態……最高だなっ」


「……レギウルス、お前、時と場所を考えられないのか?」


「!? なんだよ、そのどうしようもないモノでも見るかのような眼差し! 少なくとも、お前にだけはその眼差しを向けられたくはねえぞ!」


「またまた、照れちゃって」


「お前、実は宇宙人か何かだろ。会話が真面に成立しねえぞ」


「それは当然なんじゃないのかな。ゴリラが日本語を理解できないのとおんなじだよ」


「ん? 珍しいな。お前が自分を卑下にするだなんて」


「アッハッハ、最高の冗談だね! 座布団一枚!」


「…………」


「…………」


 流れるような動作で顔面へ殴打を繰り出す……が敵対者はさも未来を予知すたかのように小首を傾げるようにして回避。

 そのまま肘へ狙い定め痛烈な回し蹴りが披露される。


 俺はそれを大仰にバックステップすることにより回避、そのまま即座に『龍穿』を構築、そして射出――しようとした瞬間、全身に電流が。


「「あばばばばばばばばば」」


 どうやら鮮烈な電流が全身に幾重にも枝分かれした敏感な神経を侵され、悲鳴をあげているようだ。

 数瞬後、漏れ出る電流がようやく停滞する。


 口内から白煙を吹き上げる俺たちは、傍目からみればポケ〇ンのお約束な光景を彷彿とさせるだろう。


「……お兄ちゃん、ここは戦場だわ。慢心したら即座に首が吹っ飛ぶわよ。……そうなったら困るから、ちゃんと気張ってね」


「へいへい」


 注意喚起を促すのにあんな仕打ちをする必要性はあまりなかったような気もするが、言わぬが花であろう。

 と、次いでライムちゃんは冷淡な眼差しをレギウルスへ向ける。


「ゴリラ。――ふざけるなら、さっさと奈落に堕ちて地面の肥やしになって。そうなれば、きっと世界にとっても有益だから」


「だってさ」


「お前ら兄弟が仲睦まじいことはよーく分かったよ。死にな」


 そんな悪罵をスルーしながら、俺はなんとなしに企てた計略を回想していた――。




 詳しい説明は次回です

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